上 下
251 / 277
第二十九話

2

しおりを挟む
 テルラ達が野営の準備を始めると、いきなりコテージが現れた。高床式で、カップケーキみたいな形の可愛らしい物だった。
「……こんな物、ここに有ったっけ?」
 大きなリュックからテント一式を取り出そうとしていたカレンが呟く。
 他の仲間達も、水使いフレッシも驚きで固まっている。
「これが有るから一人旅をしたかったんですよね。これはストレージと呼ばれる物で、ギフトのひとつです。今まで秘密にしていましたが、今更良いでしょう。リビングでの雑魚寝で宜しければ、こちらに入った方が安全ですよ」
 ルーメンは玄関に続く階段を上ってコテージの中に入って行った。
 それを追って、フレッシも中に入る。
 残された女性陣は無言で見詰め合い、それから視線でテルラに指示を願った。
「……折角ですので、安全な方に行きましょうか」
 野営の準備を切り上げてぞろぞろとコテージに入ると、すぐにリビングの様な空間に出た。中心にテーブルとソファーが有り、ルーメンが座って一息吐いていた。
「寝室はひとつしかなくて、私が使います。客間もひとつしかなくて個室だから、男の子のテルラくんが使った方が良いでしょう。そちらがキッチン。隣が浴室。トイレは有りません」
 リビングは円形で、外側に向かってそれぞれの部屋が有る様だ。
 だからリビングにはドアばかりが有って窓が無い。
 天井、もしくは屋根裏部屋に続くはしごが有るが、ルーメンはそれについては触れなかった。
「キッチン内部に隣の部屋が有って、そこは冷蔵庫になっています。昨日の内に食材をいっぱい詰め込んで置いたので、この旅では食料に困る事は無いでしょう。ちなみに、この中は明るいとは思いませんか? その秘密はアレです」
 天井を指差すルーメン。
 呆気に取られているテルラ達は、素直に天井を見た。光り輝く光の玉みたいな物が無数に埋め込まれている。
「アレは電球と言って、電気で動く物です。なぜこんな事をわざわざ説明するかと言うと、雷神様が来ていた服も電気で動く物だったからです」
 テルラがルーメンに向き直る。
「勝手に動いて天使みたいな形になった、あの服ですか?」
「ザックリと言うと、錬金術が進化すると科学になります。私が転生する前の世界は、科学の世界でした。だから分かりました。しかし、雷神様が着ていた物は、私の前世よりも進んだ物でした。超科学と言っても良いでしょう」
 リュックを床に下ろしながら慎重に理解するカレン。
「錬金術が進化すると科学になって、それよりも進むと超科学になる、と言う事ですか? ええと、それってつまり、雷神様は凄い未来から来たって事ですか?」
「凄い未来と同じ状態の異世界から来た、ですね。なので、雷神様に色々と訊きたかったんですが……拒否されてしまいました。でもまぁ、雷神様は図書都市に行きましたから、会おうと思えばまた会えます。希望はまだ有るでしょう」
 テルラ達が立ちっ放しな事に気付いたルーメンは、座ってくださいと言った。
 ソファーは広いので、全員が座れた。
「あの。ルーメン様がおっしゃっているギフトは、僕達が言う潜在能力の様な物なんですよね?」
「呼び捨てで良いわよ、テルラくん。――君のオッドアイで見れないみたいだから厳密には違うでしょうけど、後天的に女神から貰った物、と言う括りなら同じでしょうね」
「僕も呼び捨てでお願いします」
 私も私も、と手を上げるテルラのパーティメンバー。
 ルーメンが笑顔で頷いたのを見届けてから話を続けるテルラ。
「――それで、ですね、ルーメン。貴女はギフトを複数お持ちになっているみたいですが、いくつ持っているんですか?」
「それは秘密です。転生したボーナスは、ルール違反レベルで強力な物ばかりなので、手の内を晒すと世界を破壊する魔王にもなり得ますから。でも――」
 自分の手を見詰めるルーメン。
「私が新世界の神になれれば話が早いんですが、何をどう想像しても、創造しても、神の域には届かなかった。転生者は神になれないらしい。ですので、テルラとカレンの存在が、私の、リビラーナの救いなんです」
 さて、と膝を叩いて立ち上がるルーメン。
「お話しする時間はいっぱいあります。休憩はこれくらいにして、取り敢えず夕食の準備を始めましょうか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...