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勇佐の許可を得たエインセルは、商店街近くの保育園でアルバイトを始めた。
見た目は小学生な上にメイド服を着ているせいで、初日から園児達のアイドルになった。
掃除洗濯は園児達が居ない所でやるのだが、入れ替わり立ち代わり園児が見物に来た。保育士の先生がいちいち連れ帰らなければならないので保育の邪魔になっている様だが、仕事は昼食前からおやつの時間までの数時間のみ。保育もキッチリと時間を区切って教育すると言うタイプではないので、それほどは迷惑ではないと言われた。
「迷惑になる様だったら普通の服を着て行く?」
学校から帰宅した後のおやつを食べながら初日の報告を聞いていた勇佐は、そう提案した。
「子供は妖精の存在に敏感です。格好は関係無いでしょう。私が子供を利用したりかどわかしたりする妖精だったなら、持っているスキルの影響でもっと大騒ぎになっていたはずです」
「それか、大人の保育士よりは年齢が近いから、友達感覚で近寄って来るとか」
「言われてみれば、そんな感じかも知れませんね。実際には年齢は近くありませんが、見た目だけなら子供ですしね」
「あ、そうなの? ちなみにだけど、言い難かったら言わなくてもいいけど、エインセルって何歳なの?」
「ご存知の様に幼い頃は色々有って辛かったので、正確な年齢は数えていませんでした。大雑把に考えても良いのなら――」
エインセルは中空を見詰めながら過去を思い出す。
妖精は発生した直後から成体と同じ知恵と身体能力を持っている事が多いので、産まれてから迫害を受けるまではほんの数日。
迫害を受けていた時は妖精の里の周辺で隠れながら力を蓄えていた。その期間はおよそ十年から二十年。
妖精の里を滅ぼしてから魔王になるまでも同じくらい。
魔王軍が人間と戦争を始めて終わるまでは五年くらい。
戦争後、魔族を滅ぼして世界を壊すまでは、勇佐や啓太が生まれ変わって育った年齢から、十六年くらい。
「――全部合わせて、大体五十歳前後ですか。妖精としては若い方ですが、人間としては中年ですね」
「見た目小学生の五十歳、か……」
微妙な表情でメイド姿のエインセルを見詰める勇佐。
その視線を受けたオレンジ髪の少女は、頬を膨らませて怒った顔をする。
「産まれたばかりの園児と比較して中年と言っただけで、季節で生まれ変わる妖精を除けば、本当に若い方なんですよ?」
「分かった分かった。それはそれとして、間違っても子供の前で魔法を使わないでくれよ? 色々と問題が有るから」
「問題ですか?」
「例えば、小学校に上がったら違う保育園の子と一緒になる。そこで魔法を見た事が有るなんて言ったらイジメの元になっちゃうよ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうさ。この世界には魔法が無いんだ。無い物を有るって言ったら、普通はバカにされる。でも実際に見た事が有れば、意地になって存在を主張するだろう。そうなったら面倒な奴って思われてイジメられる」
「なるほど……人も妖精も異物を排除しようとするんですね」
「残念ながらね。イジメられる辛さはエインセルも知っているはずだろう? 気を付けてやってくれ」
「分かりました。今夜中に魔封じのアイテムを作り、明日からはそれを身に着けてアルバイトに行きます」
「うん。園児の相手はそれで良いけど、肝心の仕事の方は問題無かった?」
「主な仕事は食器洗いだけでしたね。子供が使ったコップを洗うので数は多いですが、割れない材質の物だったので難しくはありませんでした。正式に給金を貰える立場ではないので、そんな物でしょう」
「続けて行ったら楽しくなりそう?」
その質問に困った様な笑みで首を傾げるエインセル。
「子供は可愛いとの情報を頭に入れて子供と接してみましたが、特に感情が動く事はありませんでした。自分の行いを反省していない魔王のままだったら、躊躇無く皆殺しに出来たでしょう」
「おいおい、物騒な事は言わないでくれよ」
「大丈夫です。しませんから。ただ、純粋な妖精だった頃の心は完全に失っている様です。イタズラするにしても、一緒に遊ぶとしても、一目散に逃げるにしても、妖精の方も子供に興味を持つはずなんです。それが少し悲しかっただけです」
エインセルは、今度は悲しそうに笑んだ。その表情が本当に寂しそうだったから、勇佐はおやつを食べる手を止めた。
「それは初日で判断する事じゃない。何日か世話をして情が移れば、きっと可愛いと思えるさ」
「そうでしょうか」
「俺はそう思うよ。子供は妖精の存在に敏感なんだろ? そんな子供に好かれてるんなら、エインセルは今も妖精だよ。魔王とかそんな事を忘れて子供と遊べば、妖精としての心を取り戻せると俺は思うよ」
「ふふ。そうですね。ありがとうございます。一命さん」
「あ、勿論仕事はおろそかにしない範囲でね」
「分かってます。じゃ、夕飯の買出しに行って来ます」
「行ってらっしゃい」
見た目は小学生な上にメイド服を着ているせいで、初日から園児達のアイドルになった。
掃除洗濯は園児達が居ない所でやるのだが、入れ替わり立ち代わり園児が見物に来た。保育士の先生がいちいち連れ帰らなければならないので保育の邪魔になっている様だが、仕事は昼食前からおやつの時間までの数時間のみ。保育もキッチリと時間を区切って教育すると言うタイプではないので、それほどは迷惑ではないと言われた。
「迷惑になる様だったら普通の服を着て行く?」
学校から帰宅した後のおやつを食べながら初日の報告を聞いていた勇佐は、そう提案した。
「子供は妖精の存在に敏感です。格好は関係無いでしょう。私が子供を利用したりかどわかしたりする妖精だったなら、持っているスキルの影響でもっと大騒ぎになっていたはずです」
「それか、大人の保育士よりは年齢が近いから、友達感覚で近寄って来るとか」
「言われてみれば、そんな感じかも知れませんね。実際には年齢は近くありませんが、見た目だけなら子供ですしね」
「あ、そうなの? ちなみにだけど、言い難かったら言わなくてもいいけど、エインセルって何歳なの?」
「ご存知の様に幼い頃は色々有って辛かったので、正確な年齢は数えていませんでした。大雑把に考えても良いのなら――」
エインセルは中空を見詰めながら過去を思い出す。
妖精は発生した直後から成体と同じ知恵と身体能力を持っている事が多いので、産まれてから迫害を受けるまではほんの数日。
迫害を受けていた時は妖精の里の周辺で隠れながら力を蓄えていた。その期間はおよそ十年から二十年。
妖精の里を滅ぼしてから魔王になるまでも同じくらい。
魔王軍が人間と戦争を始めて終わるまでは五年くらい。
戦争後、魔族を滅ぼして世界を壊すまでは、勇佐や啓太が生まれ変わって育った年齢から、十六年くらい。
「――全部合わせて、大体五十歳前後ですか。妖精としては若い方ですが、人間としては中年ですね」
「見た目小学生の五十歳、か……」
微妙な表情でメイド姿のエインセルを見詰める勇佐。
その視線を受けたオレンジ髪の少女は、頬を膨らませて怒った顔をする。
「産まれたばかりの園児と比較して中年と言っただけで、季節で生まれ変わる妖精を除けば、本当に若い方なんですよ?」
「分かった分かった。それはそれとして、間違っても子供の前で魔法を使わないでくれよ? 色々と問題が有るから」
「問題ですか?」
「例えば、小学校に上がったら違う保育園の子と一緒になる。そこで魔法を見た事が有るなんて言ったらイジメの元になっちゃうよ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうさ。この世界には魔法が無いんだ。無い物を有るって言ったら、普通はバカにされる。でも実際に見た事が有れば、意地になって存在を主張するだろう。そうなったら面倒な奴って思われてイジメられる」
「なるほど……人も妖精も異物を排除しようとするんですね」
「残念ながらね。イジメられる辛さはエインセルも知っているはずだろう? 気を付けてやってくれ」
「分かりました。今夜中に魔封じのアイテムを作り、明日からはそれを身に着けてアルバイトに行きます」
「うん。園児の相手はそれで良いけど、肝心の仕事の方は問題無かった?」
「主な仕事は食器洗いだけでしたね。子供が使ったコップを洗うので数は多いですが、割れない材質の物だったので難しくはありませんでした。正式に給金を貰える立場ではないので、そんな物でしょう」
「続けて行ったら楽しくなりそう?」
その質問に困った様な笑みで首を傾げるエインセル。
「子供は可愛いとの情報を頭に入れて子供と接してみましたが、特に感情が動く事はありませんでした。自分の行いを反省していない魔王のままだったら、躊躇無く皆殺しに出来たでしょう」
「おいおい、物騒な事は言わないでくれよ」
「大丈夫です。しませんから。ただ、純粋な妖精だった頃の心は完全に失っている様です。イタズラするにしても、一緒に遊ぶとしても、一目散に逃げるにしても、妖精の方も子供に興味を持つはずなんです。それが少し悲しかっただけです」
エインセルは、今度は悲しそうに笑んだ。その表情が本当に寂しそうだったから、勇佐はおやつを食べる手を止めた。
「それは初日で判断する事じゃない。何日か世話をして情が移れば、きっと可愛いと思えるさ」
「そうでしょうか」
「俺はそう思うよ。子供は妖精の存在に敏感なんだろ? そんな子供に好かれてるんなら、エインセルは今も妖精だよ。魔王とかそんな事を忘れて子供と遊べば、妖精としての心を取り戻せると俺は思うよ」
「ふふ。そうですね。ありがとうございます。一命さん」
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