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第三十一話

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「話を私に戻しても良いでしょうか」
 話が一段落付いたと判断したカレンがそう言うと、雷神は無表情のまま頷いた。
「シオン教の巫女を連れて来て貰ったし、私もこの都市の存在を教えてくれた礼をすると言ったしな。話してみろ」
「ルーメンが頑固で話し合いが進まないとさっき言いました。けど、大陸南側の国はほとんど同じ反応なんですよね。完全に足並みを揃えないと戦争を終わらせられないのに、それが出来ない」
「出来たら何百年も戦争してないわな。文化レベルを保持しながら泥沼戦争を話し合いで終わらせた例は極端に少ない」
 無表情のまま肩を竦める雷神。
「それって他の世界の話ですよね? 異世界でもそうなんだぁ。やっぱりそうだよねぇ。無理だよねぇ」
 一人で頷いたカレンは、思い付いたように顔を上げて話を続ける。
「でも戦争を終わらせないと話し合いどころじゃない。そこで質問なんですけど、錬金術が進むと科学になって、もっと進むと超科学になるって聞いたんです。そこんところ……チョコチョコっと教えて貰えませんかね?」
 商人張りの揉み手で低姿勢になったカレンだが、雷神は即答で断った。
「絶対にダメだ。文化レベルが違い過ぎる。超科学で戦争を終わらせるとなると、一方的な弾圧、もしくは大虐殺になる。伝える事が許可されていたとしても、私個人の判断で断固拒否する」
「やっぱりダメかぁ。まぁ、そこは期待してなかったから別に良いです。それで解決してるなら、凄い魔法を使い放題な異世界人のルーメンがとっくになんとかしてるだろうし」
「超科学って言い出したのは余計な知識を持っている異世界人のルーメンか。この世界の女神が罰を与えないなら、言うだけなら無罪なんだろうな」
 ちょっと失礼と断ったカレンは立ち上がり、大きなリュックから豪華な装飾が施された一冊の本を取り出した。
 鍵付きの表紙を雷神に見せながら丸椅子に戻る。
「超科学がダメなら今有る力で解決しないといけないじゃないですか。そこで、錬金術で反則的な事をしようって発想に至った訳ですよ」
「ふむ。その本の存在がすでに反則だからな。消されていないそれを使うならさもありなん。で、どうするんだ?」
「魔法が長引く原因は、ちょいちょい魔法の天才が生まれて、そいつが新しい戦争の火種になるからだそうです。なら、天才が生まれなければ火種は起きない。でしょ?」
「短絡的だが、真理だな。ならどうする? 力を付ける前に殺すか?」
「殺しません。戦争を止めるために憎しみのタネを生んでどうするんですか」
「賢いな。好ましいぞ、その流れ。で?」
「戦争じゃなくて、魔法の方にちょっかい出そうと思っています。一言で言うなら、魔法が生まれる前の状態に戻すんです」
「魔法の歴史は、お前達がその知識を得た時に、この世界の女神が説明してくれた。つまり、5龍が健在だった時代に戻すつもりか?」
「はい。上手くいけば、多分、魔法が無くなるんじゃないかな。残ったとしても、魔法が超弱くなる。今回私達が来るよって雷神様にお伝えした遠距離通信魔法はきっと使えなくなるでしょうね」
「大問題だな。この世界の人間に大反対されるんじゃないか?」
「されるでしょうから、表のテルラ達と裏の私達で分かれてるんです。そこまでしないと話が前に進まないんですよ、残念ながら」
 錬金術の本を太ももの上に下ろしたカレンは、雷神の金色の瞳と視線を合わせる。
「魔法の仕組みは女神様とその眷属の領分です。そこのところに人間がガッツリと手を出すので、許されるかどうかの判断をして貰いたいんです。雷神様に、神としての目線で」
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