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第三話
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カレンとグレイは良い匂いを通りまで漂わせている肉料理店に入った。
一番に席に座ったグレイは、注文を取りに来たウェイトレスにメニューを見ずに注文した。
「コレで食える一番量が多いリブロースを頼む。肉以外はいらん」
それだけ言って、ウェイトレスが持っているお盆に小銭を乗せた。
「思い切った注文の仕方だねぇ。まぁ、間違いが無い方法だね。――私はサーロインセットを」
カレンも真似をして小銭をお盆に乗せた。
そこからお釣りを二人に返したウェイトレスは、元気良く声を出して厨房に注文を伝えた。昼時なので、店内は程良く混んでいる。
「カレンは、なんでハンターになろうと思ったんだ? 他の奴等とは全然雰囲気が違うが。武器も持っていないし」
グレイはテーブルに頬杖を突いて訊いた。身体が小さいので、テーブルの高さが肘を突くのに丁度良い。
「んー。子供に言って良い内容じゃないかな」
「そんなに深刻な理由なのか」
「いや、それほどでも。――まぁ、テルラにも言っちゃってるから、グレイに言っても大丈夫か。えっとね、村の勇者に愛人にならないかって言われたの。でも嫌だから村から出たかったの。だからハンターを始めたって訳。仕事をすれば一人で生きて行けるし」
「愛人か。力を持った奴が無体を言うのは海も陸も同じだな」
「ああ、そうね。海賊の強い人って女の人を囲いそう。――グレイは、どうして海賊になったの?」
「世襲だ。親父が死んだから、娘の俺が船を譲り受けたんだ」
「年齢とか気にしないの? 物語でしか知らないけど、海賊って、普通は大勢でひとつの船に乗ってるでしょ? 仲間はみんな大人なんじゃないの?」
「船長が俺なのが嫌なら船から降ろすしかない。海賊は海賊だと名乗れば誰でもなれるから、自分の船を手に入れて自分が思う通りの船長になれば良い」
「じゃ、私が今から海賊になりますって言えば、私は海賊なの?」
「そうなる。しかし、山賊と違い、海賊は船を持っていなければ海には出られない。だから船を持っている船長は偉いんだ。まぁ、俺は両親から受け継いだ船を護れなかったが」
「だから船が欲しくて、手っ取り早くお金を稼ごうとあんな事を。――悪い事って、船を買えるほど儲かるの?」
「どうだろうな。思った通りに事が運べばそりゃ大儲け出来るだろうが、現実は一回目で大失敗だ。俺は運良くお前達に拾われたが、普通はその場で殺されるか、俺は女だからどこかに売られるかだ」
「そっか。そうだよね。儲かるんならグレイと一緒に逃げて悪い事をするのも有りかなぁって思ったけど、そんなに甘くないか」
「お前も中々言う奴だな。あいつらを裏切るつもりなのか?」
「裏切るとか、そう言うんじゃないよ。ただ村に帰れなきゃそれで良いだけ」
カレンの言葉を鼻で笑うグレイ。
「動機は何でも良いよ。海賊の仲間になるのはな。問題はなった後だ。悪人の中に女が入る意味を理解してるなら俺の手下にしてやっても良い」
「手下、か」
「俺の下になるのは不満か?」
「んー。なんて言ったら良いか。今のパーティみたいに、楽しくのんびり行けたら良いなぁって。みんな船長より偉い王女様とタメ口じゃない? そんな、友達みたいな感じにならない?」
「あいつらを基準に考えるな。あの雰囲気は苦労を知らない同年代の少人数だからそうなってるだけだ。俺が海賊に戻ったら、カレンでも対等な立場には絶対にしないぞ。トップが複数居ると船が沈むと言われているからな」
厳しく断言されたカレンは不機嫌そうに口をへの字にしたが、すぐに気持ちを切り替えて背凭れに体重を預けた。
「まぁ、今はテルラのパーティの一員だから、難しい事は良いよ。ただ、ハンターの仕事が思ったより良くなかったら、そう言う道も考えようかなって。どう思う?」
「狙撃は二人一組でやるのが基本だから、カレンが仕事を覚えてくれるなら助かる。今後カレンの働きを見て、その時が来たら判断するよ。お、来た来た」
ウェイトレスが運んで来た熱々のステーキを見て目を輝かせるグレイ。好物を前にした時は年相応の表情になる。
そして、行儀悪く食前のあいさつ無しに食べ始める。
「頂きます」
カレンは女神への恵みの感謝の言葉を言ってからフォークを持った。
グレイは『ガツガツ』と肉を食べているが、見た目の汚さに反して肉汁を一滴も飛ばしていない。
「ふぅ、美味かった。さて、と。魔物を相手にするなら、人間を相手にする時よりも実弾を撃つ事になるんだろうな。準備しておくか」
皿を空にしたグレイは、膨れた腹を擦りながら客を見た。何気無い様で、しかし隙の無い目付きだった。
「なんか悪い事をしそうな目付きだね」
「周囲の状況を探るのがクセになってるだけだ。今日食わせて貰った分は働きで返すつもりだから、当分は悪事は無しだ。俺は弾丸用の火薬を買わなきゃならないから、この後は別行動だな」
席を立ったグレイは、カレンの返事を待たずに店を出て行った。
それを見送ってから、カレンも食事を終えた。
「海賊、か。でもまぁ、王女と大聖堂の跡取りと一緒に居た方が収入は安定するよね。グレイも、だから悪事をしないんだろうな」
そう納得したカレンが立ち上がると、すぐにさっきのウェイトレスが空の皿を片付けた。
