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第十八話

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 本来、電脳世界と呼ばれる仮想空間で活動するために作られた聖女には実体が無い。自立行動を補佐する程度の知能と自我は有るが、シリアルナンバーが違うだけの複製体が複数存在するので、個人としての人格も無い。
 それに近い気配が近付いて来る。
 データを参照すると神の可能性が一番高いと出た。
「貴方は何者ですか?」
 次元の穴の中には距離の意味が無いので、通常の会話をする様に語り掛ける。知性が有る存在ならば何らかの反応を示すだろう。
「私は死の国を統括する女神の分身体だよ。……む? どうやら微妙に差異の有る翻訳をされているな。私の在り様に関するお前の認識も間違ってるだろう。すると、お前は自然から生まれた生物ではなく、人間が生み出した人工の知性なのかな? なら、大きく間違っていないだろうから修正しなくても良いね」
 女神は自分勝手に納得している様な言い方をした。
 聖女がテルラに細かい説明を省いたのと同じ論理と理解して良いだろう。常識や文化が全く違う場合は余計な情報を伏せた方が会話がスムーズになると、聖女の交渉術は設定されている。それと同じ設定がされているのなら、相手も全く違う世界で生きている存在なんだろう。
 ――死の国を統括する女神が生きていると思った今の認識も、相手からしたら間違っているのか?
 そんな複雑な思考が出来る様には作られていないので、その疑問に対する処理は後回しにする。
「死の国を統括する女神様が、なぜこの様な空間に? ここは貴女の言う人間が生み出した知性が活動する場です。死とは無縁の空間ですが」
 気配がすぐ横に来る。
 その気になったら腕の一振りで空間ごと聖女を消滅させられるくらいのエネルギー量を保持している。
「そうだね。君は無関係、と言うより、巻き込まれた被害者みたいだね。私もそうなんだよ。何者かが死んだ女を生き返らせようとしていてね。でも、成仏した人間の蘇生は禁忌だから、被害が出る前に阻止しないといけない。そのために死の国の〇×△である私がこんなところに引っ張り出された、って訳さ」
「一部音声が乱れていますので、理解出来ません。死者の蘇生ですか? 召喚術ではなく?」
 聖女が緊張する。
 女神様が見ている。
 お互いに実体の無い存在のはずなのに、物理的な作用が入り込む余地は無いのに、明確に視線を感じる。
 テルラの左目で見られている感触とほぼ同じだ。
「なるほど、そっちは召喚術どころか魔法が無い世界なのか。だから電気仕掛けの知性が発明されていて、神の業が本能で理解出来ないからどうでも良い事でも疑問に思うのね。なら、100%蘇生術が原因か。一方だけを何とかすれば良いのは楽で良かった」
「向こうが原因として、どう解決するんですか? 私はこの様な事態を解決するための情報収集も存在意義に含まれています。宜しければお教えください」
「どうもこうも。成功しない術なんか力尽くで無効化するわ。――と言いたいけど、私を引っ張り上げられるくらい強い術は触媒も相当な物。私でも肉体を得られるかも知れない。現世の知識を得られる折角のチャンスだから、ちょっと呼ばれてみるわ。呼ばれる前だから情報が揃っていない。つまり情報はあげられない。ごめんね」
 死の国の神が顕現したら、どう考えても世界がやばい。
 テルラ達が危ない。
「邪魔しないで。君は君の世界に戻って自分の仕事をしてなさい」
 死の国の女神が聖女の動きを察知した。
 電子の速度で計算しているのに、どうやって考えを先読みしているのか。
「何らかの心配をしているみたいだけど、大丈夫。騒動は起こさないわ。って言うか、召喚されるのは私のごく一部だけだからね。
君の常識に合わせて言えば、ごくわずかなエネルギーを持つ分身だけが召喚される、って感じかな? 違うか。まぁどっちでも良いわ」
 不安定になっている空間を感知出来ない技で閉ざしに掛かる死の国の女神。
 抵抗しようとした聖女だったが、氾濫した川に流されるかの様に元の世界に押し戻される。
 穴が塞がれる。
 もうどうしようも出来ない。
「そんな……テルラさん、気を付けて……」
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