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花音ルート
31話 幻
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彩華さんは徹底していた。
LINEは彼女の宣言通り、最後のメッセージを送った直後に俺をブロックしたようで、一切連絡がとれなくなった。
居ても立っても居られなくなった俺はすぐに彩華さんの自宅マンションに向かった。そして正面玄関のオートロックから彼女の部屋番号を入力して、何度も彼女を呼び出してみたもののもちろん反応はなし。
その後、我ながら気持ち悪いことに何回か彩華さんに部屋の近くでこっそり彼女を待ち続けてみたけど、結局彩華さんが現れることはなかった。
もちろんイル・マーレに彩華さんがお客さんとしてやってくることもパタリとなくなった。
そこで俺はやっと、彩華さんのマンションの合鍵を渡してもらっていないだけでなく、彼女の職場の場所も知らない、そして彼女の友人を紹介してもらったことも一度もないことに気がついた。
きっと彩華さんは最初から自分の言葉通り俺のことを「期間限定のパートナー」として扱っていて、いつ俺の前から消えても良いような状況を維持していたんだと思う。
そしてその「期間限定のパートナー」という関係が、俺が彩華さんにしつこく交際を迫ったことで破綻した瞬間、彼女は予定通り俺の前からいなくなった。まるで最初から存在していなかったかのように。
でも彩華さんが幻のように俺の前から消えることはできても、俺の記憶や心から彼女の存在を消すことはできなかった。
あまりにも大きいショックでその日から何も手がつかなくなった俺は、段々自暴自棄になっていった。
大学は休みがちになり、友人に会うことも一切なくなった。何もやりたくなかったし、誰にも会いたくなかった。
アルバイトだけはまた彩華さんが来てくれるかもしれないという淡い期待をもって続けていたが、同時に心のどこかでは彼女がまた現れることはもう二度とないことを確信していた。
そして彼女との出会いのきっかけになったイル・マーレで仕事を続けることを、俺は段々苦痛に感じるようになっていた。
俺の様子がおかしいことに気づいた家族や友人も、なんとなく俺が社会人の「彼女」に振られたことを察していたと思うけど、さすがにその話題に触れてくる者はいなかった。
そんなどうしようもない毎日を過ごしていながらも、なんとなく義務感で必修科目でかつ出席をとる講義だけは無理やり出ていたのは我ながらえらかったと思う。
「ちゃんと授業出ててえらいね」
だろう? 俺もそう思う。……うん?
まるで毎日一緒に過ごしているかのような自然な感じで俺に声をかけてから、当たり前のように俺の隣の席に腰をかけてきたのは、他学部生でその講義をとっているはずがない同級生だった。
ずいぶん久しぶりに会うというのに全然そんな感じがしない。そして目を細めて微笑む姿は、俺が彼女に初めて会った数年前と全く変わっていなかった。
LINEは彼女の宣言通り、最後のメッセージを送った直後に俺をブロックしたようで、一切連絡がとれなくなった。
居ても立っても居られなくなった俺はすぐに彩華さんの自宅マンションに向かった。そして正面玄関のオートロックから彼女の部屋番号を入力して、何度も彼女を呼び出してみたもののもちろん反応はなし。
その後、我ながら気持ち悪いことに何回か彩華さんに部屋の近くでこっそり彼女を待ち続けてみたけど、結局彩華さんが現れることはなかった。
もちろんイル・マーレに彩華さんがお客さんとしてやってくることもパタリとなくなった。
そこで俺はやっと、彩華さんのマンションの合鍵を渡してもらっていないだけでなく、彼女の職場の場所も知らない、そして彼女の友人を紹介してもらったことも一度もないことに気がついた。
きっと彩華さんは最初から自分の言葉通り俺のことを「期間限定のパートナー」として扱っていて、いつ俺の前から消えても良いような状況を維持していたんだと思う。
そしてその「期間限定のパートナー」という関係が、俺が彩華さんにしつこく交際を迫ったことで破綻した瞬間、彼女は予定通り俺の前からいなくなった。まるで最初から存在していなかったかのように。
でも彩華さんが幻のように俺の前から消えることはできても、俺の記憶や心から彼女の存在を消すことはできなかった。
あまりにも大きいショックでその日から何も手がつかなくなった俺は、段々自暴自棄になっていった。
大学は休みがちになり、友人に会うことも一切なくなった。何もやりたくなかったし、誰にも会いたくなかった。
アルバイトだけはまた彩華さんが来てくれるかもしれないという淡い期待をもって続けていたが、同時に心のどこかでは彼女がまた現れることはもう二度とないことを確信していた。
そして彼女との出会いのきっかけになったイル・マーレで仕事を続けることを、俺は段々苦痛に感じるようになっていた。
俺の様子がおかしいことに気づいた家族や友人も、なんとなく俺が社会人の「彼女」に振られたことを察していたと思うけど、さすがにその話題に触れてくる者はいなかった。
そんなどうしようもない毎日を過ごしていながらも、なんとなく義務感で必修科目でかつ出席をとる講義だけは無理やり出ていたのは我ながらえらかったと思う。
「ちゃんと授業出ててえらいね」
だろう? 俺もそう思う。……うん?
まるで毎日一緒に過ごしているかのような自然な感じで俺に声をかけてから、当たり前のように俺の隣の席に腰をかけてきたのは、他学部生でその講義をとっているはずがない同級生だった。
ずいぶん久しぶりに会うというのに全然そんな感じがしない。そして目を細めて微笑む姿は、俺が彼女に初めて会った数年前と全く変わっていなかった。
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