24 / 277
第三話
6
しおりを挟む
やる事がなくなったので、カレンは真っ直ぐ教会に帰った。
しかし教会に面白い事が有るはずもなく、礼拝堂に備え付けられている聖書を読んだり、女神像に祈りを捧げる信者を観察したりした。普通に面白くなかった。
日が暮れて、奥の客間にパーティメンバー全員が集まるのを待ってから話を切り出した。
「みんな、ちょっと良いかな。この街の魔法学校の先生に依頼を受けて欲しいってお願いされたんだけど、どうかな」
「どの様な依頼ですか?」
神父が着る様な黒いローブに着替えているテルラの質問に頷きを返したカレンは、テーブルに手書きの地図を広げた。メモ用紙に丸と線と文字だけが描かれている簡単な物だった。
「真ん中の丸がこの街で、下が聖都。そのふたつを結ぶ線が、私達が歩いて来た道。分かるかな」
「ええ。続けてください」
「で、ここが分かれ道。グレイが狙撃していた場所。その近くに丘が有って、そこが依頼の場所。多分、位置的にグレイが潜んでいた付近だと思う」
みんなと一緒に地図を見ていたグレイが鼻を鳴らす。
「あそこか」
「あの丘のどこかに洞窟が有って、そこにロケットと指輪を落としたんだって。財布も一緒に有るはずだから、その中身が報酬。ロケットと指輪を盗まずに彼の自宅に届けてくれたら追加報酬だって」
「話を聞くだけなら簡単な仕事っスね。問題は洞窟がどこに有るかと、魔物や野生動物がどれだけ居るか、っスね」
地図を一瞥したプリシゥアは、壁に凭れ掛かってそう言った。雑な地図を理解するのに嫌気がさし、他の仲間が分かっていれば良いやとさじを投げた様だ。どうせ隊列のしんがり担当だから、どこに行くとしてもみんなの背中に付いて行くしかない。
「洞窟に行くの自体はそんなに難しくないみたい。実際、一度行って落とし物をしている訳だし。ただ、学校の先生だから時間に余裕が無くて、お金もあんまり持ってない。だから偶然出会った新人ハンターの私にお願いしたって訳」
「俺はあそこで一晩過ごしたが、危険そうな動物や魔物は居なかったぞ。食える草や木の実が有って、野宿には悪くない丘だった」
グレイがそう言うと、黙って椅子に座っていたレイが頬に掛かっていた銀髪を指で弾いた。彼女もシスターの様な黒いローブに着替えている。
「その教師は、どうしてそんなところで指輪や財布を落としたんでしょう。普通に考えればわたくし達を誘き出す罠ですよね。その教師は、カレンがわたくしやテルラの仲間だと知っておられるんでしょうか」
「さぁ? その人は、私達が受けてくれなかったら諦めて、その内機を見て自分で探すってさ。簡単に行ける場所だから、誰かに拾われてネコババされるのを心配してるんだって。――どうする?」
全員の視線がテルラに集まる。
「そうですね」
相槌を打って考える時間を稼いだテルラは、レイを見つつ切り出した。
「もしも罠だとしたら、僕達の身分を隠さない以上、今後も同様の依頼が有るでしょう。となると、ここで予行練習をしておくのも悪くないと思います」
「罠に掛かった時、どう対処するか、ですわね」
「はい。罠じゃなかったとしても、街の外で動く練習になります。しかもお金を稼げる。と言う訳で、この依頼を受けようと思います。みなさんはどう思われますか?」
「テルラの決定に従いますわ」
「私も異存は無いっス」
「みんなありがとう。出発は明日? あ、グレイのハンター許可証を待つ?」
カレンが訊くと、テルラは即答する。
「個人から直接受ける依頼ですので、許可証は要らないでしょう。勇者と同じです」
「そっか。じゃ、そう言う事で」
「はい。レイとプリシゥアは、罠だった時の対策を考えておいてください。カレンとグレイは目的地の地理を、出来るだけ正確に把握してください。僕は、出掛けている間にハンター許可証が届いたときの対処を教会の人と相談します」
テルラの指示に従い、五人はそれぞれの役割を果たすために動き出した。
しかし教会に面白い事が有るはずもなく、礼拝堂に備え付けられている聖書を読んだり、女神像に祈りを捧げる信者を観察したりした。普通に面白くなかった。
日が暮れて、奥の客間にパーティメンバー全員が集まるのを待ってから話を切り出した。
「みんな、ちょっと良いかな。この街の魔法学校の先生に依頼を受けて欲しいってお願いされたんだけど、どうかな」
「どの様な依頼ですか?」
