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第二十六話

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 車椅子に座っている銀髪美女は、反転して去って行く軍艦を見送っているテルラ一行を興味深そうに眺めた。
 特に自分と同じ髪色の美女を見ている。
「あいつがエルカノートの王女だよ」
 視線に気付いたグレイが車椅子の美女に耳打ちする。車椅子を軋ませて喜ぶと思っていたグレイだったが、反応は素っ気なかった。
「ねぇ、グレイ。エルカノートの王女が見付かったのなら、もうエルカノートの港に向かう必要は無いですわよね?」
「まぁ、そうだな」
「だったら、練習航海はここで一旦おしまいにしても良いですわよね?」
「ん? どう言う事だ?」
「どうもこうも、目的だった大陸半周は達成したも同然でしょう? これ以上の航海は必要無いと思いますの」
「うん、まぁ、俺としては否定したいところだが、ポーカンカの港で沢山物資を積んだから、エルカノートの港に入ってもやる事は無いな」
「でしたら――」
 銀の鎧とラベンダー色のスカート姿のレイがグレイに笑顔を向けていた。
 それに気付いて会話を途中で止める二人。
「ああ、レイ。紹介しよう。この船の船長、オペレッタだ」
 グレイに紹介された銀髪の美女が令嬢スマイルになる。
「マグラグナ国、ジウージョ伯爵家長女、オペレッタ・ジウージョですわ。負傷により立てなくなりましたので、車椅子で失礼しますわ」
「わたくしはレインボー・イン・エルカノート。テルラを助けて頂いた事、心より感謝致します」
 王族スマイルになったレイは深く頭を下げる。
 貴族の社交辞令的な会話を続け、一区切り付いたところでオペレッタは高貴なオーラを仕舞った。
 型に嵌った挨拶は終わりだと悟ったレイも肩の力を抜く。
「レインボー様は、この後どうなさるおつもりですか?」
「当初の目的地はポーカンカの港でした。しかし、遭難と言うアクシデントのお陰で一旦中断されました。今後どうするかは、パーティリーダーであるテルラと相談してから決めますわ」
「そのテルラから聞いたんですが、王女様達は魔物の害の原因を探るためにリビラーナ王国を目指しているとか」
「ええ」
「しかし、大陸南側の諸国は、港町以外は危険です。戦争中ですので、平和な北側の様に徒歩では旅は出来ません。女子供は特に。国境越えは不可能と言っても良いでしょう。いえ、不可能と言い切りましょう」
 厳しい言葉に表情を引き締めるレイ。
「ならば、わたくし達の旅はここで終わりと?」
「それも選択肢のひとつですが――ここにはミマルン王女もいらっしゃいます。国境越えが不可能なら、この船で直接グラシラドに向かうと言うのはどうでしょう?」
「直接?」
「ええ。リビラーナ王国はグラシラド王国の北に有ります。ミマルン王女の案内が有れば、戦場に近寄らずとも目的地に向かえると思います」
「なるほど。良い案だと思いますわ。早速ミマルンと相談致しますわ。でも、オペレッタ様はそれでよろしいんですの? この船でどこかに向かっていたのでは?」
「私の事はオペレッタとお呼びください。――それを今グレイと相談していたんですわ。どうでしょう、グレイ?」
 顔を向けられたグレイは、頭を掻きながら短く応える。
「船長の判断に異論は無い」
「なら、この船はマグラグナ国に戻りますわ。その途中でレインボー様達をグラシラドの港に降ろしましょう。勿論、それ以外の国に降ろす事も可能です」
「願ってもないお話です。早速テルラと相談しますが、きっと喜んで受け入れてくださいますでしょう。それと、わたくしの事はレイと。今のわたくしはハンターですので」
「分かりましたわ、レイ。――では、シズ。目的地変更ですわ。最終目的地は故国マグラグナ。途中、グラシラドに寄りますわ。南に反転! ですわ」
 陰に控えていたメイドに向け、元気に指示を出すオペレッタ。
 メイドが一礼してから船内に消えると、中型船はゆっくりと旋回を始めた。
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