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第二十五話

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 男の案内で川の位置を確認したレイとカレンは、その川べりをほんの少しだけ下ってみた。清流は一旦池に溜まり、そこから三人が漂着した海岸の反対側へと流れて行っていた。
「あの池には、どこからやって来たのか、食べられる魚が居るよ。俺は釣りが出来ないし、罠を仕掛けても全然捕まえられないから、近付かないけどね。足元が不安定で怖いし」
「貴方、本当に見えていないんですの? 森の中でも歩行に不自由が無いみたいですけど」
 レイが訊くと、男は肩を竦めた。
「残念ながらわずかな光も感じないよ。歩けているのは魔法のお陰だけど、俺の魔力にも限りが有る。そうしょっちゅうは出歩けないんだ」
「そうですの」
 予備動作無しで剣を振るうレイ。男の鼻先の空間が切り裂かれた。目が見えているなら何かしらの反応をするはずだが、ピクリとも動かなかった。
「おっと、何かした? 不自然な風を感じたけど」
「そんな事より、テルラ達を探してくださいな。その約束でしょう?」
 平然と剣を鞘に納めるレイ。
 男は頷き、汚く長い髪を掻き揚げた。顔の造りは普通で、やはり20代か30代くらいだった。
「じゃ、お前達が流れ着いた場所まで先導してくれるかな。海の上で別れたんなら、そっちの方向に居るだろうからね」
「了解ですわ。行きますわよ、カレン」
「私は使えそうな薪を拾いながら行くから、二人の後ろを歩くね」
 カレンは目線でレイに合図を送った。ポケットに入れられたままの右手は拳銃を握っている。
 察したレイは、先導して砂浜に出る。
「この小舟に乗って参りましたの」
 レイは砂の上に置いてある小舟を軽くノックした。
 男は形を確かめる様に小舟を撫でた後、海の方に顔を向けた。
「探すのは二人だっけ? 身長と体格はどんな感じ?」
「一人は10歳の男の子ですわ。身長はわたくしの胸くらい。体格は標準ですわね。一年のハンター生活で子供らしいぽっちゃり感は無くなりましたわ。もう一人は女性。わたくし達と同じくらいの身長ですわ。体格は、剣士だからか、ちょっと筋肉質ですわ」
「その二人なら、あっちの小島に居るね。多分間違いない」
「もう見付けましたの!?」
 驚くレイ。
 遅れて来たカレンも、抱えていた薪を乾いた砂の上に投げ置いて駆け寄る。
「海に沈んでいたら探せないし、遠過ぎても分からないけど、これくらいなら何とか。あちこちの小島に海賊の隠れ家が有るってのに、よくもまぁ誰も居なくて水が有る島に漂着したもんだ。君達もだけど、運が良いな」
「で、二人は無事ですの? 怪我は?」
「怪我までは分からないよ。見えてる訳じゃないから。二人が居るのはこの島を一回り小さくした感じの島だ。女の方が森、って言うか、向こうの規模は林か。そっちに入って地理を確認しているっぽい。男の子の方は海岸に座って動かないね。何をしてるのかは分からない」
「恐らく、わたくし達が流れて来ないかと見張っているんですわ。無事で良かった……」
 胸を撫で下ろしたレイは、深呼吸してから身体に元気を漲らせた。
「居る方向が分かったのなら、早速合流しませんと!」
「いやいや、もう夕方だし。海に出るなら、ええと、何て言うの? 漕ぐ奴」
 舟を漕ぐ身振りをするカレンを指差し、答えを言う男。
「オール?」
「そう、オール。それを作らないと、また海流に流されてテルラが居る小島に行けないよ。下手すりゃ海賊に見付かって終わりだよ。海賊の隠れ家があちこちに有るって、彼、言ってたし」
「むぅ。確かにオールは必要ですわね。ひっくり返った時に、どこかへ行ってしまいましたものね」
 レイがもどかしそうに唇を嚙んで小舟を睨むと、男は砂浜に座って「まぁ落ち着けよ」と言った。
「向こうの島にも水が有るし獣も居る。一日二日くらいなら全然生きて行ける。向こうは全然問題無し。問題有りなのは俺の方だよ」
 芝居染みた溜息を吐く男。
「遠距離を探ったから魔力が尽きた。俺はもう動けないから、夕飯作ってよ。それに、掃除がまだ終わってないだろ?」
 忌々し気に男を見るレイの肩を叩くカレン。
「一応は助けてくれた人をそんな目で見ないの。じゃ、私は夕飯の準備をするから、レイは水汲みよろしく」
「俺は魔力が回復したら仕掛け罠を探ってみるかな。ハンターで旅をしてるなら、調味料、持ってるでしょ? 久しぶりに調味料を使った料理が食べたいな、カレンちゃん」
 仲間みたいに会話に入って来る男を無視したレイは、水筒と空の鍋を持って森の中に入って行った。
 カレンは、それを見送って肩を竦めた。
「食材が増えるのは歓迎だから良いけど、もう一回馴れ馴れしく呼んだら私も嫌うからね。で、貴方のお名前は?」
「俺? 俺は――バード。よろしく」
「偽名? 自分の名前なのに考えてから言ったでしょ」
「そこは気にしないで。こっちも君達を信用してる訳じゃないって事で」
 バードはカレンのポケットを指差した。拳銃を持っている事を承知しているとカレンは受け取り、異性と居る事実に緊張を新たにした。
「って言うか、テルラのせいで感覚がマヒしてたけど、男と二人で居るって危ない事なんだよね」
「はは、まぁそうだね。じゃ、カレンさんが落ち着いて料理が出来る様に、罠を見て来るよ」
 バードは立ち上がり、森の中に入って行った。
 残されたカレンは、海水で湿った乾燥果物をどう料理しようかと首を捻った。
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