上 下
234 / 277
第二十七話

3

しおりを挟む
「グラシラド国の人間はここで待て。もてなしは出来ないが、白湯くらいは出せる」
 褐色肌の大男は、村の入り口付近に有る、壁の無いあばら家にミマルン達を案内した。葉っぱで編んだゴザは敷いてあるが、王女や騎士兵士を座らせる様な場所ではなかった。
「キャンは聖人を村長宅まで案内してやれ。同行者は一名のみ。他はここで待機して貰おう。本来は客を招いたりしない村なので、みすぼらしさは我慢してくれ」
「村長とお会いするのでしたら、同行はわたくしですわね。よろしくて? プリシゥア」
「気を付けるっスよ」
 レイとプリシゥアが頷き合っていると、村の褐色肌少年が走って来て屈強な男に耳打ちした。
「あー、それと。金髪の少年と同い年くらいの赤髪の少女が居たら、そいつを含めて三人でも良い、との事だ」
「俺の事か?」
 不審に思っているグレイを値踏みする様に見る屈強な男。
「お前みたいだな。カタギじゃないっぽいが、村長が呼んでるなら仕方がない」
「三人でも良いって言い方なら、行っても行かなくても良いって意味になるよな? さて、どうするか」
 罠の可能性を考えるが、判断材料が少な過ぎて考えが纏まらない。
 村の少年はただの伝言係だった様で、用が済むとすぐに去って行った。
「人数は多い方が良いっス。頼むっス」
「しょうがないな。まぁ、確かに謎の村で言われるままに分断されるのは危険だしな。行こう」
 プリシゥアにお願いされたので、警戒係として村長に会う事にした。
「こっちだ」
 キャンの先導で村の大通りを歩くテルラ達。先頭レイ、しんがりグレイ、真ん中テルラと、いつもの隊列の形を取る。
 余所者の来訪が伝わっているのか、人っ子一人居ない。
 住居はやはり木造だが、全てが丸太を積み上げただけの武骨な建物だった。
「ここだ」
 キョンが立ち止まる。
 10人以上の褐色肌の男達が丸太を積み上げただけの建物を守っている。とても広い一軒家で、ここだけ背の低い植木で囲まれている。あからさまに重要施設なので、ここが村長邸か。
「武器やお荷物はこちらのお部屋に置いてください」
 入り口を塞ぐ様に待っていた褐色肌の女性が、玄関脇にある小部屋のドアを開けた。屋台で使う様な丸椅子が数脚有る、使用人待機室みたいな部屋だった。女性は使用人らしい格好ではないが、物腰がメイドなのでメイドなのだろう。
「銃の本体を置くんだから、弾はそのままで良いよな? コートのあちこちに仕込んであるから、出すのも仕舞うのも面倒なんだが」
 長銃と拳銃を椅子の上に置きながら訊くグレイ。
 女性は、玄関付近を守っている男性を手招きで呼んで相談した。
「ええと、そうですね。銃と弾を一緒に置く方が危険でしょうから、弾はそのままで結構です」
 テルラは大きなリュックを、レイは腰の剣をその部屋に置いた。
グレイは三丁の銃を持っているはずだが、椅子の上には二丁の銃しかない。
「こちらです」
 ボディチェックされずに応接間に通された。用心深かったり適当だったりと、かなりチグハグな感じだ。
 そこに居たのは、二人の若い女だった。
 正面の椅子に座っているのは、ほどほどに豪華なドレスを着ている女。二十代中頃で、見る人によってはレイより美人に感じるかも知れない。髪の色は朝日の様に眩しいオレンジ色で、その珍しい髪色が魔力の高さを物語っている。彼女が村長だろうか。
「――お前は!」
 ソファーに座っているもう一人の女が問題だった。
 魔法使いのローブを羽織っていて、片足が無い。
 その顔と足を見てグレイが目を剥いた。
「久しぶりね、テルラくん。レイ様。そして、グレイちゃん」
 そいつは、ハイタッチ王子と共に居て、グレイが足を撃った、あの女魔法使いだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...