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第二十一話

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 テルラ一行は平らに整備された街道を進んでいた。
 自分達は女子供のパーティだからか、野党に狙われたり男性ハンターにナンパされたり誘拐されそうになったりする。人々を守るためにハンター活動をしているのに人間から危害を受けるのは笑い話にもならないので、普段は悪い奴に見付からない様に森の淵や通行量の多い道を選んで危険を回避している。長い旅の中で得た知恵だ。
 だから今も大きな街に繋がっている国の主要街道を堂々と歩いている。旅に必要な保存食等を補給しなければならないので、必要な寄り道だ。
「おかしいっスね。誰ともすれ違わないっス」
 パーティの殿を務める亜麻色の髪のプリシゥアが首をかしげる。すれ違う人が多いとスリ等に注意しなければならないので別の注意力が必要なのだが、これでは気持ちの切り替えが空回りしてしまう。
「魔物が出て旅行者が減ってるんだから、別に普通じゃない?」
 黒髪を上げておでこを出してスカーフで止めている荷物持ちのカレンが周囲の草原を見渡しながら言う。見晴らしが良いので、人影はおろか、魔物の姿も無い事が良く分かる。
「ここは都会な地域じゃないっスが、観光地に向かうための中継地になっているっス。だから特別栄えているはずなんスよ」
「観光地って、わたくし達が現在の目的地にしている金山ですわよね」
 先頭を行く銀髪のレイが、遥か彼方にうっすらと見える山脈に視線を向ける。
 その隣を歩いている黒髪褐色肌のミマルンも無言でそちらを見た。到着にはまだまだ日数が掛かりそうだ。
「そうっス。歩きはともかく、馬車にも出会わないのは不自然っス。でもまぁ、ここまで来たらどこを歩いても同じなんで、このまま行くっス」
 旅慣れた足で進むと、街を囲む高い壁が見えて来た。石やレンガではなく、木製なので、やはり都会ではない事が分かる。
 しかし、屋上に周囲を警戒する櫓が有る立派な建造物なので、この街の規模は相当な物である事も分かる。
 そんな街に入るための門の前に大量のテントが張ってあって、大勢の人が生活していた。
「なんですの? この有様は」
「まるで難民キャンプの様ですね」
 先頭のレイとミマルンが立ち止まったので、その後ろに居た荷物持ち担当の二人、カレンと金髪少年のテルラが横に広がって前方を見た。
「これでは街に入れませんね。明らかに異常事態の様ですが――」
 テルラが不思議がっていると歌が聞こえて来た。
 かなり遠くで鳴ってるが、歌詞の内容が判別出来るくらいハッキリと聞こえる。
「この音の感じ、北の国のコンサートっぽい。なんだっけ、アイドルだっけ。舞台の女の子を大勢の男の人が応援してた奴」
 カレンが耳を澄ますと、最後尾だったプリシゥアも前に出て来た。
「そうっスね。どこかに舞台が有って、音響魔法で増幅している感じっスね」
「なんにせよ、なんらかの事情が有るか、かなりの規模の異常事態が起こっている事は明白です。情報収集をしましょう」
 パーティリーダーであるテルラの指示に、女性四人は揃って頷いた。
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