神父が着る様な黒いローブに着替えているテルラの質問に頷きを返したカレンは、テーブルに手書きの地図を広げた。メモ用紙に丸と線と文字だけが描かれている簡単な物だった。
「真ん中の丸がこの街で、下が聖都。そのふたつを結ぶ線が、私達が歩いて来た道。分かるかな」
「ええ。続けてください」
「で、ここが分かれ道。グレイが狙撃していた場所。その近くに丘が有って、そこが依頼の場所。多分、位置的にグレイが潜んでいた付近だと思う」
みんなと一緒に地図を見ていたグレイが鼻を鳴らす。
「あそこか」
「あの丘のどこかに洞窟が有って、そこにロケットと指輪を落としたんだって。財布も一緒に有るはずだから、その中身が報酬。ロケットと指輪を盗まずに彼の自宅に届けてくれたら追加報酬だって」
「話を聞くだけなら簡単な仕事っスね。問題は洞窟がどこに有るかと、魔物や野生動物がどれだけ居るか、っスね」
地図を一瞥したプリシゥアは、壁に凭れ掛かってそう言った。雑な地図を理解するのに嫌気がさし、他の仲間が分かっていれば良いやとさじを投げた様だ。どうせ隊列のしんがり担当だから、どこに行くとしてもみんなの背中に付いて行くしかない。
「洞窟に行くの自体はそんなに難しくないみたい。実際、一度行って落とし物をしている訳だし。ただ、学校の先生だから時間に余裕が無くて、お金もあんまり持ってない。だから偶然出会った新人ハンターの私にお願いしたって訳」
「俺はあそこで一晩過ごしたが、危険そうな動物や魔物は居なかったぞ。食える草や木の実が有って、野宿には悪くない丘だった」
グレイがそう言うと、黙って椅子に座っていたレイが頬に掛かっていた銀髪を指で弾いた。彼女もシスターの様な黒いローブに着替えている。
「その教師は、どうしてそんなところで指輪や財布を落としたんでしょう。普通に考えればわたくし達を誘き出す罠ですよね。その教師は、カレンがわたくしやテルラの仲間だと知っておられるんでしょうか」
「さぁ? その人は、私達が受けてくれなかったら諦めて、その内機を見て自分で探すってさ。簡単に行ける場所だから、誰かに拾われてネコババされるのを心配してるんだって。――どうする?」
全員の視線がテルラに集まる。
「そうですね」
相槌を打って考える時間を稼いだテルラは、レイを見つつ切り出した。
「もしも罠だとしたら、僕達の身分を隠さない以上、今後も同様の依頼が有るでしょう。となると、ここで予行練習をしておくのも悪くないと思います」
「罠に掛かった時、どう対処するか、ですわね」
「はい。罠じゃなかったとしても、街の外で動く練習になります。しかもお金を稼げる。と言う訳で、この依頼を受けようと思います。みなさんはどう思われますか?」
「テルラの決定に従いますわ」
「私も異存は無いっス」
「みんなありがとう。出発は明日? あ、グレイのハンター許可証を待つ?」
カレンが訊くと、テルラは即答する。
「個人から直接受ける依頼ですので、許可証は要らないでしょう。勇者と同じです」
「そっか。じゃ、そう言う事で」
「はい。レイとプリシゥアは、罠だった時の対策を考えておいてください。カレンとグレイは目的地の地理を、出来るだけ正確に把握してください。僕は、出掛けている間にハンター許可証が届いたときの対処を教会の人と相談します」
テルラの指示に従い、五人はそれぞれの役割を果たすために動き出した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
アルヴニカ戦記 ~斜陽国家のリブート型貴種流離譚~
あ・まん@田中子樹
ファンタジー
【百年の闘争の末、大陸はひとりの少年の登場によって歴史を大きく塗り替える】
戦争が100年続いているアルヴニカ大陸の「百年戦役」……。
この100年間で実に13もの国が滅び、5つの国へと絞られた。
そして、今、まさにひとつの国が堕ちようとしていた。
誰もが絶対に命を落とすと思っている隣国レッドテラ帝国との最後の1戦……戦力差は実に10倍以上、歴戦の知将もいなければ、兵を鼓舞して士気をあげ、戦力差を覆す武を誇る勇将もいないキサ王国。
そんな死地の最前線へ立たされた主人公サオン、彼には確実な死が待っている。だが彼の運命は意外な変化を遂げる。
これは、才能の欠片もない平凡な主人公が、英雄への道を歩む軌跡を描いた物語。
おおぅ、神よ……ここからってマジですか?
夢限
ファンタジー
俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。
人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。
そんな俺は、突如病に倒れ死亡。
次に気が付いたときそこには神様がいた。
どうやら、異世界転生ができるらしい。
よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。
……なんて、思っていた時が、ありました。
なんで、奴隷スタートなんだよ。
最底辺過ぎる。
そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。
それは、新たな俺には名前がない。
そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。
それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。
まぁ、いろいろやってみようと思う。
これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。
七夕の出逢い
葉野りるは
恋愛
財閥のお嬢様なんていいことないわ。
お見合いから始まる恋もあるのかもしれない。
でも、私は――
道端に咲く花を見つけるような、河原にあるたくさんの石から特別なひとつを見つけるような、そんな恋をしたい。
会社や家柄、そんなものに左右されない確かなもの。
私に与えられたこの狭い世界で、私は見つけることができるかしら?
見つけてもらうのではなく、自分で見つけたい……
■□■□■□■□
これはまだ携帯電話が普及する前の時代、恋を夢見る財閥のお嬢様のお話。
お見合い続きで胃の調子が優れなかったところ、偶然出逢った医師に突然の申し出をされる。
「あなたの胃が治るまで、私が交際相手になりましょう」
そこから始まった偽りの関係は……?
お嬢様として異世界で暮らすことに!?
松原 透
ファンタジー
気がつけば奴隷少女になっていた!?
突然の状況に困惑していると、この屋敷の主から奴隷商人の話を勧められる。
奴隷商人になるか、変態貴族に売られるか、その二択を迫られる。
仕事一筋な就労馬鹿の俺は勘違いをしていた。
半年後までに、奴隷商人にとって必要な奴隷魔法を使えること。あの、魔法ってなんですか?
失敗をすれば変態貴族に売られる。少女の体にそんな事は耐えられない。俺は貞操を守るため懸命に魔法や勉学に励む。
だけど……
おっさんだった俺にフリフリスカート!?
ご令嬢のような淑女としての様々なレッスン!? む、無理。
淑女や乙女ってなんだよ。奴隷商人の俺には必要ないだろうが!
この異世界でお嬢様として、何時の日かまったりとした生活は訪れるのだろうか?
*カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
国外追放されたい乙女ゲームの悪役令嬢、聖女を超えた魔力のせいでヒロインより溺愛されて困まっています。
白藍まこと
ファンタジー
わたしは乙女ゲームの悪役令嬢ロゼ・ヴァンリエッタに転生してしまう。
ロゼはその悪役ムーブで最終的には国外追放されてしまう主人公(ヒロイン)の咬ませ犬だ。
それはまずい。
原作ルートを回避してモブ令嬢として慎ましく……する必要ないか?
大人しく国外追放されて自由気ままなスローライフ送ればいいんじゃない?
なーんだ簡単じゃん、原作通りにするだけだもん。
一人でも生きていけるように魔術の鍛錬だけしとくかな。
……あれ?
皆さんから妙に好かれている気がする。なぜ。
外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件
霜月雹花
ファンタジー
15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。
どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。
そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。
しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。
「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」
だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。
受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。
アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。
2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる