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我が半生
しおりを挟む君と俺との芸術的不一致については謎が多い。
池袋に初めて日が昇った時、君と俺はシャッターの閉まったドラッグストアの前に座り込み、お互いの脳みそをお互いのグラスのアルコールに付け合ってそれを眺めていた。
脳のシワから炭酸が生まれ、太陽を一目見ようとグラスを飛び出したがったが、それはまるで俺と君を見ているようだった。
彼の芸術は俺のあるべきはずの子宮によって産まれ、同じく俺の芸術も彼のあるべきはずの子宮によって産まれたのだろう。
アルコールの匂いが消えないお互いの子宮には六人の飢えた少年がいた。
インスタント食品を貪り水分は何一つ知らない六人の少年の喘ぎ声が熱狂のライブとなって馬鹿なオーディエンスの歓声を浴びている。
ピアノ奏者は死んで、サックス奏者は女と逃げた。
君は俺の死について考えた事があるだろうか?
俺君の死について考えた事がない。
しかし君がこの宇宙を、君が生まれる前よりも狭くしていると言うのなら、俺は君の死に全知を見るだろう。
宇宙のありふれた全てを君と俺で飲み干した夜を忘れない。
きっとそんな夜は俺と君以外の全ての生き物がセックスをしていた事だろう。
特別な夜とはそういうものだ。
高速道路を走る百年後のランボルギーニのタイヤのように俺と君は会話した。
シャッターの前で俺はぼんやり思う。
今日は俺も君もどこへも行けはしないだろうと。
それは、俺が君を俺だけのものであるような幻想を抱かせた。
無言の別れの後に俺と君を繋ぎ止めるものはお互いの体内に残ったお互いのアルコール臭い脳みそなのだ。
昨夜のわだかまりが残る悶々とした始発電車はそれを知っている。
昨夜の最終電車に飛び降りた男子高校生の顔と、俺の匂いを始発電車は知っている。
そんな始発電車には雑草など咲かないとこの詩の読者は思うだろう。
浅ましい朝刊も詩人気取りのSNSも、浮気性の批評家も腐ったイデオロギーも、若者顔の液晶も悲鳴の聞こえる雑居ビルも、全てはクソを喰らい、それと同じようにいつか君と俺の芸術は汚れた池袋の朝日を見て、煙草の煙がわざとらしく漂い、四つの眼を犯し、君と俺は汚れた涙を流すのだろう。
今日、俺が死のうと君が死のうと、
君と俺との芸術的不一致については謎が多い。
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