上 下
204 / 277
第二十三話

9

しおりを挟む
 遅れて到着したゴールドグラスの勇者と兵士達が残り二匹の巨大ミミズをすんなりと倒した。
 その片方が不死の魔物だったが、ミミズなのでどこが頭か分からない。なので、不死の魔物である一匹だけを持ち運べる大きさにカットして街に持ち帰り、その全てを酸で溶かす事にした。
 大変な作業だが、どのみちミミズの身体から出て来た無数の金塊も全て持ち帰らないといけない。金塊は足の無い馬くらいの大きさでかなり重いので、祭を中止にし、街から追加の労働者を動員した。
「偉い人はこの場のノリでホイホイ決めてるっスけど、街の人に不満が溜まらなければ良いんスけどねぇ。祭を滅茶苦茶楽しみにしてたっスから」
 プリシゥアは偉い人の一人であるレイの背中を見ながらひとりごちたが、街に帰ってみればその心配は杞憂だった。
 街中に沸いたミミズも少量の金を蓄えていて、ミミズを退治した者はその金を自分の物にしても良いとエルカ家が公言していた。街の住人でも、今回に限っては没収されない。役所に持って来れば、予算の都合で一日の上限は有るが、特別に割安で換金してくれる。
 大量のミミズが地面から出て来た事と地震で下町の住居の大半が傾いていたが、子供達は誰もそれを気にせず、祭そっちのけでミミズ退治に精を出していた。
「じゃ、私達も貰って良いのかな?」
 ナイフを取り出して目を輝かせているカレンに頷くテルラ。
「ハンターは魔物を退治する物です。路銀は必要ですし、子供達の邪魔にならないなら構わないでしょう」
「よっしゃ! じゃ、テルラ、ちょっとリュック預かって。倒して来る!」
「ミミズは気持ち悪いんじゃなかったっスか? カレン」
「金が貰えるなら話は別。プリシゥアもやろうよ!」
 プリシゥアに視線で伺われたテルラは、こちらも頷きで許可した。
「待つっス、カレン! 私もやるっス!」
 近くのミミズに襲い掛かる仲間二人を見送りながらその場に座るテルラ。珍しく項垂れ、深い溜息を吐く。
「どうしました? テルラ。元気が無い様ですが。ゴールドドラゴンに連れ去られた時にどこか痛めましたか?」
 心配そうに金髪少年の横に座るレイ。
 ミマルンも近くに座る。
 今日は走り詰めで疲れた。
「いえ。前の街と今回とで、二連続で街が破壊されました。連続で街に甚大な被害を出した事に無力さを痛感しています」
「テルラが責任を感じる事はございませんわ。今回はゴールドドラゴンでもどうにも出来なかった様ですし。状況を説明してくださればまだ対処のしようが有りましたが、どうやら言葉を話せないご様子でしたし」
 テルラの手を握るレイ。
「とにもかくにも、この街の不死の魔物は倒しました。処理はこれからですが、結果をちゃんと国に報告する様に釘を刺しておきましたので、この街に来た理由は一件落着です」
「……そうですね。休憩して体力回復したら、今度こそ港町に出発しましょう」
 余り納得していなさそうな笑顔のテルラの横で曲刀を抜くミマルン。金塊に何度も当たっていたので、刃こぼれが無いか確認する。幸い、研ぎが必要な状態にはなっていない。
「しかし、今まで街の外でしかなかった魔物の害が、二連続で街の中で起こっているのは気になりますね。ネズミとミミズだからと言う理由なら問題は無いのですが、私達が気付いていない状況になっているのではと言う不安は残ります」
「ミマルンのおっしゃる通りです。魔物退治専門ギルドの立ち上げを急いで貰い、世界中のハンターと情報を共有する必要を強く感じます。カレンとプリシゥアが戻って来たら、すぐに宿を取って手紙を書く事にしましょう」
 黒髪少女と亜麻色の髪の僧兵が腕ほどの太さのミミズを退治してはしゃぎながら小さな金塊をほじくり出している様子を見たテルラは、あっと声を上げて訂正した。
「宿は地震と土壌の軟化で潰れているかも知れませんから、ハンターとしてはルール違反ですが、教会に一泊と通信をお願いした方が良いかも知れませんね」
「そうですわね」
 笑顔で頷いたレイは、必要も無いのにいつまでもテルラの手を握っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬
ファンタジー
 才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。  羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。  華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。  『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』  山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。  ――こっちに……を、助けて――  「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」  こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――

お嬢様として異世界で暮らすことに!?

松原 透
ファンタジー
 気がつけば奴隷少女になっていた!?  突然の状況に困惑していると、この屋敷の主から奴隷商人の話を勧められる。  奴隷商人になるか、変態貴族に売られるか、その二択を迫られる。  仕事一筋な就労馬鹿の俺は勘違いをしていた。  半年後までに、奴隷商人にとって必要な奴隷魔法を使えること。あの、魔法ってなんですか?  失敗をすれば変態貴族に売られる。少女の体にそんな事は耐えられない。俺は貞操を守るため懸命に魔法や勉学に励む。  だけど……  おっさんだった俺にフリフリスカート!?   ご令嬢のような淑女としての様々なレッスン!? む、無理。  淑女や乙女ってなんだよ。奴隷商人の俺には必要ないだろうが!  この異世界でお嬢様として、何時の日かまったりとした生活は訪れるのだろうか? *カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

アルヴニカ戦記 ~斜陽国家のリブート型貴種流離譚~

あ・まん@田中子樹
ファンタジー
【百年の闘争の末、大陸はひとりの少年の登場によって歴史を大きく塗り替える】 戦争が100年続いているアルヴニカ大陸の「百年戦役」……。 この100年間で実に13もの国が滅び、5つの国へと絞られた。 そして、今、まさにひとつの国が堕ちようとしていた。 誰もが絶対に命を落とすと思っている隣国レッドテラ帝国との最後の1戦……戦力差は実に10倍以上、歴戦の知将もいなければ、兵を鼓舞して士気をあげ、戦力差を覆す武を誇る勇将もいないキサ王国。 そんな死地の最前線へ立たされた主人公サオン、彼には確実な死が待っている。だが彼の運命は意外な変化を遂げる。 これは、才能の欠片もない平凡な主人公が、英雄への道を歩む軌跡を描いた物語。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...