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第二話:夢の中から来た男を編集

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 この感触はなんだろう、ふわふわとした、やわらかい布団に包まれているようだ。それにここはどこだろう。
 ごく普通の疑問を浮かべて辺りを見渡すと、清々しいほどきれいな青色と、真っ白い綿のようなものが広がっていた。ここはまるで。

「雲の上。って感じだろう」

 穏やかな中年男性の声がした。
 振り向くと眼鏡に白いYシャツとネクタイ姿のいかにも優しそうなおじさんが歩いてくる。

「やあ、見てたよヒーローショー。怪獣ドメイドン役、お疲れ様」 

 明らかに怪しいおじさんに対し、この状況と覚醒したばかりの我が脳が導いた返答は。 

「どうも、ありがとうございます」

 もっと他に言うべきことがあったと思う。
 俺の間抜け面がおかしかったのか、おじさんは朗らかな笑みを作って。

「私はね、いろんなヒーローショーを見てきたけど、君のドメイドンの動きが一番良かったなぁ。自信に満ち溢れた演技は映画に出てくるドメイドンとそっくりだった。君、特撮大好きでしょ」
「え、まあ。好き……ですけど。あなたは?」

 相変わらず脳みそは混乱しているが、最低限の情報を集めようと、ようやく動き出してくれたようだ。

「おっと、失敬。同志に会えた嬉しさから名乗るのを忘れてしまった。私の名前はエイ。アルファベットのエイだ。まあ、みんなからはエイ神、エイジンと呼ばれているよ」 
「エイ神さん、ですか。神様なんでしょうか?なんかここ、雲の上みたいですし。俺、死んだんですか?」

 エイ神と名乗る人物は、胸ポケットからタバコを取り出して一服。

「うん、一つずつ答えていこう。まず君は死んではいない。意識不明の重体ってところかな。原因は熱中症、着ぐるみ怪獣の中に随分長く入ってたんだ。いくら怪獣が好きだからって、水分は取らなくちゃだめだよ」

 たしかヒーローショーのバイトをしてて、新しい着ぐるみが届いたから張り切って遊んで……いや、演技してショーが終ったところまでは覚えている。
 そんなことよりも、帰り道が分からないぞ。

「今、君の身体は病院で眠っている。おそらくこのままでも目は覚ますさ」 

 ここで暮らすことにはならなそうだ。

「えっと、ここは」 

 エイ神はタバコを味わい、ふうと吹かれた灰色の煙は、何事もなかったように青い空に消えていった。

「ここは精神だけの世界。時間の流れは元居た場所と異なるし、君がここでどんなに怪我をしても肉体は傷つかないさ」

 身体は病院で、意識はここ。幽体離脱ってことになるのか?

「そんな感じだね」
「そうですか。ではなぜ俺は貴方と話しているんですか?」 
「うん、理由は二つ。一つは君と話をしたかったから」 

 もう一つは。
 エイ神は長いままのタバコを灰皿にこすりつける。 

「もう一つは君にお願いがあってね」 
「お願い?」

 俺は世間から見れば凡庸な高校生だ。神様に頼まれるような徳を積んだ覚えはないし、たいそうな人物でもない。 

「うん、地球と違う世界に行って、ちょっと助けてほしい人たちがいるんだ。断っても全然かまわないけど、寝てる肉体が起きるまでちょっと時間がかかるかな」 
「じゃあ異世界に行ったら?」
「助け終わったら地球に帰って、ちょうど目が覚める。付け加えると時間の流れは私が調整しておく。だから、浦島太郎みたいにはならないさ」 
「暇つぶしとして異世界に行って人を助けたら、地球で目が覚めるってこと?」 
「うん、その認識であってる」 

 そんな都合のいいことがあるのか、この人絶対神様でしょ。 

「行ってもいいですけど……このままで大丈夫ですかね。身体はベッドの上なんですよね?」
「今の君は肉体と精神が離れた状態。何と言うか、意識はあるし痛みも感じる。すり抜けることも無いから安心してくれ。ともかく半人半霊というか、中途半端な存在だ。生活している分には普段と何も変わらないと思うよ」 

 断言しよう。今一つピンと来ない。
 俺のアホ面を見て申し訳ないと思ったのか、エイ神様は口を開いた。 

「なら君に特殊能力を上げよう。『どんな怪獣でも一瞬で変身できる能力』だ」 
「何それ、スゲー!」 

 俺のテンションは最高潮に達し、エイ神がポケットから取り出すボールペンのようなものに釘付けになった。

「なりたい姿や皮膚の質感などを思い描いて、そのカプセルの赤いボタンを押すんだ。次の瞬間には姿かたちが変わっているよ」
「特撮映画に出てくる変身アイテムみたいですね!」

 ライトグリーンをベースに黒の逆三角形の模様が入っている。風変わりな一品だ。  

「分かるかい?リスペクトしてみた。特撮はいいよね、人々の英知が詰まっている。寒天で海を作り、みそ汁から爆発を描いた。これほど知恵と努力で出来た作品はそうそうない。何より特撮は、CGと違って想定以上のことが起こるから面白い」

 激しく同意しよう。特撮は神である。
 
「最後になるんですけど、エイ神さんって神様ですか?」 
「ハハハ、そんな大した者ではないよ。飛行機と特撮が好きな、ただの変わり者さ」
 
 直後、巨大な飛行機がブロロロとエンジン音を響かせて、俺の頭上を飛んでいった。
 自称変わり者のエイ神様は、どこからともなく映画を上映するような年代物のカメラを取り出すと、カメラの取っ手を回し始めた。カラカラと心地よい音と一緒に雲の上に光の道が映し出される。

「その道を歩いていきなさい。もし異世界に着いて途方に暮れたら目の前に少女が現れる。彼女の力になってほしい」 
「分かりました!」
「うん、気を付けて。また会おう」

 また会おう?
 疑問に思いながら俺はカメラが映した道を歩き出す。時々振り返りつつ、エイ神に向かって手を振った。お互いが見えなくなるまで。
 さて、問題の少女を探そう。特徴は……何も聞いてないぞ。
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