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第十一話

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 なじみとなった食堂で好物の肉料理をたらふく食べたグレイは、上機嫌で帰路に着いた。
 その途中、小雨がパラ付き始めた。
「ん? また雨か。って事は、またカエルが湧くな。ま、退治したばっかりで数が減ってるだろうから、クエストを受けるのはまた今度で良いな」
 黒コートの上に雨具を羽織ったグレイは、小走りで自宅の門を潜った。
「おかえりなさい、グレイ。待ってましたよ」
 玄関先で帽子や雨具の雨粒を払っていると、グレイと同い年のテルラが玄関ドアを開けた。
「どうした。非常事態か?」
「不死の魔物情報が入りました。シスタートキミが待っておられているので、キッチンに集合してください」
「分かった。一旦部屋に戻って荷物を置いてからすぐ行く」
 玄関に置いてあるコート掛けに雨具と海賊帽を掛けたグレイは、階段を登って自室に入った。
 赤髪と手足をタオルで拭きながら、黒コートの内ポケットに仕込んである弾丸を通常弾に交換した。
「お待たせ」
 キッチンに行くと、金髪のテルラ、銀髪ロングのレイ、おでこを出した黒髪のカレン、亜麻色の髪のプリシゥアがそれぞれの席に座ってお茶を啜っていた。
 グレイも自分の席に座ると、シスター服のトキミがお茶を出してくれた。
「クエストお疲れさまでした、グレイさん。早速教会通信で入って来た不死の魔物の情報をお伝えしたいと思いますが、宜しいですか?」
「ああ、頼む」
 立ったまま咳払いしたトキミは、ポケットから紙を取り出した。
「では。――今回、不死の魔物と思われる魔物が発生したのは、我がエルカノート国と隣国ランドビークの国境に有る、ランドビーク側の国境要塞です」
「つまり、隣国領内ですか」
 確認のために訊いたテルラに大きく頷いて見せるトキミ。
「はい。騎士や軍人では面倒な許可を得なければ行けない地域ですが、みなさんはハンター。旅行者と同じ手順で国境を越えられます。まさに適任ですね」
「国境かぁ。遠そう。リトンの街みたいな空振りだったら嫌だなぁ」
 カレンが頬杖を突いて溜息を吐く。
「その点も大丈夫です。最低でも三匹の不死の魔物が確認されています。未確認の物も含めると、五匹」
 それを聞いたレイが目を丸くする。
「まぁ、五匹も? その要塞で何が起こっていますの?」
「ランドビーク王国第三王子のハイタッチ様が関わっているとの情報が有りますが、詳細は不明です」
「またあいつかぁ……」
 カレンがテーブルに突っ伏すと、プリシゥアが苦笑いした。
「まぁ、今回は自国内っスから、まだマシっすよ」
「いいえ、そうとは言えません。要塞は魔物の巣になっていて、そこから溢れ出る魔物がエルカノート側の国境の街に被害を与えています」
 今度はパーティーメンバー全員が溜息を吐く。
「運良くとても強いハンターが居て魔物を追い払っている様ですが、状況は良くないそうです。ですので国際援助の観点からも援軍を送らないといけないのですが、原因は国境の向こう。向こうの許可がなければ援軍も自国の街を護る事しか出来ません。向こうとしてもハンターに頼らなければならないと言う状況なのでしょう」
「分かりました。不死の魔物の存在が確定しているのなら、僕達が行かなければなりませんね。みなさん、今回は国境越えの準備が必要な――」
「待ってください、テルラ。まだ話は終わっていません」
「と言うと?」
「第三王子の行いは向こうの国でも問題になっている様です。ですので、要塞とは別の、特別な協力要請が届きました」
 トキミは、持っている紙に書かれている文を改めて確認する。
「要請内容は、レインボー姫によるリトンの街で捕らえた魔法使いの尋問です。隣国は、それを皆様にお願いしたいとの事」
「あの女魔法使いを、わたくし達が尋問しろと?」
「はいそうです、レイ。捕らえられた剣士と魔法使い両方共何も喋らないのですが、魔法使いの方が、皆様になら会話に応じても良いと言っている様です」
「異国にその様な事を要請するのは異例ですわね。普通は犯罪者の情報は外に漏らさないはず。ですので、罠の可能性が心配なのですが」
「それはなんとも。剣士の方は本国に護送されましたが、魔法使いは脚の怪我が悪化したとかで、荒野を出たところに有るボルンの街から出られず、療養中です」
「怪我が悪化したのか……。何も喋らずに放置され続けたのが悪かったんだろうな」
 魔法使いの脚を撃ったグレイがポツリと呟く。
 それを知らないトキミは構わず続ける。
「国からの出動要請な上に急ぎでもあるので、街所有の馬車に乗ってボルンの街に向かって貰います」
「って事は、タダか?」
 グレイがお得情報に反応して顔を上げる。
「勿論無料です。しかも真っ直ぐ目的地に向かうので、普通の乗合馬車よりも早く到着するでしょう」
「ワオ! また荒野に向かうのかと気が重かったけど、それなら良いや」
 今度はカレンが喜びの声を上げる。
 女子供の足では、国境まで半月以上は掛かる。
 その途中の街でも十日以上掛かる計算になるが、直通の馬車ならほんの数日で着くだろう。
 なので、レイやプリシゥアにも安堵が口元に現れている。
「国の援軍もボルンの街に向かう予定なので、ボルンの街から国境の街に向かう時は、みなさんもその行軍に参加する事になるでしょう」
 トキミは紙を下ろして締めに入る。
「では、今回のクエストの流れを大まかにおさらいします。まず街の馬車にて、南西の方向に有るボルンの街に向かい、みなさんが捕らえた魔法使いの尋問を行って貰います」
 全員が頷く。
「そこで得た情報は、両国で共有されます。その結果いかんでは、折り返し帰って来るか、更に南西に進んで国境を越えて要塞に赴くかの選択を行う事になります」
 プリシゥアが手を挙げる。
「私達が行かないと不死の魔物の選別は難しいんスから、行かないとダメなんじゃないっスか?」
「みなさんのおかげで不死の魔物の退治方法が確立されましたので、絶対に行かなければならないと言う事にはなりません。今回はふたつの国の軍が動きますので、そちらに任せた方が良い場合も有ります」
「そっスか」
「帰って来る時は、そのまま街の馬車で。行く場合は、おそらく軍の馬車に乗ります。王女様がいらっしゃいますので、徒歩は無いでしょう。国境越えの手続きは国境の街に着いてからになります」
「分かりました。では、日が高い内に旅立ちの準備をしましょう」
 テルラの号令で全員が立ち上がった。
 窓の外では、雨が本降りになっていた。
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