そして、入れ替わる様に次の客がテーブルに着いた。
一番に席に座ったグレイは、注文を取りに来たウェイトレスにメニューを見ずに注文した。
「コレで食える一番量が多いリブロースを頼む。肉以外はいらん」
それだけ言って、ウェイトレスが持っているお盆に小銭を乗せた。
「思い切った注文の仕方だねぇ。まぁ、間違いが無い方法だね。――私はサーロインセットを」
カレンも真似をして小銭をお盆に乗せた。
そこからお釣りを二人に返したウェイトレスは、元気良く声を出して厨房に注文を伝えた。昼時なので、店内は程良く混んでいる。
「カレンは、なんでハンターになろうと思ったんだ? 他の奴等とは全然雰囲気が違うが。武器も持っていないし」
グレイはテーブルに頬杖を突いて訊いた。身体が小さいので、テーブルの高さが肘を突くのに丁度良い。
「んー。子供に言って良い内容じゃないかな」
「そんなに深刻な理由なのか」
「いや、それほどでも。――まぁ、テルラにも言っちゃってるから、グレイに言っても大丈夫か。えっとね、村の勇者に愛人にならないかって言われたの。でも嫌だから村から出たかったの。だからハンターを始めたって訳。仕事をすれば一人で生きて行けるし」
「愛人か。力を持った奴が無体を言うのは海も陸も同じだな」
「ああ、そうね。海賊の強い人って女の人を囲いそう。――グレイは、どうして海賊になったの?」
「世襲だ。親父が死んだから、娘の俺が船を譲り受けたんだ」
「年齢とか気にしないの? 物語でしか知らないけど、海賊って、普通は大勢でひとつの船に乗ってるでしょ? 仲間はみんな大人なんじゃないの?」
「船長が俺なのが嫌なら船から降ろすしかない。海賊は海賊だと名乗れば誰でもなれるから、自分の船を手に入れて自分が思う通りの船長になれば良い」
「じゃ、私が今から海賊になりますって言えば、私は海賊なの?」
「そうなる。しかし、山賊と違い、海賊は船を持っていなければ海には出られない。だから船を持っている船長は偉いんだ。まぁ、俺は両親から受け継いだ船を護れなかったが」
「だから船が欲しくて、手っ取り早くお金を稼ごうとあんな事を。――悪い事って、船を買えるほど儲かるの?」
「どうだろうな。思った通りに事が運べばそりゃ大儲け出来るだろうが、現実は一回目で大失敗だ。俺は運良くお前達に拾われたが、普通はその場で殺されるか、俺は女だからどこかに売られるかだ」
「そっか。そうだよね。儲かるんならグレイと一緒に逃げて悪い事をするのも有りかなぁって思ったけど、そんなに甘くないか」
「お前も中々言う奴だな。あいつらを裏切るつもりなのか?」
「裏切るとか、そう言うんじゃないよ。ただ村に帰れなきゃそれで良いだけ」
カレンの言葉を鼻で笑うグレイ。
「動機は何でも良いよ。海賊の仲間になるのはな。問題はなった後だ。悪人の中に女が入る意味を理解してるなら俺の手下にしてやっても良い」
「手下、か」
「俺の下になるのは不満か?」
「んー。なんて言ったら良いか。今のパーティみたいに、楽しくのんびり行けたら良いなぁって。みんな船長より偉い王女様とタメ口じゃない? そんな、友達みたいな感じにならない?」
「あいつらを基準に考えるな。あの雰囲気は苦労を知らない同年代の少人数だからそうなってるだけだ。俺が海賊に戻ったら、カレンでも対等な立場には絶対にしないぞ。トップが複数居ると船が沈むと言われているからな」
厳しく断言されたカレンは不機嫌そうに口をへの字にしたが、すぐに気持ちを切り替えて背凭れに体重を預けた。
「まぁ、今はテルラのパーティの一員だから、難しい事は良いよ。ただ、ハンターの仕事が思ったより良くなかったら、そう言う道も考えようかなって。どう思う?」
「狙撃は二人一組でやるのが基本だから、カレンが仕事を覚えてくれるなら助かる。今後カレンの働きを見て、その時が来たら判断するよ。お、来た来た」
ウェイトレスが運んで来た熱々のステーキを見て目を輝かせるグレイ。好物を前にした時は年相応の表情になる。
そして、行儀悪く食前のあいさつ無しに食べ始める。
「頂きます」
カレンは女神への恵みの感謝の言葉を言ってからフォークを持った。
グレイは『ガツガツ』と肉を食べているが、見た目の汚さに反して肉汁を一滴も飛ばしていない。
「ふぅ、美味かった。さて、と。魔物を相手にするなら、人間を相手にする時よりも実弾を撃つ事になるんだろうな。準備しておくか」
皿を空にしたグレイは、膨れた腹を擦りながら客を見た。何気無い様で、しかし隙の無い目付きだった。
「なんか悪い事をしそうな目付きだね」
「周囲の状況を探るのがクセになってるだけだ。今日食わせて貰った分は働きで返すつもりだから、当分は悪事は無しだ。俺は弾丸用の火薬を買わなきゃならないから、この後は別行動だな」
席を立ったグレイは、カレンの返事を待たずに店を出て行った。
それを見送ってから、カレンも食事を終えた。
「海賊、か。でもまぁ、王女と大聖堂の跡取りと一緒に居た方が収入は安定するよね。グレイも、だから悪事をしないんだろうな」
そう納得したカレンが立ち上がると、すぐにさっきのウェイトレスが空の皿を片付けた。
そして、入れ替わる様に次の客がテーブルに着いた。
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