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第十話

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 荒野越えは二度目なので、行きよりは計画的に歩く事が出来た。
 テントを張る時間も短くなって来ている気がする。
「でもまぁ、料理に使う水はケチらないといけないんスけどね」
 調理をしているプリシゥアが鍋を掻き回す。朝と昼は保存食で済ますが、夜はちゃんと食べないと体力が持たない。
「街が有れば水の補給が出来るんだろうけどな」
 燃やせる物を探して戻って来たグレイが火の近くに座る。
「街自体は有るっスけどね。規模は村っスけど。数日もの遠回りになるから、補給しても結局は水不足は解消しないんスよ」
「荒野に住み着く物好きも居るのか。そこにも聖女みたいなのが居るのか?」
「さすがに居ないっスよ。確か、この近くに有る村は低地に有って、リトンの街から流れ出る地下水がオアシスになっているらしいっスね。だから聖女が居なくても水が枯れる事は無いっス」
「あの街のおこぼれを貰って生きている訳か。……俺の勝手なイメージとしては、つまはじきにされて真っ当な街に入れない奴や貧民が水代をケチりたくて壁の外で暮らしてるって感じだな」
「治安は良くないみたいっスから、多分、そのイメージ通りっスね」
「貧民街なら近付かない方が良いか」
「貧民街とも違うっスが、どっちにしろ寄る理由が無いのは間違いないっスね。荒野は魔物が全然居ないっスから、仕事も無いっス」
「よみがえりは居るかも知れないが、どうせ小物で報酬も少ないだろうしな。真っ直ぐ帰ろう」
「誰か来ますわ。みなさん、警戒を」
 見張りをしていたレイが緊張した声を出した。
 仲間達は素早く警戒態勢を取る。
 テルラとカレンはテントを護り、プリシゥアはその二人を護る。
 レイは脅威を注視し、グレンはそれ以外を警戒する。
「馬ですわね。1……2……3。三頭。全てに人間が乗っていますので、魔物ではない様子」
「人間でも警戒はするっスよ。こんな地っスから、水に飢えている盗賊は超凶悪っス」
 剣と拳と銃を構えたまま馬を警戒していると、その馬が少し距離を置いたところで止まった。
「馬上から失礼。貴女達はレインボー姫ご一行か」
 先頭の若い男が少々疲れている感じの声を張り上げた。
「わたくしがレインボーですわ」
 剣を構えたまま応えると、三人の男が馬から降りた。
 先頭の男がレイの前に来て、残りの二人が荷物から降ろした水を馬にあげている。
「運良く出会えて良かった。急いでいるので、礼を欠く事を許して欲しい。――実は先日、我々の村を一人の男が襲った。そいつは今も村を占拠していて、人質を取って食料と水を要求している」
「まぁ。単独の野盗とは珍しいですわね」
 剣を収めて話を聞く態度を見せるレイは、こっそりと警戒を解かない様にとのハンドサインを仲間に送った。
 なので、グレイとプリシゥアは構えを解かない。
「そいつは怪しい術を使い、魔物を召喚したんだ。だから単独ではあるが、手下が居る。しかも、魔物を召喚する時に人の命を奪う。村の若者数人がそれで死んでしまった」
「まさか、ハイタッチ王子?」
 テルラが前に出ようとしたが、プリシゥアが背でそれを遮る。
「賊の名前は知らない。そいつは、レインボー姫を見付けてこの手紙を渡せと要求して来た。これだ」
 差し出された手紙を慎重に受け取るレイ。封筒無しの便箋丸出しなので、刃物や薬品が仕込まれている様子は無い。
「手紙を渡さずに逃げたら人質を殺すと脅されているので、手紙を渡した証拠に、これにサインをくれ。それを見たら引き上げると賊は言っている」
 今度は半紙と木炭のペンを差し出して来る。
「少々お待ちください」
 それを受け取ったレイは、剣の鞘を下敷きにしてフルネームのサインした。書き難いので字体が崩れているが、隣国の王族であるハイタッチ王子ならレイの直筆だと分かってくれるだろう。
「僕達が救援に向かいましょうか? 相手が一人と魔物だけなら――」
 テルラの言葉を途中で遮って首を横に振る若者。
「姫とその仲間が俺達に付いて来ても人質を殺すと言われている。気持ちだけ受け取っておこう」
「お前達、そいつの言葉を信じているのか? 帰ったら村が全滅している可能性も有る事を分かっているのか?」
 サインを受け取った男は、グレイの言葉には返事を返さずに馬上に戻った。
「……確かにサインは貰った。もしも賊が村を滅ぼしていたら、このサインを持って王都に陳情しに行く。その時はよろしく頼む、姫」
 三頭の馬は、もうすぐ夜が来ると言うのに来た道を引き返して行った。
「手紙にはなんて書いてあるの? 太陽が沈む前に読んでよ」
 カレンの声で我に返ったレイが手紙を広げた。
 さっと速読してから眉間に皺を寄せる。
「音読しますわね。挨拶とか余計な言い回しは省きますわ」

『リトンの街では世話になった。
 しかも、俺の願いは絶対に叶わないと言う情報まで頂き、感謝する。
 この礼は必ずするので、その時は覚悟しろ』

「つまり、俺達に仕返ししたいから首を洗って待ってろって事か。確かに俺はあいつの仲間を撃ったが、ここまでするほど恨まれる様な事はしたかな」
 火の前に座りながら言うグレイ。
 仲間達も火を囲む。
「何なの、あの人。よその国に来て勝手に何かしてて、それを邪魔したら覚悟しろ? 逆恨みじゃない。そもそもあの人、何がしたい訳?」
 カレンがふくれっ面になる。
「大聖堂を襲ったよみがえりの群れは王子の仕業と書いてあります。街の出口を襲わせて脱出しようとしたが、逆方向に向かった。君達の言う、俺の願いは叶わないと言う情報は正しい様だ、と」
 手紙を下したレイは深い溜息を吐く。
「ハイタッチ王子の事は、カミナミアに帰ってから、わたくしが王城に手紙を書きますわ。リトンの街で捕まった剣士と魔法使いが何かを喋っていたら、その情報くらいは得られるでしょう」
「捕まった時の様子じゃ、二人共喋りそうもないっスけどね。ま、王子は国に任せるっスよ。グレイじゃないっスけど、相手にしても一銭にもならないっスからね」
 レイとプリシゥアの言葉に頷くテルラ。
「ハンターとしての警戒を怠らなければ、王子が何らかの行動を起こしても対処出来ます。僕達は変わらず不死の魔物を狙いましょう」
 一斉に頷く仲間達。
「さて。落ち着いたところで夕飯にするっス。さっさと食べてさっさと寝て、さっさとカミナミアに帰るっスよ」
 そう言ったプリシゥアが鍋の蓋を取ると、美味しそうな湯気が星空に向かって登って行った。
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