上 下
238 / 277
第二十七話

7

しおりを挟む
「ここからはテルラくんが興味有るお話にしましょうか」
 お茶を飲んで一息吐いたルーメンは、そこを一区切りとして話を再開させる。
「リビラーナ王国を戦争被害から救うにはどうすれば良いかと悩んでいる娘を見兼ねた父王は、自らを犠牲にして48匹の魔物を生み出しました。錬金術的に言えば、48匹のホムンクルスです」
 ルーメンは背筋を伸ばして続ける。
「父が残していた研究を調べた結果、ホムンクルスの一匹一匹が、魔法結晶を疑似賢者の石として、無限に分身を生み出す装置になっています」
「すみません。錬金術に詳しくないので、ちょっと分かり難いです」
 テルラが言う。
 ルーメンは女魔法使いに視線を送り、無言で補足を頼む。
「貴方達が持っている情報で言うと、王の身体を使って作られた不死の魔物達は、魔法結晶を消費して同類の魔物を増やしている、って事。召喚された死の国の女神様の状態に近いと言えるわね。違うのは自動で分身の術を使い続けているって部分かな。後、外国人を襲う事」
「もしかすると、死の国の女神も分身してるかもな」
 グレイがふざけて茶化すと、カゲロウは「かもね。知らないけど」と適当に受け応えた。
 テルラが理解したと判断し、ルーメンは語り部を自分に戻す。
「君達が不死の魔物を倒す度に王の身体の部品が王座に戻されています。初めは何か分かりませんでした。新鮮な肉片がちょこんと王座に乗っていたんですもの、謎でしかなかった。それが段々と人間の形を取り戻しています」
 ルーメンは「初めは王座を綺麗にしようとしましたが、気持ち悪くて触れませんでした」苦笑いする。
「不死を冠している通り、父もまだ死んでいないご様子。私は父の復活を望んでいますので、テルラくん達の活動を邪魔するつもりは有りません」
「では、魔物退治、いえ、リビラーナ王復活にご協力頂けますか?」
 テルラは前のめりになったが、ルーメンは渋い顔になった。
「ハイタッチ王子が行った実験の失敗により、荒らされた国土と殺された国民の復活は無理。魔法や奇跡に頼らず、努力で元に戻すしかありません。しかし、周囲は絶賛戦争中。魔物の脅威が無くなれば、弱っているリビラーナはあっさり侵略されるでしょう」
 ここでテルラくんに選択を迫ります、とルーメンは指を立てる。
「テルラくんに見付かった事により、私は次の作戦に移ります。作戦とは、神の召喚を行い、リビラーナ王国ごと別の世界に移動、もしくは新世界として独立したい、と言う物です」
「新世界として、独立ですか?」
「つまり、私を見逃してリビラーナ王国が新世界に消えるのを待つか。私を倒し、全ての魔物の元凶であるジビル・カサーラ・リビラーナにとどめを刺すか。ここで選びなさいって意味です」
 ルーメンは事務作業の様に淡々と言った。
「つまりって言っても意味が分からねぇよ。選択を迫るならちゃんと説明しろ。倒すって言っても、ルーメンの潜在能力が無敵で世界最強なら、俺達全員で戦っても勝てないんじゃねぇか?」
 グレイが悪そうな巻き舌で声を上げると、ルーメンはもっともだと頷く。
「この世界に戦争が有るからいけないんですよ、大前提として。なら、戦争が無い世界に逃げたい。例えば国民全員をエルカノートに避難させて、戦争が終わるまで我慢する手も有ります。でも、終わったその時にリビラーナ王国が無ければ帰れない。ここまでは分かりますよね?」
 頷くテルラ達三人。
「ならば、エルカノート王国がリビラーナ王国の権利を保証すれば良いのでは? 詳しい手続き等は難しいので、ここでは後回しの考え無しで言っていますが」
 レイが言うと、ルーメンは首を横に振った。
「それが戦争のタネになります。私が転生する前に生きていた世界では、それに近い原因を元にして1000年も争いやテロが絶えない地域が有りました。却下です」
 この世界でも大陸の南で何百年も戦争が続いている。更に数百年続くのは有り得ない話ではないので、レイはそれ以上何も言えない。
「そう言う知識が有る私は考えました。ならば神様に頼んで戦争が無い世界を新たに作れば良い、となったんです。帰る必要が無く、先住民が居ない世界なら、国境で争う理由が有りませんからね」
「まぁそうだな。だが、お前達は逃げられるとして、魔物はどうなる? この世界を混乱させたままにするのか?」
 追及するグレイに首を横に振って見せるルーメン。
「ハイタッチ王子を使った実験をしていた頃はそのつもりでした。ですが、父は死んでいなかった。私はこれから父の研究を調べ、王を元に戻すつもりです。そして、王を連れて新世界に行きます。ですので、魔物を放置するつもりはありません。彼らは王の一部分なんですから」
「研究って、錬金術だよな……。もしかすると、だから死の国の女神は……」
 グレイは一人こっそりと神の意志を推理した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...