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第八話

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 テルラ一行は噴水広場で円陣を作った。
 朝の活気溢れる時間が終わっているので人は少なく、水音も有るので盗み聞きの心配は無いだろう。
「わたくし、今回の結末には納得行きませんわ」
 レイの不満顔に同意して頷くテルラ。
「さすがの僕でもおかしいと思います。だって――」
 王女を前にして観念したクーリエ・アンミは、こう真実を語った。

 最近、自然と魔法の力に目覚めた。それがたまたま暗闇を生み出すタイプの物だった。
 魔法と関係の無い家だと、魔力を持った子が生まれても、親も本人もその才能に気付かない事は稀に起こる。
 最初はおやつの盗み食いを誤魔化したくて使い、それが上手く行った。
 それに味を占め、何度か繰り返した。クーリエには魔法の才能が有ったのだろう、思う通りに盗み食いが出来た。
 だが、暗闇の度におやつが無くなり、しかも自分の家の周りしか発生しないとなったら、原因は自分だとすぐにバレる。
 なので暗闇の範囲を街全体にし、その上で発生タイミングをランダムにした。
 しかしその苦労も虚しく、勇者にはバレた。
 証拠は無いと確信していたので、どんなに問い詰められてもしらばっくれていた。
 王女を前にしてウソを言うのは怖かったので、今回は観念した。

「――ですよ? 一度や二度なら、盗み食いを理由に魔法を使うのは分かります。でも、最初の頃は重大な事故が起こっていたんですよ? 普通、そこで怖くなってやめると思うんですよ、僕は」
「悪人を一方的に処刑しても許される王族を前にしたら観念しちゃうってのは分からなくもないっス。それでも、今更アッサリ認めたのは私も奇妙だと思うっス。下手すりゃ身上潰すほどの賠償金を背負うっスのに」
 プリシゥアの言葉に頷くグレイ。
「俺もこの白状は不自然だと思う。王都から何日も離れている街で王女が本物かどうかを一目で判別出来るのはおかしい」
「いえ、わたくしの顔や髪色を知っているのはおかしくありませんわ。ちゃんとしたレベルの学校なら王族の肖像画が飾ってありますもの。王立、国立なら確実に」
「そう言う物なのか。なら俺の発言は無視してくれ」
「あの子があやしいとして、じゃあどうするの?」
 カレンが訊くと、全員の動きが止まった。誰からも案が出て来ない。
 最初に気を取り直したのはテルラ。
「報酬は日数が経って闇が晴れたと確定しなければ出ません。ですので、もう次の街に行っても良いでしょう。僕達がクエストに関わっている事は勇者様達が証言してくださいますから、帰りに寄れば報酬は貰えますし」
「奴の白状が真実だったら、だがな」
「グレイの懸念ももっともです。ですが、僕達はあまりのんびり出来ません。旅立ちの支度を始めても良いと思います。今から買い物を済ませれば、昼食後に街を出る事が出来ますが――」
 一人の男が近付いて来たので、テルラは言葉を途中で止めた。
 その男は勇者アトイだった。
「ちょっと良いかな」
「はい、なんでしょう」
 リーダーのテルラが先頭に立って受け答えをする。
 プリシゥアがさりげなく護衛の位置に移動し、グレイはもう一人の勇者はどこかと周囲を警戒する。
 レイとカレンは話に集中し、矛盾や不審な点が無いかと気を付ける。
 この辺りの連携は、何も言わずに出来る様になって来た。
「君達は、さっきの話をどう思った?」
「どう、とは?」
「うさんくさいと思った――顔にそう書いてある」
 アトイに鼻先を指差されたテルラは、寄り目になって太い指先を見た。
「否定はしません。今もそれで話し合っていたところです。しかし曲がりなりにも解決しましたから、役所に報告した後、次の街に行こうと思っています」
 正直に言い過ぎだとグレイは顔を顰めた。海賊の船長として基本的に懐疑的な物の見方をしているグレイからすると、勇者達の動きは協力的過ぎて怪しい。
 だが、育ちが良いテルラは純粋な表情で勇者の話に耳を傾けている。
「実は、闇が発生すると、毎回小銭程度の現金が無くなる被害が出ているんだ」
「多少の被害が有ると聞いていましたが――それもあの子、クーリエ・アンミが?」
「いいや、それはない、と思われている。君達も体験しただろうが、あの暗闇の中では自由に動けない。盗みには利用出来ない。それに、彼女が学校に行っている間にも盗難は起こっている。教師とクラスメイトの証言が有るから間違い無い」
「それは不思議ですね。暗闇の魔法はどこで発動しようと関係無いでしょうが、盗みはそうは行きませんものね」
「そうなんだ。ところで、被害の話はどこで聞いたんだ?」
「役所でクエストの詳細を伺った時に説明を受けましたが」
「盗みも情報に加えると報酬を増やさなければならないから秘密にしていたはずだったが、公開したのか。意外と被害額は大きいのかもな」
「って事は、犯人は他に居ると。勇者さんはそう思ってるって事ですか?」
 カレンが訊くと、アトイは小さく頭を下げた。
「すまないが余計な事は言えないんだ。俺の立場も有るんだ。察してくれ」
 そうしてから、アトイは周囲を気にしつつ小声になった。
「察して欲しいが、ここで誤魔化しても問題は解決しない。だから君達に話し掛けた。君達なら信用出来るからだ。俺の話を聞いてくれるだろうか」
 頷くテルラ。
 それに続いてレイトカレンも頷いた。
 プリシゥアとグレイは引き続き周囲を警戒している。
「以前からスヴァンの動きが怪しかったんだけど、今回の彼の手際は異様に正確だった。レインボー姫の登場に焦り、尻尾を出したと考えるのなら、彼が盗難に関わっている可能性が有る」
「勇者が泥棒を?」
 レイが怪訝な顔をすると、アトイは人差し指を自分の口の前に置いた。
「シー! これはあくまで疑いですから。だから、勇者仲間の俺が捜査する訳には行かないんだ。もし良かったら、クエスト報酬を確実な物にするために、もう少し働いて貰えないだろうか」
「その言い方だど追加報酬は無い感じか」
 グレイの冷静な突っ込みに苦笑いするアトイ。
「申し訳ない。今日の夕飯くらいは俺が奢るが、どうだろう」
「どうしますか? テルラ。もしも滞在を延長するなら、わたくしに試したい考えが有るんですけれども」
「レイに良い策が有るんですか?」
「解決に繋がるかは分かりませんですけれども、昨日グレイが感じていたスヴァン以外の気配の正体が分かりました。アトイさんにもご協力願いたいので、奢って頂けるのなら同席してください」
「では、レイの策を伺ってから、滞在を延長するかどうかを決めましょう」
 テルラの言葉に、仲間達は揃って頷いた。
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