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第十七話

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 雲が去り、雪が晴れた。
 気温が上がって雪が融けるのは良い事なのだが、テルラは窓から部屋に入って来る日差しを見て憂鬱な表情になった。
「魔物は退治されていないはずなので、テロによって鍜治場が破壊されたから晴れた、と考えるのが自然でしょうね」
 数日も部屋に籠っていたので身体がなまらない様にストレッチしていたレイが動きを止めずに頷く。
「つまり、吹雪を呼ぶ魔物は鍜治場を狙っていた事が確定した。と言う事ですわね。きっと揉めますわ。他国の事ですが、今後がとても心配ですわ」
「私としては、私達はこれからどうすれば良いのか、が気になるねぇ。出番が無いならもう帰りたいよ。晴れても寒いし」
 昼近いのにベッドの中に居るカレンがぼやく。一見物凄い怠け者だが、やる事が無い人の防寒対策としては間違っていない。
「恐らく、次に何らかの報告を受けたら帰る事になる確率はかなり高いでしょうね。とは言え、帰る気満々で動いていたら僕達に依頼が有っても遠慮してしまうでしょうから、確定するまでこのまま待機していましょう」
「はーい」
 テルラに気の無い返事をしたカレンは毛布を深く被った。
 その数分後、ストレッチよりも激しめの筋トレをしていたプリシゥアが耳をそばだてた。
「なんか、街が騒がしいっスね。行商人か商隊が露店でも開いてるんスかね」
「この寒空の下で露店ですの?」
 レイも耳を澄ませてみたが、子供が宿近くで雪遊びをしている声がするだけで、特に気になる音は無かった。
 僧兵としての訓練を受けた経験から来る妙な予感を肌で感じているプリシゥアは、筋トレを止めてクールダウンを始めた。
「大雪で物資不足だからそう思ったんスけど、違うっスかね。露店じゃなかったら何なんスかねぇ。街の人が落ち着かなくなるイベントって、他に何が有るっスかねぇ?」
 プリシゥアが深刻そうな顔をして実は昼食は何を食べようかと考えていると、コクリが一人でやって来た。
 簡単なあいさつの後、テーブルに一封の封筒を置く。
「これは?」
 何らかの報告に来たと思っていたテルラは、予想していなかった封筒の出現に首を傾げた。
「テロによって鍜治場が壊されたニュースが大袈裟に誇張されて広がっており、原住民が攻めて来るとの噂が立ち始めています」
「ははぁ。街がざわ付いていたのはそれっスか」
 プリシゥアが納得する。
「実際に攻めて来るかどうかは分かりませんが、不安が広がっていて危険です。この空気に中てられた不届き者が王都の中から出るかも知れません。申し訳ありませんが、皆様にはすぐに帰って頂きたいのです。これは今回の謝礼と帰りの旅費です。お詫びも込めていますので、どうかお納めください」
「え? 帰って良いの?」
 ベッドから顔を出すカレン。
 レイはそれを無視して顎に手を当てる。
「テロの後に原住民が襲って来たなら、それは内戦、戦争状態と言えます。その状況にわたくしが巻き込まれたとなったら、エルカノートとも険悪になります。テルラも同じく、ダンダルミア大聖堂とシオン教が険悪になります。ここは大人しく帰った方が良さそうですわね」
 ククラ王子が頑張って戦争状態を回避しようとしているなら残っても大丈夫ではと考えたテルラだったが、仮に残っても自分達に出来る事は無い。
 むしろ残るのは無意味なワガママになるので、テルラは口を開く前に反論を諦めた。
「……分かりました。このまま帰る事にしましょう。これはハンターへの報酬として、ありがたく頂戴します」
 テルラが封筒を受け取ったので、コクリは安心して微笑んだ。
「私は王宮の警護が有るのでお見送り出来ませんが、巫女が同行すると目立つので、その方が良いでしょう。ひとつ心配が有るとしたら、雪深いので乗合馬車が無いと帰れない事です。帰りの馬車は南へ行くので襲われはしないでしょうが、原住民側が本気で戦争をする気なら物資の供給を断とうとするでしょう」
「それは多分心配し過ぎっスよ。そこまでするなら鍜治場と同時に街も襲うっス。間を開けたら街側に準備の時間が生まれるっスからね。間を開けても良いって事は、今は交渉の時間だと思うっス。勿論油断はしないっスけど、今日明日中なら普通に帰れると思うっスよ」
 プリシゥアの予想に、コクリはそうですねと頷いた。
「では、私はこれで。馬車の出発の時間まで、どうかご無事で」
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