223 / 277
第二十六話
1
しおりを挟む
若い海兵は人生で一番緊張していた。彼が漕ぐ小舟に自国の姫とその仲間達が乗っているからだ。
安全が保てるギリギリまで近付いた船から船へと移る短い航海だったが、お陰で外洋でも安定していた。
「無事で何よりですわ! テルラ!」
軍艦から謎の中型船に問題無く乗り移ったレイとプリシゥアとカレンは、金髪少年の元気な姿を確認して駆け寄った。
銀色の鎧を着た銀髪美女に力いっぱい抱き締められるテルラ。
「レイ達も無事で良かったです。でも、ちょっと苦しいので」
テルラのタップを見て、亜麻色の髪の僧兵が二人を引き剝がす。
「はいはーい、興奮するのはそこまでっスよ、レイ。で、怪我とかないっスか? テルラ」
「はい、大丈夫です。プリシゥアも元気そうで何よりです」
黒髪をヘアバンドで留めておでこを出しているカレンは、一歩遅れてしまったせいで再会の挨拶に加われなかった。
手持ち無沙汰を誤魔化す様に甲板を見渡すと、見知った顔で目が止まった。
「あ、ミマルンも無事だったんだね。……え?」
褐色の肌で黒髪の女性の陰に立っている、赤髪黒コートの少女を二度見するカレン。
見間違いかと思い、もう一度見直した。
「ま、まさか、グレイ?」
「おう、俺だ。お前達は相変わらず元気でうるさいな」
「どうしてここに?」
駆け寄ろうとしたカレンを片手で制する、右目に百合の花を模した眼帯をしているグレイ。変に騒がれるのが嫌だったのでミマルンの後ろに隠れていたのだ。
「色々有って海に出ていたら、たまたまテルラを助けたんだ。とんでもない確率の奇跡の再会だった。テルラの話を聞いてお前達と合流させようと動いてたんで、こっちの再開は偶然じゃない」
赤髪を潮風になびかせているグレイは、こちらの船を伺っている軍艦を見る。乗り移った王女が心配なのか、緊迫感が見て取れる。
「王女が海で遭難したんなら船乗りの噂話になるだろうと思って、ポーカンカの港で情報収集したんだ。そうしたらエルカノートの港にそれっぽいのが居ると聞いたんで、だから北に向かって航行していたんだ」
ミマルンが続いて言う。
「まさかみなさんが軍艦に乗っていたなんて。この船は海賊船だからと距離を取ったんですが、迷い無くそちらから近付いて来ましたよね。どうして私達が乗ってるって分かったんですか?」
「それはですね――」
レイは、遭難中に無人島に辿り着いて一人の男と出会った事を話した。
「その男は魔法で遠くの様子が分かるとおっしゃいました。体格しか分からないそうですが、この船にテルラとミマルンらしき人が乗っていると感知しましたので、コンタクトしてみたんですわ」
話を聞いていたミマルンが神妙な顔をする。
「その魔法……もしかして、リビラーナ王国の『遠見のホーク』では有りませんか?」
「本人はバードと名乗りましたわ。リビラーナ王国の関係者ですの?」
レイは神妙な顔で訊く。
テルラとプリシゥアも再会の喜びを脇に置いてミマルンの顔を見た。
「優秀な遠見魔法でリビラーナ王国を守っていた武将です。望遠鏡以上の性能を持つ遠見の魔法が使えるのは彼くらいしか知りません」
「訳有りとは思っていたのですが、リビラーナ王国の関係者ですか……」
「向こうの軍艦に乗っているのなら、本人に聞けば確証を得られるのでは」
「確かにその通りなのですが……」
視線をミマルンの喉元に固定して動きを止めるレイ。
考え込んでいる様子なので、テルラが話に入る。
「リビラーナ王国の関係者なら、魔物について何かご存じかも知れませんね」
「それもその通りです。しかし、彼は5年くらい無人島生活をしていたとおっしゃいました。魔物の害が認知された時期と同じ頃です。同時期過ぎるので何も知らない可能性が高いですわ」
「なるほど」
「しかも、彼は自分の事を話したくない様子でした。下手に尋問すると、とぼけられるかウソを言うと思われます。そう言う性格の男に見えました」
「難しいですね……」
「だからと言って何もしない訳には参りませんので、尋問するならプロに任せた方が良いでしょうね。丁度海軍の方がいらっしゃいますのでお願いしましょう。それで構いませんね? テルラ」
「後で教会の魔法通信を使い、何か聞き出せたかどうかを問い合わせましょう。ここではそうするしかありませんね」
レイは、小舟に続く縄梯子の前で待機していた海軍の男にバードの尋問を頼んだ。
王女の命令と受け取った男は海軍式の敬礼を返す。
「了解しました」
「現時点では犯罪者ではないので、人道的でお願いしますね。口を割らなければ、国や王家と相談して、ほどほどの飴を与えても構いませんので」
