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第二十一話

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 パッと見渡しただけでも、数千人の人がテント村で生活している。
 かなりの規模だ。
 鳴り響いている大音量の音楽が明るく、子供達が元気に笑いながら走ったりしているので、避難民にありがちな暗く疲れた雰囲気は無い。
 女性は屋外での家事で忙しそうなので、テントの前でタバコの煙を燻らせていた、中年以上老人未満くらいのヒマそうな男性に話し掛けるテルラ。
「あの、このテントの群れは何事でしょうか」
「あ? ああ、これはネズミのせいだ」
「ネズミ?」
 男は不味そうに煙を吐く。
「俺達は街からの命令で壁の外に出されただけで、ネズミのせいだとしか知らされていない。詳しい事は偉い人に訊いてくれ。俺は音楽が聞きたい。静かにしてくれ」
「音楽……」
 目の前の男の他にも、思い思いの姿勢で耳を澄ましている人が居る。
 状況から察するに、避難民への慰安で音を鳴らしているのだろう。
 それなら邪魔しては悪いな、と思ったら曲と曲の間の静寂になった。
 今ならば、とカレンが手短に質問する。
「この歌は何なんですか?」
「この街の勇者が歌ってるんだよ。ここは金山の街に行く中継地点になってるのは知ってるよな。アンタら旅行者みたいだし」
「うん。人の出入りが多い街は旅道具の入手がし易い、ってのが寄った理由だもん。まさに中継地点」
「買い物以外でも金を落として貰おうと、どっかの国のエンタメの真似をした、だったかな。狙いは成功して、今ではコンサート目的の旅行者も居るって話だ」
「勇者がエンタメの真似? って事は、歌ってたのってこの街の勇者なの? 女の声だったけど」
「そう。歌ってるのは女勇者。三人。男勇者は歌わない普通の勇者で、今も二人でネズミ退治に参加しているはずだ。街の中で」
「そのネズミと言うのは何なんですか?」
 テルラが訊くと、次の曲が始まった。
 男はタバコを咥え、そっぽを向く。もう口を開きたくないと言うアピールだろう。
 これ以上の会話は無理そうなので、話が聞ける人を探しにテントの群れの隙間隙間に出来ている通路を進んだ。
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