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第十話

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 大聖堂の正面門は青年男性の群れで溢れ返っていた。
余りにも大量なので、大安売りセールをしている商店よりもぎゅうぎゅう詰めになっている。
 周囲に漂う死臭で鼻が曲がりそうなので、大聖堂に押し掛けている青年男性達は全て動く死体だと思われる。
 正面玄関は僧兵によって守られているが、多勢に無勢で、陥落するのは時間の問題だろう。
「ヤバそうだから、私が魔物の攻撃力を奪うね!」
 カレンがおでこにダブルピースを当てると、テルラが慌てて指示を出す。
「僧兵に当てない様に気を付けて! 相手が大量のよみがえりなので、人間側の攻撃力を奪ったら収拾が付かなくなります!」
「分かった! 第三の目!」
 生きている人間が居ない方向に向かっておでこの光を発するカレン。門より外側に居る魔物にしか当たらなかったが、それでも戦闘に参加する者の助けになった。
「わたくしも助成しますわ! せいッ!」
「テルラの護衛はカレンに任せるっス! 行って来るっス!」
 よみがえりは頭を落とせば退治出来ると聞いていたので、レイの剣は魔物の首を落とし、プリシゥアの拳と蹴りは魔物の頭部を弾き飛ばす。
 しばらく戦っていると駆け付けて来た勇者や兵士も戦闘に参加した。
 現場は頭部を失った死体の山が築き上げられている。
「怪我人が居れば僕が治療しまーす! 僕は治療魔法が使えまーす!」
 テルラは後方でそう声を掛けていたが、カレンの潜在能力のお陰で下がって来る戦闘員は居なかった。
 よみがえりの大群は二度三度と沸いて道を進んで来るが、時間が経つにつれて救援の兵士や僧兵が増えて行くので、大聖堂に辿り着く前に倒される様になった。
「でかいのが来るぞー!」
 民衆の避難を誘導していた兵士数人が、大声を出しながら走って来た。
「うわ! あの大きな骨女が三人も来るよ!」
 敵の援軍が来るたびにオデコからビームを発射していたカレンが街の方を指差した。
 石と土で作られた平屋と同じくらいの背のよみがえりが道を進んで来ている。
 それを見た二人の勇者がいの一番で駆け出した。
「あー、すぐに敵に近付いたら攻撃力奪えないのにー」
「彼等はカレンの能力の詳細を知らないんですから仕方が有りません。あちらは戦闘のプロに任せて、僕らは大聖堂を護りましょう。この混乱に紛れて王子が来るかも知れませんからね」
 そう言うテルラの脇を、十数人の僧兵が勇者を追う様に走って行った。勇者の援護に向かう余裕が有る様だ。
「そうですわね。そう考えると、この騒ぎは王子が起こしているのかも知れませんわ。混乱に紛れる為に、大量のよみがえりを召喚したと考えれば納得出来ます」
 現場が落ち着いたので、レイがテルラの前まで下がって来た。
「しかし、王子の召喚は思う通りに事が進まないはずです。この事態は想定外でしょう」
「想定外でこんな大騒ぎを起こすなんて、本当に迷惑な王子だよ」
 ダブルピースを下げて肩を竦めるカレン。
 それに苦笑してから大聖堂玄関の方を見るテルラ。
「聖女様は大丈夫でしたでしょうか。グレイもこの付近に居て見張っているはずですけど」
「どちらも心配ですわね。……ん?」
 レイがよみがえりの残党を見てふと気付く。
「冷静になって見てみれば、あの魔物達、全て姿形が同じですわ。まるで一匹の魔物が分裂したかの様に」
 頷くカレン。
「言われてみれば、あの大きな魔物も、三匹とも同じ格好だった。すっごい不自然」
「この街は、よみがえり対策で火葬が基本のはず。ですから、こんなに大量の人のよみがえりは発生しないはず。やはり王子の仕業で――」
 その時、遠くで火薬が破裂する音がした。
「今のはグレイの銃の音っスよね?」
 プリシゥアとレイが耳を澄ます。
 しかし二発目は無かった。
「その様に聞こえましたわ。銃でよみがえり退治は難しいでしょうに。――いえ、これはもしや」
「王子関連じゃないかな。女魔法使いを撃ったみたいに」
「わたくしもカレンと同じ事を考えていましたわ」
「音がした方に行ってみましょう。誰かを撃ったのなら、怪我人が出ているかも知れません」
 テルラが走り出し、女性陣がそれに続く。
 大聖堂を囲む壁の外側に沿ってしばらく進んだが、こちら側にはよみがえりはおろか人影すら無かった。
「誰も居ませんね」
 歩きながら全員で周囲を伺ったが、怪しい物は何も無かった。
「そうですわね。――あ、グレイですわ」
 レイが指差す方を見ると、黒コートの前を開けているグレイがこっちに向かって歩いていた。長銃を両手で持ち、タイトなミニスカートから伸びる生足を晒している。
「お前達か。あの女に逃げられたぞ」
「あの女とは?」
「あの魔法使いだよ。大男が背負って大聖堂の壁を登っていたから撃った。そのまま街の方に逃げて行ったから、当たったかどうかを確認しに来たんだが――」
 グレイは地面を注意深く見ている。
「――血痕が見当たらないから、弾は当たらなかったな。追跡は無理だ」
 グレイは、今度は大聖堂を囲む壁を見上げた。そうしながら長銃をコートの中に仕舞い、前を閉めた。
「と言う事は、やはりこの騒ぎはハイタッチ王子の仕業でしょうか」
「だろうな。街の壁や湖の柵には凶悪な盗人除けが仕掛けてあるのに、大聖堂にはそう言うのが無いんだな。だから騒ぎに紛れて忍び込めたんだろう」
「聖地を護る神は血の穢れを嫌いますから、刃物や棘と言った武器は使わないんです。剣を使う兵士ではなく、拳を使う僧兵が大聖堂や教会を護っているのは、その様な理由も有ります」
「ふーん。とにかく、王子の関係者には逃げられた。王子本人は見掛けなかったから、女を助けるために手分けして騒ぎを起こす作戦だったのかもな」
「分かりました。大聖堂周辺は忙しいでしょうから一旦この場を引き、お昼を頂きましょう。落ち着いたら聖女の無事を確認しに戻って来ましょう」
 リーダーの指示に頷くメンバー達。
 その後、レイがプリシゥアを睨んだ。
「――ときにプリシゥア。貴女、この騒ぎが起こる前、テルラから離れましたわね。そのせいで、テルラが骨女に攫われそうになりましたわよ」
「マジっスか? それは申し訳なかったっス」
「後で反省会ですわよ」
「はいっス……」
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