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第十六話

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 北の国の王都とエルカノート国の北限国境を守っている街を往復している定期便の馬車は、小屋と表現しても差し支えないくらい巨大な箱を多頭で引っ張っていた。
 その迫力に圧倒されるテルラ達。
「これから行くハープネット国は、観光が主な産業の国なんス。だから、馬車を利用する人は他より多いんス。一度に大勢を運べる様に、定期便が大きくなったんスね」
「良くご存じで、プリシゥアさん。自然が豊かで肉や魚、果物が特別美味しい――のですが、異常気象のせいで、それらをご提供する事が出来ないんです。折角来てくださる皆様に楽しんで頂けないのが心苦しいです」
 残念そうに俯く先輩巫女と共に馬車に乗り込むテルラ一行。他にも数組の客が居るが、席が升席の様に区分けされているので気楽だった。防寒靴を脱いでそこに座る。広くないが、狭苦しさは無い。
「それにしてはお客が多いね。全員モコモコに着込んでるから良く分からないけど、普通の家族連れとか友達同士の気楽な旅に見えるよ。何しに行くの?」
 座布団の上で膝立ちになって周囲を見ているカレンの裾を引っ張り、座る様に促す後輩巫女のポツリ。いつ走り出すか分からないので、行儀が悪いと危ない。
「王都はエンターテインメントの街でもあるんだよ。歌、演劇、絵画。色んな芸術が集まっているの。食事とか景色とかの観光じゃなくて、そっち目当てじゃないかな。そう言うのは大雪でも関係無いからね」
「へぇー、芸術かぁ。そっち方面に縁が無かったから、仕事が終わったら見に行きたいなぁ」
 カレンが夢見心地で座ると馬車が動き出した。超重量なので進み始めは歩きより遅かったが、スピードが乗れば普通の馬車と同じ速度になった。
 お昼近くになると、ブレーキが掛かった小さな衝撃が乗客の身体を揺らした。走り出しと同じく、完全に停止するまで大分時間が掛かった。
「お客様にお知らせします。馬車の車輪を寒冷地仕様のソリに変えますので、安全の為に一旦降りてください。休憩所が有りますので、食事やトイレ等をお済ませください。再出発の際は角笛を吹きますので、集合よろしくお願いします」
 護衛係の男性がドアを開け、そう言った。
 テルラ一行は勿論、他の客も馬車を降りる。
 そこには山小屋の様な建物が有り、屋根はもちろん、周囲の大地に薄い雪が積もっていた。寒さのせいか、煙突から出る煙が濃く見える。
「うわー、本当に雪が積もってるー! すごーい!」
 カレンはわざわざ新雪につっこんで足跡を残した。進む度に深くなって行き、膝まで雪に埋まってしまった。
「エルカノートは新年過ぎにちょっと雪が降るだけですので、これほどまで積もった雪を見るのは初めてです」
 テルラも年相応に雪に目を輝かせたが、護衛のプリシゥアに制止された。
「はしゃぐのは目的地に着いてからにするっスよ、カレン。濡れたら乾かすのが大変なんスから、あんまり無茶しない方が良いっス」
「はーい、ってか寒ぅー! お昼食べて暖まろ」
 そう言いつつも、カレンはわざわざ大回りして新雪に円形の跡を残した。
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