22 / 45
共通ルート
21話 苦難
しおりを挟む
「送ってくれてありがとう」
「ううん、こちらこそ今日もありがとうね」
「またLINEするから。気をつけて帰ってね」
「はーい、おやすみ」
「おやすみ」
――ちゅ
いつもの自然な流れで、俺は彩華さんに軽く口づけをしてから車を降りた。彼女は嬉しそうな表情で手を振ってくれてから車を運転して走り去っていった。
俺が彩華さんの部屋に遊びに行くのはバイトが入っている日がほとんどなので、俺の自宅から彩華さんの部屋への往復は通勤を兼ねて自転車を使うことが多かった。
でも大学帰りに直接彩華さんの部屋に寄る日は自転車ではなく、駅から徒歩で彼女の部屋に向かうため、その場合、彼女はありがたいことに毎回車で俺を自宅まで送ってくれていた。
ちなみにあの時盗まれた自転車が戻ってくることはなく、俺は新しい自転車を購入している。でも俺は自転車泥棒に対しては怒りの感情は全く抱いていなかった。あの時、自転車を盗まれてなければ俺と彩華さんは今の関係になれていないかもしれないから。
というか俺も車欲しくなってきたな。せめて免許は取りたい。いつも彩華さんに運転してもらってばかりでは申し訳ないから。
彩華さんは電車が好きではないみたいで、遠出をする時も飛行機が必要なレベルの距離でなければなるべく車を使いたい人らしい。
近い将来、一緒に旅行にも行きたいねって話になっているから、それまでに免許をとって運転を分担できるようになっておきたい。
「おかえりなさい」
運転免許のことを考えながらボーっと歩いていた俺は、マンションの共用玄関にある応接用のソファーで俺を待っていた人物の姿を確認して、思わずため息をついた。
「まーたそうやって人の顔を見てため息をつく……」
花音は拗ねたような顔でそんなことを言ってきたけど、その声はなぜか震えていた。
「順調そうだね。今の車、例のお姉さん?」
……そういうことか。
「ああ。順調だよ」
「……そう。よかったね。それにしても健気だね。車が見えなくなるまでずっと見送っちゃって」
「だろう?」
冗談っぽく皮肉を言ってきた花音だが、その目は少し赤くなっていた。いやいや待て。まさかここで泣いたりしないよな? ここうちの実家だぞ? 夜とは言ってもいつご近所さんが通るか分かんないんだぞ? 割とマジで勘弁して?
「……私じゃダメ?」
「えっ?」
「どうしてもあの人じゃなきゃ無理なの? 私じゃダメ? ずっと私のこと好きでいてくれたじゃん。どうしてたった数か月で気持ちを切り替えちゃうの?」
「ちょ、声が大きいって」
花音はなんとか涙はこらえていたものの、やや感情的になって俺に詰め寄ってきた。いやもう本当に勘弁してくれ……。
「前話したときはまだ付き合ってないって言ってたよね? だったら私にもまだチャンスはあるよね? 私、何したら良い? どうしたらもう一度私のこと好きになってくれるの?」
「いや待ってちょっと落ち着いて? とりあえず場所変えよう? ここはガチでヤバいから」
そう言いながら俺はとりあえずマンションのエントランスを出ることにした。俺が出ていったら花音もたぶんついてくるだろうから。
これ以上マンションの共用玄関で花音とのやりとりを続けて誰かに見られたり、会話を聞かれたりしたらたまったもんじゃない。というか花音がこんなに非常識なやつだとは思わなかった。
でもマンションのエントランスから出た瞬間、俺はさらなる苦難が訪れたことを思い知らされた。
何らかの理由で彩華さんが戻ってきたようで、俺がエントランスから出たのとちょうど同じタイミングでマンションの車寄せに彼女の車が進入してきたのである。
「ううん、こちらこそ今日もありがとうね」
「またLINEするから。気をつけて帰ってね」
「はーい、おやすみ」
「おやすみ」
――ちゅ
いつもの自然な流れで、俺は彩華さんに軽く口づけをしてから車を降りた。彼女は嬉しそうな表情で手を振ってくれてから車を運転して走り去っていった。
俺が彩華さんの部屋に遊びに行くのはバイトが入っている日がほとんどなので、俺の自宅から彩華さんの部屋への往復は通勤を兼ねて自転車を使うことが多かった。
でも大学帰りに直接彩華さんの部屋に寄る日は自転車ではなく、駅から徒歩で彼女の部屋に向かうため、その場合、彼女はありがたいことに毎回車で俺を自宅まで送ってくれていた。
