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第三話

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 やる事がなくなったので、カレンは真っ直ぐ教会に帰った。
 しかし教会に面白い事が有るはずもなく、礼拝堂に備え付けられている聖書を読んだり、女神像に祈りを捧げる信者を観察したりした。普通に面白くなかった。
 日が暮れて、奥の客間にパーティメンバー全員が集まるのを待ってから話を切り出した。
「みんな、ちょっと良いかな。この街の魔法学校の先生に依頼を受けて欲しいってお願いされたんだけど、どうかな」
「どの様な依頼ですか?」
 神父が着る様な黒いローブに着替えているテルラの質問に頷きを返したカレンは、テーブルに手書きの地図を広げた。メモ用紙に丸と線と文字だけが描かれている簡単な物だった。
「真ん中の丸がこの街で、下が聖都。そのふたつを結ぶ線が、私達が歩いて来た道。分かるかな」
「ええ。続けてください」
「で、ここが分かれ道。グレイが狙撃していた場所。その近くに丘が有って、そこが依頼の場所。多分、位置的にグレイが潜んでいた付近だと思う」
 みんなと一緒に地図を見ていたグレイが鼻を鳴らす。
「あそこか」
「あの丘のどこかに洞窟が有って、そこにロケットと指輪を落としたんだって。財布も一緒に有るはずだから、その中身が報酬。ロケットと指輪を盗まずに彼の自宅に届けてくれたら追加報酬だって」
「話を聞くだけなら簡単な仕事っスね。問題は洞窟がどこに有るかと、魔物や野生動物がどれだけ居るか、っスね」
 地図を一瞥したプリシゥアは、壁に凭れ掛かってそう言った。雑な地図を理解するのに嫌気がさし、他の仲間が分かっていれば良いやとさじを投げた様だ。どうせ隊列のしんがり担当だから、どこに行くとしてもみんなの背中に付いて行くしかない。
「洞窟に行くの自体はそんなに難しくないみたい。実際、一度行って落とし物をしている訳だし。ただ、学校の先生だから時間に余裕が無くて、お金もあんまり持ってない。だから偶然出会った新人ハンターの私にお願いしたって訳」
「俺はあそこで一晩過ごしたが、危険そうな動物や魔物は居なかったぞ。食える草や木の実が有って、野宿には悪くない丘だった」
 グレイがそう言うと、黙って椅子に座っていたレイが頬に掛かっていた銀髪を指で弾いた。彼女もシスターの様な黒いローブに着替えている。
「その教師は、どうしてそんなところで指輪や財布を落としたんでしょう。普通に考えればわたくし達を誘き出す罠ですよね。その教師は、カレンがわたくしやテルラの仲間だと知っておられるんでしょうか」
「さぁ? その人は、私達が受けてくれなかったら諦めて、その内機を見て自分で探すってさ。簡単に行ける場所だから、誰かに拾われてネコババされるのを心配してるんだって。――どうする?」
 全員の視線がテルラに集まる。
「そうですね」
 相槌を打って考える時間を稼いだテルラは、レイを見つつ切り出した。
「もしも罠だとしたら、僕達の身分を隠さない以上、今後も同様の依頼が有るでしょう。となると、ここで予行練習をしておくのも悪くないと思います」
「罠に掛かった時、どう対処するか、ですわね」
「はい。罠じゃなかったとしても、街の外で動く練習になります。しかもお金を稼げる。と言う訳で、この依頼を受けようと思います。みなさんはどう思われますか?」
「テルラの決定に従いますわ」
「私も異存は無いっス」
「みんなありがとう。出発は明日? あ、グレイのハンター許可証を待つ?」
 カレンが訊くと、テルラは即答する。
「個人から直接受ける依頼ですので、許可証は要らないでしょう。勇者と同じです」
「そっか。じゃ、そう言う事で」
「はい。レイとプリシゥアは、罠だった時の対策を考えておいてください。カレンとグレイは目的地の地理を、出来るだけ正確に把握してください。僕は、出掛けている間にハンター許可証が届いたときの対処を教会の人と相談します」
 テルラの指示に従い、五人はそれぞれの役割を果たすために動き出した。
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