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第三十一話
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「私の出番ですか。私は何のために呼ばれたんですかね?」
丸椅子に座っている金髪ゴスロリ少女は、黒い布で包んでいる巨大な鎌を抱きしめながら雷神の顔を見た。持っていた本に布製のしおりを挟んでいる終始無表情でなんか怖い。
「うむ。私がどう言う存在で、なぜこの世界に来たかは知っているかな?」
「魔物問題の中心に居るルーメン王女が、なんらかの目的で召喚魔法を使ったら、代わりに雷神様が呼び出された、と」
金髪ゴスロリ少女に恐る恐る指を差された白髪混じりの黒髪ツインテール少女神が頷いた。
「そんなところか。で、だ。君はシオン教の巫女で間違いないかな? カレンより若く見えるが、正式な巫女なのか?」
「修行中ですが、正式な巫女です。こうして専用の刃物を持たされているのがその証拠です。名前はポツリ・ポツンです」
「よろしく、ポツリ。申し訳ないが、存在がこの世界に残るので私は名乗れない。それでも残っているのには深い訳が有るのだが、死の国の女神の話は長くなるので、今は省略しよう」
「はぁ」
「その訳のせいで帰れないので、ヒマ潰しにこの世界の文化や風習を調べていたのだが、シオン教についての情報がほとんど無い。巫女が人を殺す宗教らしいが、それは本当か?」
それを聞いたカレンが横で座っているポツリを見ながら引いた。
「え? ポツリって人を殺してるの?」
「それがシオン教の巫女の役目だから。何も知らない外国の人は無差別に殺すと思われがちだけど、勿論違うよ。殺すのは末期の病気で苦しんでいる人への安楽死と、極悪人の死刑執行くらい。そんなんだから、新人の私までは役目が回って来ないの。だから私はまだゼロ人」
話を聞いてた雷神が組んでいた腕を解いて前のめりになる。
「ふむ。それは神の教えでやっているのか? 例えば、神の言葉を記した聖書に従ってるとか」
「元々は北の寒い地域で暮らす原住民族の宗教で、それは布教を目的としていません。口伝で伝わっている物ですので、聖書はありません。私はシオン教の神に死神みたいなイメージを持っていますが、人によっては違うかも」
「神のイメージが定まっていない?」
「巫女に送られた死者は神による特別な裁判を受けて天国に行ったり地獄に行ったりします。しかし、先ほども言いましたが聖書が無いので、そこの教えを知らない人が居ます。そう言う人が神をどう思っているか分かりません。教会はそれを修正したりしません」
「あの世の概念が有ると。しかし、布教を目的としていなくて聖書が無い、か。そうすると信者数は少ないのかな?」
「ハープネット国だけの宗派なので、国教としては一番少ないかもですね。もしも聖書が有るとしたら、最初の移民が先住民族に嫌われない様に教義を纏めた物しかないと思います。一冊だけの禁書とか、そう言う感じゃないかな」
「ふむふむ、実に興味深い。面白いぞ。――素朴な疑問なのだが、巫女が死刑執行を行うそうだが、もしもそれが冤罪だったらどうなる?」
「健康な人や善人を間違いでも殺めたら巫女失格で自殺しなければなりません。それが私の殺めた人数がゼロの理由でもあります」
「厳しいな。まぁ、生死を扱うから当然か」
「ですね。で、そんな感じで問題無く100人神の元に送れば上位の神官になれます。それが巫女の目標になりますかね。ですので、魔物の出現は私にはプラスだったんですよね。殺しの練習が出来たから」
「巫女の仕事は分かったが、男の仕事はどうなんだ?」
「男性は初めから神官です。新人は勿論下位で、まぁ雑用係ですね。言ってしまえば丁稚です。良き心と身体のまま長く勤めれば上位になれます。上位は男女どっちも幹部って感じです」