ちなみにあの時盗まれた自転車が戻ってくることはなく、俺は新しい自転車を購入している。でも俺は自転車泥棒に対しては怒りの感情は全く抱いていなかった。あの時、自転車を盗まれてなければ俺と彩華さんは今の関係になれていないかもしれないから。
というか俺も車欲しくなってきたな。せめて免許は取りたい。いつも彩華さんに運転してもらってばかりでは申し訳ないから。
彩華さんは電車が好きではないみたいで、遠出をする時も飛行機が必要なレベルの距離でなければなるべく車を使いたい人らしい。
近い将来、一緒に旅行にも行きたいねって話になっているから、それまでに免許をとって運転を分担できるようになっておきたい。
「おかえりなさい」
運転免許のことを考えながらボーっと歩いていた俺は、マンションの共用玄関にある応接用のソファーで俺を待っていた人物の姿を確認して、思わずため息をついた。
「まーたそうやって人の顔を見てため息をつく……」
花音は拗ねたような顔でそんなことを言ってきたけど、その声はなぜか震えていた。
「順調そうだね。今の車、例のお姉さん?」
……そういうことか。
「ああ。順調だよ」
「……そう。よかったね。それにしても健気だね。車が見えなくなるまでずっと見送っちゃって」
「だろう?」
冗談っぽく皮肉を言ってきた花音だが、その目は少し赤くなっていた。いやいや待て。まさかここで泣いたりしないよな? ここうちの実家だぞ? 夜とは言ってもいつご近所さんが通るか分かんないんだぞ? 割とマジで勘弁して?
「……私じゃダメ?」
「えっ?」
「どうしてもあの人じゃなきゃ無理なの? 私じゃダメ? ずっと私のこと好きでいてくれたじゃん。どうしてたった数か月で気持ちを切り替えちゃうの?」
「ちょ、声が大きいって」
花音はなんとか涙はこらえていたものの、やや感情的になって俺に詰め寄ってきた。いやもう本当に勘弁してくれ……。
「前話したときはまだ付き合ってないって言ってたよね? だったら私にもまだチャンスはあるよね? 私、何したら良い? どうしたらもう一度私のこと好きになってくれるの?」
「いや待ってちょっと落ち着いて? とりあえず場所変えよう? ここはガチでヤバいから」
そう言いながら俺はとりあえずマンションのエントランスを出ることにした。俺が出ていったら花音もたぶんついてくるだろうから。
これ以上マンションの共用玄関で花音とのやりとりを続けて誰かに見られたり、会話を聞かれたりしたらたまったもんじゃない。というか花音がこんなに非常識なやつだとは思わなかった。
でもマンションのエントランスから出た瞬間、俺はさらなる苦難が訪れたことを思い知らされた。
何らかの理由で彩華さんが戻ってきたようで、俺がエントランスから出たのとちょうど同じタイミングでマンションの車寄せに彼女の車が進入してきたのである。
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】スパダリ幼馴染みは溺愛ストーカー
湊未来
恋愛
大学生の安城美咲には忘れたい人がいる………
年の離れた幼馴染みと三年ぶりに再会して回り出す恋心。
果たして美咲は過保護なスパダリ幼馴染みの魔の手から逃げる事が出来るのか?
それとも囚われてしまうのか?
二人の切なくて甘いジレジレの恋…始まり始まり………
R18の話にはタグを付けます。
2020.7.9
話の内容から読者様の受け取り方によりハッピーエンドにならない可能性が出て参りましたのでタグを変更致します。
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
冷女と呼ばれる先輩に部屋を貸すことになった
こなひじき
恋愛
真面目な会社員の主人公、音無健斗。彼は上司である『金の冷女』こと泉玲に憧れを抱いていたが、彼女は社内では無表情で周囲への対応の冷たさから全員と一線を置く存在だった。勿論健斗も例外ではなく、話す機会すらほとんど無かった。
しかし彼女から突然言われた「君の部屋を作業場として貸してもらえないかしら?」という一言によって、二人の関係性は急速に変化していくのである。
【R18】愛欲の施設-Love Shelter-
皐月うしこ
恋愛
(完結)世界トップの玩具メーカーを経営する魅壷家。噂の絶えない美麗な人々に隠された切ない思いと真実は、狂愛となって、ひとりの少女を包んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる