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第三話
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早朝からやっているレストランの場所を街の人に聞いたカレン達三人は、そのお店で朝食を取った。
「この卵と鶏肉の親子リゾットって奴、美味しい。この店、当たりだね」
カレンは喜んでいるが、サンドイッチを頼んだレイとハンバーガーを頼んだグレイの表情は暗かった。
「折角テルラと一緒の旅ですのに、早速別行動とは。ガッカリですわ」
「このハンバーガー、肉が少ないな。なんで朝だとステーキが無いんだ」
「そりゃ、朝からステーキ食べる人なんて居ないからでしょ。お肉屋さんも開いてないだろうし」
店内に目を向けるカレン。客は少なく、徹夜明けっぽい無精髭を生やした兵士数人が食事を取っているだけだった。
グレイも男達を見て不満顔をする。
「都会だから良い肉が食えると思ったのに。陸に上がってからは盗んだ野菜や果物ばっかりだったし、昨日の夜も干し芋だったから、肉に飢えてるんだよ、俺は」
「盗んだ? 悪い事はまだしていないんじゃなかった?」
「畑に生えてる野菜なんか一個二個消えても分かんないよ。そんな事より、昼は肉を食うぞ。良いな?」
「これを食べ終わったら役所に行くからね。そう言う約束で食費を貰ったんだから、仕事はキッチリやるよ。お肉が食べられるかは良い仕事が有るかどうかに掛かってるから、お昼の心配はそれからにしてよね」
「分かってるよ」
「レイも分かってる?」
「勿論ですわ。廊下でお話しなさっていたテルラの声は聞こえていましたから」
「なら良いけど。って、何で私がリーダーみたいになってるのよ。そう言うのはレイの役割なんじゃないの?」
「テルラが依頼を見て来いとカレンにお願いしたのなら、カレンが一時的にリーダーをこなすのが道理ですわ。わたくしにお願いされていたのなら、勿論わたくしがやりますけれど」
「まぁ、寝坊した奴にお願いは出来ないからな。縛られて動けなかったとしてもな」
「プリシゥアの狸寝入りを見抜けなかったのは一生の不覚ですわ。お陰で寝不足ですわ。長時間同じ姿勢だったから身体も痛いですし。――ん? あのお方は、もしや」
グレイの冷やかしに苛立ちを返したレイは、不穏な気配を感じて振り向いた。
店の入り口付近に、中腰でコソコソしている若い男が居た。その動作が食事中の兵士達の目を引き、店内の空気が微妙になった様だ。
気付いてしまった以上は無視出来ない相手なので、レイは食事を中断して立ち上がった。
「もし。貴方は、もしや――」
レイに話し掛けられた若い男は、人差し指を口に当てて「シー」と言った。
護衛らしい屈強な男と若い女がレイを睨んだが、銀髪美女の顔に見覚えが有る事にすぐ気付いて一歩引いた。
全員がレイと同じくハンターの様な武装をしている。
「こんな所で貴女とお会いするとは夢にも思いませんでしたよ。ここはひとつ、お互いに会わなかった事にしませんか?」
レイと同い年か少し年上くらいの美青年は、金髪の頭を掻いて困り顔をした。
「わたくしは別にお忍びと言う訳ではないので、ひとつ貸し、で宜しければ質問は致しませんけど」
「参ったな」
「あら。返答を渋るくらいに後ろめたい事をなさっておいでで?」
「まさか。――分かりましたよ。降参だ。いつか返しますよ。では、また」
「ごきげんよう」
観念してさわやかに笑んだ金髪の美青年は、護衛を伴ってレストランを後にした。
「今のは誰だ? 知り合いか?」
一部始終を凝視していたグレイは、席に戻って来たレイに小声で訊いた。
「気になりますか? あの方とは会わなかった事にすると約束したのですが」
とぼける気満々のすまし顔で食べ掛けのサンドイッチを口に運ぶレイ。
「凄く気になるな。あいつは信用出来ない顔をしている。海で出会ったら、絶対に俺の船に乗せないタイプだ。そんな奴と知り合いのレイも信用出来なくなるくらいに信用出来ない」
「ふむ……これは『人を見る目が有る』と受け止めても宜しいのでしょうか」
レイは咀嚼しながらグレイの顔を見る。
グレイは、値踏みする様な目付きでレイを見返している。
リゾットを食べ終わっているカレンは二人の顔を交互に見ている。
「あいつの正体を言わないのなら、とてもじゃないが信用出来ないので、ここでお別れだ。どうする?」
「仕方ありませんわね。わたくしのせいで仲間が減ったとなったらテルラがガッカリしてしまいますので、特別に応えましょう。彼とわたくしの信用に係わる事なので、他言無用でお願いしますわ」
「形見の銃に誓って他言しないと約束しよう」
口の中の物を飲み込んでから手招きするレイ。
レイとグレイは顔を近付けて声を潜めた。
ちゃっかりとカレンも聞き耳を立てているが、レイは特に咎めなかった。
「彼の名は、ハイタッチ・ガガ・ランドビーク。ランドビーク王国の第三王子ですわ。本来なら我がエルカノート王国内にお忍びで居てはいけないお方ですが、見ないふりをしてくれとお願いされたんですわ」
「なるほど、第三王子か。道理で嫌な雰囲気を出してる訳だ」
「道理で、とは?」
「自身が持っている力に対する責任を理解していない風に見えた。海賊でも、跡取りでない三番目四番目の子は大体阿呆な厄介者だった。あいつはそいつらと同じ顔をしていた。まぁ、荒くれ者の集まりの海賊と得体の知れない王族では勝手が違うだろうがな」
「耳が痛いですわ……」
第二子と言う立場に甘えてハンターになったレイが頬を引き攣らせる。
「なぜ見ないふりを受け入れた?」
「今のわたくしはハンターですからね。これから役所に行く予定も入っています。ここで国際問題を表沙汰にしたら面倒しか起こりませんわ。それに、グレイの勘が示す通り、彼には良い王族ではないと言える噂が囁かれています。彼の機嫌を損ねると、きっと仕事の邪魔になります」
「そうか。お前は、国よりもテルラを優先して考えるんだな」
「当然ですわ。国王が健在であられる今は、1ハンターのわたくしが国を憂いても意味が有りません。もっとも、持っている義務や責任まで放棄するつもりはありませんので、ハッキリと悪い事をなさるのならば見逃しませんが。グレイに対してもそうでしたでしょう?」
「分かった。――しかしなんだな」
レイから顔を離したグレイは、肩を竦めて溜息を吐いた。
「レイは本当に王女だったんだな」
「わたくしも信用していませんでしたの?」
「当然だ。今朝の姿を見たら誰でもそう思う」
そう言ったグレイは、ハンバーガーを口に押し込んだ。
その隣でカレンが声を殺して笑っていた。
「この卵と鶏肉の親子リゾットって奴、美味しい。この店、当たりだね」
カレンは喜んでいるが、サンドイッチを頼んだレイとハンバーガーを頼んだグレイの表情は暗かった。
「折角テルラと一緒の旅ですのに、早速別行動とは。ガッカリですわ」
「このハンバーガー、肉が少ないな。なんで朝だとステーキが無いんだ」
「そりゃ、朝からステーキ食べる人なんて居ないからでしょ。お肉屋さんも開いてないだろうし」
店内に目を向けるカレン。客は少なく、徹夜明けっぽい無精髭を生やした兵士数人が食事を取っているだけだった。
グレイも男達を見て不満顔をする。
「都会だから良い肉が食えると思ったのに。陸に上がってからは盗んだ野菜や果物ばっかりだったし、昨日の夜も干し芋だったから、肉に飢えてるんだよ、俺は」
「盗んだ? 悪い事はまだしていないんじゃなかった?」
「畑に生えてる野菜なんか一個二個消えても分かんないよ。そんな事より、昼は肉を食うぞ。良いな?」
「これを食べ終わったら役所に行くからね。そう言う約束で食費を貰ったんだから、仕事はキッチリやるよ。お肉が食べられるかは良い仕事が有るかどうかに掛かってるから、お昼の心配はそれからにしてよね」
「分かってるよ」
「レイも分かってる?」
「勿論ですわ。廊下でお話しなさっていたテルラの声は聞こえていましたから」
「なら良いけど。って、何で私がリーダーみたいになってるのよ。そう言うのはレイの役割なんじゃないの?」
「テルラが依頼を見て来いとカレンにお願いしたのなら、カレンが一時的にリーダーをこなすのが道理ですわ。わたくしにお願いされていたのなら、勿論わたくしがやりますけれど」
「まぁ、寝坊した奴にお願いは出来ないからな。縛られて動けなかったとしてもな」
「プリシゥアの狸寝入りを見抜けなかったのは一生の不覚ですわ。お陰で寝不足ですわ。長時間同じ姿勢だったから身体も痛いですし。――ん? あのお方は、もしや」
