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第十六話
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普通の観光客の様に隊列を組まずに宿を出たテルラ達は、雪かきをしている街の人にエンターテインメントはどこに行けば楽しめるのかと訊いた。
話を聞く限り、そこは歓楽街だった。そう言った場所に縁の無い四人は、往来のど真ん中で立ち止まって円陣を組んだ。
「どうやら女子供が近寄ったら危ない地域な気がするっス。遊ぶなら他の所に行くっス」
プリシゥアが護衛として難色を示したが、行く気満々なレイは予定変更を拒否した。
「観光客が行く場所ですから、昼間も危険であるはずがありません。人気の無い場所に近寄らず、夕方になる前に帰れば良いのです。行きましょう」
「どっちでも良いから、早くどこかに入ろう。寒いー」
カレンが自分の身体を抱いて泣きそうになっているので、リーダーであるテルラの判断に任せる事にした。
「行くだけ行ってみましょう。レイの言う通り、観光地の治安が行くのもはばかれるほど悪いとは思えませんから。でも、雰囲気が悪かったらすぐに帰りましょう」
警戒しながら入った歓楽街は、大雪にも拘わず人出が多かった。全員が着ぶくれているので、余計に道が狭く感じる。
身の危険を感じない雰囲気なので、全員が思い思いに周囲の建物を観察する。
「あら、演劇は午後からみたいですわ」
巨大な建物に掲げられている看板を指差すレイ。
カレンもそれを見上げる。
劇場の名前と簡単な時刻表がデカデカと書かれてある。
14時の昼の部と20時の夜の部の二部構成になっている。
休日は無く、複数の劇団が日替わりでローテーションしている様だ。
「むー。寒いからどこかに入りたいのにー。お昼ご飯にもまだ早いし、別のとこに行こうよ」
「そうですわね。気温はともかく、この人出でぼんやりしていては通行の邪魔ですわ。あそこに入りましょう」
ウエルカムボードが入り口に掛かっている施設に入る。
入場料を払って奥のホールに入ると、物凄い大音量のライブが行われていた。
舞台では三人の若い少女が歌い踊っている。
音がとても大きい。ステージに置かれている箱状の魔法具で歌声や伴奏を増幅しているらしい。
「アイドルの歌謡ショーっスね」
「アイドルって何?」
「男の人向けの大衆娯楽っスよ。舞台に上がってるのが男の子なら女の人向けになるんスけどね」
客の応援や合いの手もうるさいので、会話をしているプリシゥアとカレンの声が自然と大きくなって行く。
これ以上喋るとショーの邪魔になるので、一区切り付くまで大人しく舞台を眺める事にした。
「楽しいんだろうなと言う事は分かりましたが、また見たいかとなると微妙なところですね……」
ショーが終わると同時に外に出て、レストランを探しながら感想を言うテルラ。
レイも同意の苦笑をする。
「ああ言った娯楽も有る、と言う勉強だったと思いましょう。昼食を取ったら、今度こそ演劇に行きましょう。演劇なら静かに落ち着いて見れます」
満腹になって体温が上がったテルラ一行は、開演時間に合わせて劇場に入る。
中は上着を脱げるくらい暖かかった。
演目は悲哀物で、領主の息子と殺し屋の女性が恋に落ち、争い有りすれ違い有りの末、両想いになった直後に二人で心中する物語だった。
女性陣は感動で涙していたが、テルラだけはアイドルライブと同じ反応をした。
「どうして恋が実ったのに死ななければならなかったんですか?」
ロビーでコートを羽織りながら首を傾げているテルラに女性陣が肩を竦める。
「物語を理屈で語ってはいけませんわ。心で楽しみましょう」
レイが知った風に言うと、背の高い女性が笑顔を作りながら近付いて来た。さり気なくテルラをガードする位置に立ったプリシゥアに一枚のチラシを手渡す。
「小さな男の子には悲哀物は理解出来ないでしょうよ。その点、私達がやる劇は坊やにも分かるよ。こことは別の劇場だけど、ホラー物が苦手じゃなかったら見に来てよ」
「臆病一夜……っスか? これ、お姉さんっスか?」
チラシに描かれている三人の似顔絵のひとつが女性ソックリだった。
「そ、私。ウチは小さな劇団だから、小さな劇場しか借りられないの。だから、こうしてかいがいしく宣伝しないとやばいって訳。じゃ、よろしくね」
背の高い女性は、次のターゲットにチラシを渡す為に去って行った。
カレンがプリシゥアが持っているチラシを覗く。
「カジノの隣かぁ。ここから近いし、カジノも行ってみる? テルラ、歌も劇も楽しめなかったみたいだし」
テルラは、屋外の光量を確かめながら金色の頭を横に振った。
「さすがにカジノに行くのは浮かれ過ぎかと。――夕方にはちょっと早いですが、今日のところは明日の朝食を買って帰りますか」
「気温が下がり始める前に帰りましょう。明日も退屈だったら、チラシの劇にも行ってみましょうか。ホラー物にも興味が有りますし」
レイの言葉に頷いた一行は、暖かい劇場内から寒い路上へと移動した。
話を聞く限り、そこは歓楽街だった。そう言った場所に縁の無い四人は、往来のど真ん中で立ち止まって円陣を組んだ。
「どうやら女子供が近寄ったら危ない地域な気がするっス。遊ぶなら他の所に行くっス」
プリシゥアが護衛として難色を示したが、行く気満々なレイは予定変更を拒否した。
「観光客が行く場所ですから、昼間も危険であるはずがありません。人気の無い場所に近寄らず、夕方になる前に帰れば良いのです。行きましょう」
「どっちでも良いから、早くどこかに入ろう。寒いー」
カレンが自分の身体を抱いて泣きそうになっているので、リーダーであるテルラの判断に任せる事にした。
「行くだけ行ってみましょう。レイの言う通り、観光地の治安が行くのもはばかれるほど悪いとは思えませんから。でも、雰囲気が悪かったらすぐに帰りましょう」
警戒しながら入った歓楽街は、大雪にも拘わず人出が多かった。全員が着ぶくれているので、余計に道が狭く感じる。
身の危険を感じない雰囲気なので、全員が思い思いに周囲の建物を観察する。
「あら、演劇は午後からみたいですわ」
巨大な建物に掲げられている看板を指差すレイ。
カレンもそれを見上げる。
劇場の名前と簡単な時刻表がデカデカと書かれてある。
14時の昼の部と20時の夜の部の二部構成になっている。
休日は無く、複数の劇団が日替わりでローテーションしている様だ。
「むー。寒いからどこかに入りたいのにー。お昼ご飯にもまだ早いし、別のとこに行こうよ」
「そうですわね。気温はともかく、この人出でぼんやりしていては通行の邪魔ですわ。あそこに入りましょう」
ウエルカムボードが入り口に掛かっている施設に入る。
入場料を払って奥のホールに入ると、物凄い大音量のライブが行われていた。
舞台では三人の若い少女が歌い踊っている。
音がとても大きい。ステージに置かれている箱状の魔法具で歌声や伴奏を増幅しているらしい。
「アイドルの歌謡ショーっスね」
「アイドルって何?」
「男の人向けの大衆娯楽っスよ。舞台に上がってるのが男の子なら女の人向けになるんスけどね」
客の応援や合いの手もうるさいので、会話をしているプリシゥアとカレンの声が自然と大きくなって行く。
これ以上喋るとショーの邪魔になるので、一区切り付くまで大人しく舞台を眺める事にした。
「楽しいんだろうなと言う事は分かりましたが、また見たいかとなると微妙なところですね……」
ショーが終わると同時に外に出て、レストランを探しながら感想を言うテルラ。
レイも同意の苦笑をする。
「ああ言った娯楽も有る、と言う勉強だったと思いましょう。昼食を取ったら、今度こそ演劇に行きましょう。演劇なら静かに落ち着いて見れます」
満腹になって体温が上がったテルラ一行は、開演時間に合わせて劇場に入る。
中は上着を脱げるくらい暖かかった。
演目は悲哀物で、領主の息子と殺し屋の女性が恋に落ち、争い有りすれ違い有りの末、両想いになった直後に二人で心中する物語だった。
女性陣は感動で涙していたが、テルラだけはアイドルライブと同じ反応をした。
「どうして恋が実ったのに死ななければならなかったんですか?」
ロビーでコートを羽織りながら首を傾げているテルラに女性陣が肩を竦める。
「物語を理屈で語ってはいけませんわ。心で楽しみましょう」
レイが知った風に言うと、背の高い女性が笑顔を作りながら近付いて来た。さり気なくテルラをガードする位置に立ったプリシゥアに一枚のチラシを手渡す。
「小さな男の子には悲哀物は理解出来ないでしょうよ。その点、私達がやる劇は坊やにも分かるよ。こことは別の劇場だけど、ホラー物が苦手じゃなかったら見に来てよ」
「臆病一夜……っスか? これ、お姉さんっスか?」
チラシに描かれている三人の似顔絵のひとつが女性ソックリだった。
「そ、私。ウチは小さな劇団だから、小さな劇場しか借りられないの。だから、こうしてかいがいしく宣伝しないとやばいって訳。じゃ、よろしくね」
背の高い女性は、次のターゲットにチラシを渡す為に去って行った。
カレンがプリシゥアが持っているチラシを覗く。
「カジノの隣かぁ。ここから近いし、カジノも行ってみる? テルラ、歌も劇も楽しめなかったみたいだし」
テルラは、屋外の光量を確かめながら金色の頭を横に振った。
「さすがにカジノに行くのは浮かれ過ぎかと。――夕方にはちょっと早いですが、今日のところは明日の朝食を買って帰りますか」
「気温が下がり始める前に帰りましょう。明日も退屈だったら、チラシの劇にも行ってみましょうか。ホラー物にも興味が有りますし」
レイの言葉に頷いた一行は、暖かい劇場内から寒い路上へと移動した。
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