安全が保てるギリギリまで近付いた船から船へと移る短い航海だったが、お陰で外洋でも安定していた。
「無事で何よりですわ! テルラ!」
軍艦から謎の中型船に問題無く乗り移ったレイとプリシゥアとカレンは、金髪少年の元気な姿を確認して駆け寄った。
銀色の鎧を着た銀髪美女に力いっぱい抱き締められるテルラ。
「レイ達も無事で良かったです。でも、ちょっと苦しいので」
テルラのタップを見て、亜麻色の髪の僧兵が二人を引き剝がす。
「はいはーい、興奮するのはそこまでっスよ、レイ。で、怪我とかないっスか? テルラ」
「はい、大丈夫です。プリシゥアも元気そうで何よりです」
黒髪をヘアバンドで留めておでこを出しているカレンは、一歩遅れてしまったせいで再会の挨拶に加われなかった。
手持ち無沙汰を誤魔化す様に甲板を見渡すと、見知った顔で目が止まった。
「あ、ミマルンも無事だったんだね。……え?」
褐色の肌で黒髪の女性の陰に立っている、赤髪黒コートの少女を二度見するカレン。
見間違いかと思い、もう一度見直した。
「ま、まさか、グレイ?」
「おう、俺だ。お前達は相変わらず元気でうるさいな」
「どうしてここに?」
駆け寄ろうとしたカレンを片手で制する、右目に百合の花を模した眼帯をしているグレイ。変に騒がれるのが嫌だったのでミマルンの後ろに隠れていたのだ。
「色々有って海に出ていたら、たまたまテルラを助けたんだ。とんでもない確率の奇跡の再会だった。テルラの話を聞いてお前達と合流させようと動いてたんで、こっちの再開は偶然じゃない」
赤髪を潮風になびかせているグレイは、こちらの船を伺っている軍艦を見る。乗り移った王女が心配なのか、緊迫感が見て取れる。
「王女が海で遭難したんなら船乗りの噂話になるだろうと思って、ポーカンカの港で情報収集したんだ。そうしたらエルカノートの港にそれっぽいのが居ると聞いたんで、だから北に向かって航行していたんだ」
ミマルンが続いて言う。
「まさかみなさんが軍艦に乗っていたなんて。この船は海賊船だからと距離を取ったんですが、迷い無くそちらから近付いて来ましたよね。どうして私達が乗ってるって分かったんですか?」
「それはですね――」
レイは、遭難中に無人島に辿り着いて一人の男と出会った事を話した。
「その男は魔法で遠くの様子が分かるとおっしゃいました。体格しか分からないそうですが、この船にテルラとミマルンらしき人が乗っていると感知しましたので、コンタクトしてみたんですわ」
話を聞いていたミマルンが神妙な顔をする。
「その魔法……もしかして、リビラーナ王国の『遠見のホーク』では有りませんか?」
「本人はバードと名乗りましたわ。リビラーナ王国の関係者ですの?」
レイは神妙な顔で訊く。
テルラとプリシゥアも再会の喜びを脇に置いてミマルンの顔を見た。
「優秀な遠見魔法でリビラーナ王国を守っていた武将です。望遠鏡以上の性能を持つ遠見の魔法が使えるのは彼くらいしか知りません」
「訳有りとは思っていたのですが、リビラーナ王国の関係者ですか……」
「向こうの軍艦に乗っているのなら、本人に聞けば確証を得られるのでは」
「確かにその通りなのですが……」
視線をミマルンの喉元に固定して動きを止めるレイ。
考え込んでいる様子なので、テルラが話に入る。
「リビラーナ王国の関係者なら、魔物について何かご存じかも知れませんね」
「それもその通りです。しかし、彼は5年くらい無人島生活をしていたとおっしゃいました。魔物の害が認知された時期と同じ頃です。同時期過ぎるので何も知らない可能性が高いですわ」
「なるほど」
「しかも、彼は自分の事を話したくない様子でした。下手に尋問すると、とぼけられるかウソを言うと思われます。そう言う性格の男に見えました」
「難しいですね……」
「だからと言って何もしない訳には参りませんので、尋問するならプロに任せた方が良いでしょうね。丁度海軍の方がいらっしゃいますのでお願いしましょう。それで構いませんね? テルラ」
「後で教会の魔法通信を使い、何か聞き出せたかどうかを問い合わせましょう。ここではそうするしかありませんね」
レイは、小舟に続く縄梯子の前で待機していた海軍の男にバードの尋問を頼んだ。
王女の命令と受け取った男は海軍式の敬礼を返す。
「了解しました」
「現時点では犯罪者ではないので、人道的でお願いしますね。口を割らなければ、国や王家と相談して、ほどほどの飴を与えても構いませんので」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。
倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~
乃神レンガ
ファンタジー
謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。
二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。
更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。
それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。
異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。
しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。
国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。
果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。
現在毎日更新中。
※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。
七夕の出逢い
葉野りるは
恋愛
財閥のお嬢様なんていいことないわ。
お見合いから始まる恋もあるのかもしれない。
でも、私は――
道端に咲く花を見つけるような、河原にあるたくさんの石から特別なひとつを見つけるような、そんな恋をしたい。
会社や家柄、そんなものに左右されない確かなもの。
私に与えられたこの狭い世界で、私は見つけることができるかしら?
見つけてもらうのではなく、自分で見つけたい……
■□■□■□■□
これはまだ携帯電話が普及する前の時代、恋を夢見る財閥のお嬢様のお話。
お見合い続きで胃の調子が優れなかったところ、偶然出逢った医師に突然の申し出をされる。
「あなたの胃が治るまで、私が交際相手になりましょう」
そこから始まった偽りの関係は……?
おおぅ、神よ……ここからってマジですか?
夢限
ファンタジー
俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。
人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。
そんな俺は、突如病に倒れ死亡。
次に気が付いたときそこには神様がいた。
どうやら、異世界転生ができるらしい。
よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。
……なんて、思っていた時が、ありました。
なんで、奴隷スタートなんだよ。
最底辺過ぎる。
そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。
それは、新たな俺には名前がない。
そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。
それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。
まぁ、いろいろやってみようと思う。
これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。
お嬢様として異世界で暮らすことに!?
松原 透
ファンタジー
気がつけば奴隷少女になっていた!?
突然の状況に困惑していると、この屋敷の主から奴隷商人の話を勧められる。
奴隷商人になるか、変態貴族に売られるか、その二択を迫られる。
仕事一筋な就労馬鹿の俺は勘違いをしていた。
半年後までに、奴隷商人にとって必要な奴隷魔法を使えること。あの、魔法ってなんですか?
失敗をすれば変態貴族に売られる。少女の体にそんな事は耐えられない。俺は貞操を守るため懸命に魔法や勉学に励む。
だけど……
おっさんだった俺にフリフリスカート!?
ご令嬢のような淑女としての様々なレッスン!? む、無理。
淑女や乙女ってなんだよ。奴隷商人の俺には必要ないだろうが!
この異世界でお嬢様として、何時の日かまったりとした生活は訪れるのだろうか?
*カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる