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第十九話
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レインボー姫達が暮らす家の住所は本人達が居ないと言う理由で教えて貰えなかったので、ミマルンはクエストが無い時限定で教会の近くをうろついた。
テルラ達は、帰って来たらまず自宅に荷物を置き、旅の疲れを癒さぬまま教会で情報収集するとベリリムが教えてくれたから。
シスタートキミは教会内で待ってくださいと言ったが、異教徒なので遠慮した。異教と言っても同じ女神を信仰しているのだが、グラシラド国の教えは戦争上等な教義に変化しているので、平和と道徳を説くエルカノート国の物とはかなり違う。宗教的ないざこざを避けるため、意識して近寄らない方が良い。
個人的な思惑で教会の近くをうろつくとただの不審者になるので、『勇者の世話になっているから、この辺りの警備を無償でやっている』との言い訳を教会周辺の住人にしている。
そうして待ち人来たらずのヤキモキした日々を送っていると、数人の兵士が教会の門をノックした。
「シスタートキミは居られますか?」
「はい、私がトキミです」
兵士は周囲を警戒した後、声を抑えて要件を言う。
「我々は国中を回っている軍の定期連絡便兼物資補給係です。王女レインボー様の依頼を受け、王女様の鎧を持って来ました」
「鎧、ですか? 鎧だけですか?」
「鎧のみです」
革の鎧で武装している兵士達は、ほぼ手ぶらだった。
状況が良く分からないので門内に入って貰う。
「鎧だけ送るなんて、何か良くない事でも有ったんでしょうか」
「心配は無用です。異常気象が起こって極寒になっている北の国に行くので、金属鎧を着ていると危ないから、と聞いております。しかし指定された住所は無人でした。それもそのはず、北に行くとの理由で鎧を預けたのだから、鍵が開いている訳がありません」
「なるほど、ですから留守を預かっている私を訪ねて来た、と」
「一ヵ月以上留守にしている割には庭が荒れていないので、掃除はされている。ですので、役所に行って屋敷の管理をしている者は誰かと訊いたんです。――本隊は屋敷の前で待機しております。鎧を屋敷の中に運びたいのですが」
「分かりました。今、玄関の鍵を取って参りますので、少々お待ちください」
兵士を玄関先で待たせ、奥に引っ込むトキミ。
すぐに戻って来ると、褐色肌の女性が門の外でソワソワしていた。
兵士達と共に門の外に出たトキミは、褐色の肌を持つ異国人を怪しんでいる兵士達の前で、あえて親しげに話し掛けた。
「ミマルンさん。レインボー様達は北の国に行ったそうなので、ご帰還は予定よりかなり遅れるみたいですよ」
「あ、そうなのですか……。武装した人達と凄いイケメンの人が来たので、姫の護衛団かと」
「凄いイケメンの人?」
教会前の通りを見渡すトキミ。昼間なので人通りは少なく、目立って美形の人は居ない。
「あれ? 彼等の後ろを歩いていたので関係者かと思ったんですが、居ませんね」
ミマルンも通りを見渡した後、ため息と共に肩を落とした。
「姫のご帰還が遅れるのなら、私はもうしばらくハンターの仕事をします……」
「気を落とさずに。協会通信で情報が入ったら、伝えても良い情報だけですが、勇者様を通してお伝えしますから」
「ありがとう……」
トボトボと去って行くミマルンを見送ったトキミは、兵士達と共にテルラ達が拠点としている高級住宅街に向かった。
テルラ達は、帰って来たらまず自宅に荷物を置き、旅の疲れを癒さぬまま教会で情報収集するとベリリムが教えてくれたから。
シスタートキミは教会内で待ってくださいと言ったが、異教徒なので遠慮した。異教と言っても同じ女神を信仰しているのだが、グラシラド国の教えは戦争上等な教義に変化しているので、平和と道徳を説くエルカノート国の物とはかなり違う。宗教的ないざこざを避けるため、意識して近寄らない方が良い。
個人的な思惑で教会の近くをうろつくとただの不審者になるので、『勇者の世話になっているから、この辺りの警備を無償でやっている』との言い訳を教会周辺の住人にしている。
そうして待ち人来たらずのヤキモキした日々を送っていると、数人の兵士が教会の門をノックした。
「シスタートキミは居られますか?」
「はい、私がトキミです」
兵士は周囲を警戒した後、声を抑えて要件を言う。
「我々は国中を回っている軍の定期連絡便兼物資補給係です。王女レインボー様の依頼を受け、王女様の鎧を持って来ました」
「鎧、ですか? 鎧だけですか?」
「鎧のみです」
革の鎧で武装している兵士達は、ほぼ手ぶらだった。
状況が良く分からないので門内に入って貰う。
「鎧だけ送るなんて、何か良くない事でも有ったんでしょうか」
「心配は無用です。異常気象が起こって極寒になっている北の国に行くので、金属鎧を着ていると危ないから、と聞いております。しかし指定された住所は無人でした。それもそのはず、北に行くとの理由で鎧を預けたのだから、鍵が開いている訳がありません」
「なるほど、ですから留守を預かっている私を訪ねて来た、と」
「一ヵ月以上留守にしている割には庭が荒れていないので、掃除はされている。ですので、役所に行って屋敷の管理をしている者は誰かと訊いたんです。――本隊は屋敷の前で待機しております。鎧を屋敷の中に運びたいのですが」
「分かりました。今、玄関の鍵を取って参りますので、少々お待ちください」
兵士を玄関先で待たせ、奥に引っ込むトキミ。
すぐに戻って来ると、褐色肌の女性が門の外でソワソワしていた。
兵士達と共に門の外に出たトキミは、褐色の肌を持つ異国人を怪しんでいる兵士達の前で、あえて親しげに話し掛けた。
「ミマルンさん。レインボー様達は北の国に行ったそうなので、ご帰還は予定よりかなり遅れるみたいですよ」
「あ、そうなのですか……。武装した人達と凄いイケメンの人が来たので、姫の護衛団かと」
「凄いイケメンの人?」
教会前の通りを見渡すトキミ。昼間なので人通りは少なく、目立って美形の人は居ない。
「あれ? 彼等の後ろを歩いていたので関係者かと思ったんですが、居ませんね」
ミマルンも通りを見渡した後、ため息と共に肩を落とした。
「姫のご帰還が遅れるのなら、私はもうしばらくハンターの仕事をします……」
「気を落とさずに。協会通信で情報が入ったら、伝えても良い情報だけですが、勇者様を通してお伝えしますから」
「ありがとう……」
トボトボと去って行くミマルンを見送ったトキミは、兵士達と共にテルラ達が拠点としている高級住宅街に向かった。
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