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第三十話

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 柔らかいベッドで一泊して疲れを取ったテルラ一行は、寄り道せずに王城へ向かう。補給等をして余所者が来たと噂が広まる前に、魔物の大本が居ると思われる場所に向かった方が良いと判断したからだ。
 宿に戻れるかどうか分からないため、完全にチェックアウトして荷物は全て持っている。
 カゲロウはこの国の武将だから顔パスで王城に入れるが、鎖国後は城門を潜った事が無いため、王様が今現在どこに居るかは分からない。だから確定ではないが、他に王様が居る場所が思い当たらないからしょうがない。
「ここにも門番が居ませんわね。しかし、荒れてはいません……」
 先頭のレイが城門を触る。鍵が掛かっていて入れない。王都で一番警備が厚い場所なので、無人でも簡単には入れない様だ。
「この様子ですと、裏口や使用人口も鍵が掛かっているでしょうね。一応確認してみますか?」
 レイが判断を仰ぐと、一行は城壁越しに王城を見上げた。
 城が政治の場になっている国なら日中に正門が閉じている事は無い。
 王族が象徴でしかない国なら閉じている事も有るが、王様の世話をする執事や家事をするメイドが窓から見える物だ。
 そう言った様子は一切無い。ここと同じく、中も無人なのだろうか。
「俺一人ならコソドロみたいに侵入するくらいなら出来るぞ。人が居るかどうか程度なら見て来れるが」
「グレイ一人では危険でしょう。人が居なくても、王を警護する魔物が居ないとも限りません」
 テルラは指の輪を作り、ガーネットの左目で王城を見た。
 潜在能力は一個も見えない。人は居ない。
 だが、不死ではない普通の魔物には潜在能力が付いていないので、見えない事は安全の保障にはならない。王様なら王城の奥の奥に居る事も有るだろうから、見えないから居ないとも言えない。
「まぁ、魔物の本拠地かも知れんしな。ならどうする?」
 グレイが肩を竦めると、カゲロウが周囲を見渡した。
「王族が通る隠し通路ならコッソリ入れるかも。そこが封印されてたら、結構な確率で中は無人ね。警備が居たらそこを知っている武将を警戒してるから、王族の誰かが居るわね。王族は王様とルーメン様しか居ないんだけど」
「そういうもんスか? レイ。私は王城の警備に詳しくないんで、カゲロウが言ってる事が正しいかどうかが分からないんスが」
 プリシゥアが訊くと、レイは取り敢えず城門から離れようと手を振ってから説明する。誰も居ない所で立ち話をしていると、とても目立つ。
「王族や貴族が住み暮らす大きな建物には、緊急避難用の隠し通路が絶対に有ります。いざと言う時に速やかに逃げられる様に、普通は鍵を掛けません。そこが封印、つまり閉じられていたら、城の主を逃がさない意思表示になります。それは大抵謀反です」
「鍵を掛けないのは危なくないっスか? だって、王族が逃げられる通路なら、王族の部屋とかに近いところに有ると思うっスし」
 王城近くの民家の陰で落ち着いてから頷くレイ。
「今の状況で言うと、外のルーメンを拒否する事になりますから、鍵を掛けていたら、それはそれで謀反ですね。ただ、ルーメンは王を守りたいと考えています。その視点から見ると、ルーメンが城内に居て、王も居るのなら、王に危害を加えられない様に封印している可能性も考えられます」
「ほー。と言う事はっスよ、隠し通路がどう言う状況でも正確な推理は出来ない、って事っスよね?」
「そうなりますわね」
「中がどう言う状況か、やっぱり実際に見てみないと分からないって事スか」
「ここでくっちゃべっていても時間の無駄だ。さっさと決めろ」
 レイとプリシゥアの会話を止めるグレイ。その目は厳しくテルラに向いている。
 それを受けて頷いたテルラは女魔法使いに顔を向ける。
「入らなければ何も分からない様ですね。カゲロウさん、隠し通路の場所を教えてください」
「了解。でも、私は中に入らないわよ。そんなところから入ったらさすがに言い訳出来ないからね。隠し通路付近で隠れて待つわ」
「それで結構です。行きましょう」
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