グレイの冷やかしに苛立ちを返したレイは、不穏な気配を感じて振り向いた。
店の入り口付近に、中腰でコソコソしている若い男が居た。その動作が食事中の兵士達の目を引き、店内の空気が微妙になった様だ。
気付いてしまった以上は無視出来ない相手なので、レイは食事を中断して立ち上がった。
「もし。貴方は、もしや――」
レイに話し掛けられた若い男は、人差し指を口に当てて「シー」と言った。
護衛らしい屈強な男と若い女がレイを睨んだが、銀髪美女の顔に見覚えが有る事にすぐ気付いて一歩引いた。
全員がレイと同じくハンターの様な武装をしている。
「こんな所で貴女とお会いするとは夢にも思いませんでしたよ。ここはひとつ、お互いに会わなかった事にしませんか?」
レイと同い年か少し年上くらいの美青年は、金髪の頭を掻いて困り顔をした。
「わたくしは別にお忍びと言う訳ではないので、ひとつ貸し、で宜しければ質問は致しませんけど」
「参ったな」
「あら。返答を渋るくらいに後ろめたい事をなさっておいでで?」
「まさか。――分かりましたよ。降参だ。いつか返しますよ。では、また」
「ごきげんよう」
観念してさわやかに笑んだ金髪の美青年は、護衛を伴ってレストランを後にした。
「今のは誰だ? 知り合いか?」
一部始終を凝視していたグレイは、席に戻って来たレイに小声で訊いた。
「気になりますか? あの方とは会わなかった事にすると約束したのですが」
とぼける気満々のすまし顔で食べ掛けのサンドイッチを口に運ぶレイ。
「凄く気になるな。あいつは信用出来ない顔をしている。海で出会ったら、絶対に俺の船に乗せないタイプだ。そんな奴と知り合いのレイも信用出来なくなるくらいに信用出来ない」
「ふむ……これは『人を見る目が有る』と受け止めても宜しいのでしょうか」
レイは咀嚼しながらグレイの顔を見る。
グレイは、値踏みする様な目付きでレイを見返している。
リゾットを食べ終わっているカレンは二人の顔を交互に見ている。
「あいつの正体を言わないのなら、とてもじゃないが信用出来ないので、ここでお別れだ。どうする?」
「仕方ありませんわね。わたくしのせいで仲間が減ったとなったらテルラがガッカリしてしまいますので、特別に応えましょう。彼とわたくしの信用に係わる事なので、他言無用でお願いしますわ」
「形見の銃に誓って他言しないと約束しよう」
口の中の物を飲み込んでから手招きするレイ。
レイとグレイは顔を近付けて声を潜めた。
ちゃっかりとカレンも聞き耳を立てているが、レイは特に咎めなかった。
「彼の名は、ハイタッチ・ガガ・ランドビーク。ランドビーク王国の第三王子ですわ。本来なら我がエルカノート王国内にお忍びで居てはいけないお方ですが、見ないふりをしてくれとお願いされたんですわ」
「なるほど、第三王子か。道理で嫌な雰囲気を出してる訳だ」
「道理で、とは?」
「自身が持っている力に対する責任を理解していない風に見えた。海賊でも、跡取りでない三番目四番目の子は大体阿呆な厄介者だった。あいつはそいつらと同じ顔をしていた。まぁ、荒くれ者の集まりの海賊と得体の知れない王族では勝手が違うだろうがな」
「耳が痛いですわ……」
第二子と言う立場に甘えてハンターになったレイが頬を引き攣らせる。
「なぜ見ないふりを受け入れた?」
「今のわたくしはハンターですからね。これから役所に行く予定も入っています。ここで国際問題を表沙汰にしたら面倒しか起こりませんわ。それに、グレイの勘が示す通り、彼には良い王族ではないと言える噂が囁かれています。彼の機嫌を損ねると、きっと仕事の邪魔になります」
「そうか。お前は、国よりもテルラを優先して考えるんだな」
「当然ですわ。国王が健在であられる今は、1ハンターのわたくしが国を憂いても意味が有りません。もっとも、持っている義務や責任まで放棄するつもりはありませんので、ハッキリと悪い事をなさるのならば見逃しませんが。グレイに対してもそうでしたでしょう?」
「分かった。――しかしなんだな」
レイから顔を離したグレイは、肩を竦めて溜息を吐いた。
「レイは本当に王女だったんだな」
「わたくしも信用していませんでしたの?」
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