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第二十八話

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「開口一番、おかしな事を言いますね。明らかに私が意図する召喚ではなかった様です」
 魔力の圧力に押されながらも、ルーメンが気丈に言う。
「お前達の召喚は、前回行われた召喚と同じ方法で失敗した。分かり易いよう、敢えてな」
 部屋の空気が魔力に流されて緩やかに渦巻いているせいか、水中に居る様な息苦しさを感じる。
 それが邪魔だったのか、ツインテール少女が深呼吸の所作をした。すると魔力の流れが落ち着いた。
「仮に雷神と名乗ろう。私は雷の魔法を得意とする神だからだ。なぜ私が召喚を失敗させたのか。それは――」
 魔法陣の真ん中に立って腕を組んでいる雷神は朗々と語る。
 この世界で行われた死の国の女神の召喚が神の国で大問題になった。
 神の国で会議を行う場合、集合に数年、話し合いに数年、結論に数年と長い時間が掛かるのが常態なのだが、この話し合いは一ヶ月超で終わった。それくらいの大問題なのだ。
「死の国の女神が現れたこの世界が無事だったのは奇跡の幸運が有ったからだ。各方面から注目されても、この世界に問題が起こっていて触れなかった事も幸運だった。本来なら世界規模の神罰が下ってもおかしくないのに、幸運にも無事なのも問題だった」
 ツインテールの雷神は腕組みを解き、右手を閉じたり開いたりした。その手に魔力が吸い込まれ、部屋に充満していた空気の重さが解消された。
 落ち着きを取り戻したルーメンが訊く。
「死の国の女神の召喚は部下の報告とこの少年の話からしか聞いていませんが、貴女は、その死の国の女神と同じ現れ方をあえてしたとおっしゃいました。なぜそんな事をしたのですか? 訳が有るんでしょう?」
「もしももう一度召喚が行われようとした時、先制して忠告するために私が待機していた。させられていたのだ。二度と召喚が行われない様にするために、だ。全く、迷惑な話だ」
 雷神は終始無表情で気難しそうだが、口は良く回った。
「死の国の女神が一番古い神と定義するのなら、私は三番目に古い神だ。それくらい古く、かつヒマな神なら、ほとんどの神を一言で追い返す事が出来る。再び死の国の女神が寄って来ても、対等に近い形で会話出来る、らしい。会った事が無いので実際にどうなるかは分からんがな」
 雷神は金色の瞳でルーメンを睨む。
「ちなみに二番目は全ての神の頂点に立つ三柱の一柱、世界神。四番目は三柱の一柱の太陽神。その二柱に挟まれている私だが、実はそんなに偉くない。ただ古いだけだ。だから使いっぱしりさせられている。迷惑だ。本当に迷惑だ」
 深くて長い溜息を吐いた雷神は、カゲロウを見た後、「この部屋には居ないな」と言ってテルラの前に移動した。
 魔法陣を出る時、静電気が一瞬床を走ったが、雷神は意に介していない。
「キミの仲間に死の国の女神が残した本を持っている奴が居るだろう? それを是非見てみたいんだが」
「僕の仲間に、ですか? ええと、僕には良く分からないんですけど、雷神様はそれをご存じである、と言う事ですか?」
「ああ。待機中にこの世界の事を教えられたからな。魔物を根絶しないと300年後にこの世界が無くなると決定してから、死の国の女神の分身体が消えるまで。再び死の国の女神が現れた時に会話する参考とするために、ぜひその本が見たい」
 その時、ドアがノックされた。
 返事を待たずに開けられる。
 開けたのはレイだった。
「その本ならカレンが持っていますわ。ここに呼びますか? それとも――」
「私がカレンの方に行こう。この部屋は落ち着かない」
 雷神は忌々し気に魔法陣を踏ん付けた。
 また静電気が床を走った。
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