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第二十二話

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 エルカノート国は国土のほとんどが平野と草原だが、目的地の山脈が近付いて来ると緩い上り坂が増えて来る。登っている事に気付かないくらい平坦な坂も有るので、気を付けずに今まで通り歩くと知らない内に体力が奪われている。
 そんな主要街道を進んでいると、しんがりを務めるプリシゥアが歩きながら聞いて欲しいと切り出した。
「もうすぐゴールドグラスっスが、あの街には特別な注意事項が有るっス」
「ああ、そうでしたわね。あそこは王家の親戚であるエルカ家が統治している街。その特殊性は幼い頃に学んでおりますわ」
「僕も聞いています。確か、慈善事業で国中の孤児や無宿者を集めていて、金鉱山やそこのサポートの仕事を斡旋しているとか」
 レイとテルラの言葉を聞いたミマルンが納得の頷きをする。
「だからですか。この国に入った頃から浮浪児を見掛けないなと思っていたんです。もしかして、その慈善事業のお陰ですか?」
 先頭を歩いているレイが、真横を歩いているミマリンを横目で見て頷く。
「他の国の犯罪傾向を調査すると、浮浪児による万引きやひったくりが多いと知ります。無宿者も、仕事さえ有れば普通の国民である場合が多い。我が国の治安は、鉱山管理を請け負っているエルカ家のおかげで高水準に保たれていると思います」
 素晴らしい、と感動するミマルン。
「砂漠を超えてエルカノートに入った頃から、下町特有の空気がどこにも無くてとまどっていたんです。女ですから下町を避けるのが必須なのですが、避けようとしても危険な雰囲気が無かった。今、謎が解けました」
「ただし、その分、あの街の治安は他に比べれば悪いっス。テルラとカレンは荷物に注意するっス。リュックが大きくて後ろが見えないっスからね。まぁ、そこは私が気を付ける部分っスが」
 プリシゥアの話を聞きながら背負っている旅道具を気にするカレン。今更だが、確かに後ろで何かされても気付かないかも知れない。
「治安が悪いのは浮浪児が集められてるから?」
 カレンは大きなリュックを背負い直しながら訊く。上り坂が多いせいか、普段より肩の食い込みが痛い。
「勿論、ちゃんと働いている子がほとんどっス。身体が出来ている大人の男は鉱山で働いていて観光街まで来ないっスから、暴力的な犯罪も他の街と同じくらいだそうっス。それ以外の女子供は街の入り口で観光業をしているから問題は無いっス。って話っスが、全ての子供が行儀良く仕事をしてる訳じゃないらしいっスからね」
「そことんところは他の街と同じって事か」
「後、金山の奥の方は刑期数年程度の犯罪者が集められた刑務所になっていて、強制労働させられているそうっス。その犯罪者がたまに脱走するらしいんス。それも注意っス」
 頷くパーティメンバー。
 今まで立ち寄った街でも、街の拘置所から逃げ出した犯罪者を捕まえてくれと言う依頼がハンターに出されている事が有った。そう言う依頼は生死不問が基本だった。危険そうな仕事を受けるほどお金に困ったことが無いのでスルーして来たが、ゴールドグラスではそんな依頼がいっぱい有りそうだ。
「脱走者を捕まえたら賞金が出るっスが、私達が絡まれない限り、全部子供達に任せるっス。子供達の仕事にもなってるっスから」
「子供の仕事を取っちゃダメだもんね。分かった」
「最後に一番重要な事を言うっス。街に入ったらすぐに観光街になっているので、子供達が道案内してあげるって寄ってくるっス。それはチップ狙いっスから、話を聞かずに断るっス」
「チップって何?」
 初めて聞く言葉に首を傾げるカレン。
「世話をしてくれた事に対するお礼のお金っス。案内が必要な旅行者なら払ってあげるべき物っスが、私達はハンターっスから道案内はいらないっス。断り方は『寄付先は決まっている』っス。寄付する気が無くても、こう言えば子供は諦めるっス。そう言うルールになってるっス」
「きふ?」
「子供達には兄弟が居ても親は居ないっス。そう言う子達が生きて行く上で一番必要なのは毎日の食事っス。お腹が空かなければ悪い事をしないって理屈を掲げて、教会や領主が認めたボランティア団体が無料で食事を配って犯罪抑止をしてるんス」
 プリシゥアの話を引き継ぐテルラ。
「食事を配るにもお金が必要です。ですので、ボランティア団体は寄付を積極的に受け付けています。教会には普段からお布施が有るので頼まれなくても慈善事業は行いますが、特異な街ですので、貴族やお金持ちが少なく余裕が有りません」
「それが『寄付先は決まっている』って言えば納得して貰える理由って訳か」
 納得するカレン。
「あの街に向かうと決めていましたから、大聖堂から寄付金を預かっています。ですから、寄付する気は有るので遠慮無く案内を断ってください」
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