「シオン教の神はこの世界で発生した信仰の神で、死の国の女神とは完全に別だな。まぁまぁ分かった。気にする必要は無さそうだ。――また後で細かい話をしよう。食事でもしながらな」
丸椅子に座っている金髪ゴスロリ少女は、黒い布で包んでいる巨大な鎌を抱きしめながら雷神の顔を見た。持っていた本に布製のしおりを挟んでいる終始無表情でなんか怖い。
「うむ。私がどう言う存在で、なぜこの世界に来たかは知っているかな?」
「魔物問題の中心に居るルーメン王女が、なんらかの目的で召喚魔法を使ったら、代わりに雷神様が呼び出された、と」
金髪ゴスロリ少女に恐る恐る指を差された白髪混じりの黒髪ツインテール少女神が頷いた。
「そんなところか。で、だ。君はシオン教の巫女で間違いないかな? カレンより若く見えるが、正式な巫女なのか?」
「修行中ですが、正式な巫女です。こうして専用の刃物を持たされているのがその証拠です。名前はポツリ・ポツンです」
「よろしく、ポツリ。申し訳ないが、存在がこの世界に残るので私は名乗れない。それでも残っているのには深い訳が有るのだが、死の国の女神の話は長くなるので、今は省略しよう」
「はぁ」
「その訳のせいで帰れないので、ヒマ潰しにこの世界の文化や風習を調べていたのだが、シオン教についての情報がほとんど無い。巫女が人を殺す宗教らしいが、それは本当か?」
それを聞いたカレンが横で座っているポツリを見ながら引いた。
「え? ポツリって人を殺してるの?」
「それがシオン教の巫女の役目だから。何も知らない外国の人は無差別に殺すと思われがちだけど、勿論違うよ。殺すのは末期の病気で苦しんでいる人への安楽死と、極悪人の死刑執行くらい。そんなんだから、新人の私までは役目が回って来ないの。だから私はまだゼロ人」
話を聞いてた雷神が組んでいた腕を解いて前のめりになる。
「ふむ。それは神の教えでやっているのか? 例えば、神の言葉を記した聖書に従ってるとか」
「元々は北の寒い地域で暮らす原住民族の宗教で、それは布教を目的としていません。口伝で伝わっている物ですので、聖書はありません。私はシオン教の神に死神みたいなイメージを持っていますが、人によっては違うかも」
「神のイメージが定まっていない?」
「巫女に送られた死者は神による特別な裁判を受けて天国に行ったり地獄に行ったりします。しかし、先ほども言いましたが聖書が無いので、そこの教えを知らない人が居ます。そう言う人が神をどう思っているか分かりません。教会はそれを修正したりしません」
「あの世の概念が有ると。しかし、布教を目的としていなくて聖書が無い、か。そうすると信者数は少ないのかな?」
「ハープネット国だけの宗派なので、国教としては一番少ないかもですね。もしも聖書が有るとしたら、最初の移民が先住民族に嫌われない様に教義を纏めた物しかないと思います。一冊だけの禁書とか、そう言う感じゃないかな」
「ふむふむ、実に興味深い。面白いぞ。――素朴な疑問なのだが、巫女が死刑執行を行うそうだが、もしもそれが冤罪だったらどうなる?」
「健康な人や善人を間違いでも殺めたら巫女失格で自殺しなければなりません。それが私の殺めた人数がゼロの理由でもあります」
「厳しいな。まぁ、生死を扱うから当然か」
「ですね。で、そんな感じで問題無く100人神の元に送れば上位の神官になれます。それが巫女の目標になりますかね。ですので、魔物の出現は私にはプラスだったんですよね。殺しの練習が出来たから」
「巫女の仕事は分かったが、男の仕事はどうなんだ?」
「男性は初めから神官です。新人は勿論下位で、まぁ雑用係ですね。言ってしまえば丁稚です。良き心と身体のまま長く勤めれば上位になれます。上位は男女どっちも幹部って感じです」
「シオン教の神はこの世界で発生した信仰の神で、死の国の女神とは完全に別だな。まぁまぁ分かった。気にする必要は無さそうだ。――また後で細かい話をしよう。食事でもしながらな」
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