12 / 277
第二話
2
しおりを挟む
「無事ハンターの資格を得ましたので、大聖堂が用意してくれている装備を受け取りましょう。準備が整ったらまたこの部屋に集まりましょう」
テルラの言葉に笑顔で頷くレイ。
「分かりましたわ。テルラはわたくし達のリーダーですので、これからもそうして指示してくださいな」
「責任重大ですね。頑張ります」
空のお盆を持った女性二人の案内に従い、一人ずつ別々の部屋に入った。
そして、大聖堂が用意してくれた装備を身に着けた。
レイだけは王城から装備一式を持って来ていたから、剣や鎧の手入れ用具が入ったウエストポーチだけが支給された。鎧を身に纏うのもすでに慣れていたので、一番に元の部屋に戻って来た。
次に戻って来たのはプリシゥアだった。基本装備は僧兵の時から変わっていないが、丈の短い上着を羽織り、拳と脛を護る防具が追加されている。彼女もレイと同じウエストポーチを腰に巻いている。
「私の荷物はこれだけで良いんスかね? 中身は生理用品とか傷薬とかだけなんスけど」
ウエストポーチを擦りながら不安そうに言うプリシゥア。
「わたくしもこれだけですから、そう言う物なんじゃありませんの?」
「そうなんスか」
生まれた時から身の回りの世話の全てを使用人任せにしている世間知らずのレイが適当に応える。
プリシゥアも旅の経験は皆無に等しく、あえて言うなら僧兵になるために故郷から聖都に出て来た時の一度きりなので、良く分からないまま納得した。
共通の話題の無い二人は、椅子に座ったまま無言で残りの二人を待つ。
「お待たせしました」
立襟のローブと言う聖職者の衣装を身に纏ったテルラが戻って来たので、レイが立ち上がって出迎えた。知らない人と会談したりパーティに参加したりする王族でも、旅立ち前の緊張で余裕が無かった事も有り、ほぼ初対面の相手と二人きりは辛かったのだ。
「まぁ! テルラに良く似合った、素敵なお召し物ですね! ――あら?」
テルラが着ているローブは緑色で、遠目で見るとスカートを履いているのかと勘違いする様なデザインだった。下にはキチンとズボンを履いていて、10歳の少年に似合っていた。
レイが訝しんだ表情で動きを止めた原因はそこではない。テルラは、とても大きなリュックを背負っていたのだ。
「テルラ? 背にしている物は何ですの?」
「勿論、旅の道具ですよ。テントとか、毛布とか。それと、火熾しの道具とか、保存食とか」
「まぁ。それならば、全員で分担して持てば宜しいのではなくて? ねぇ? プリシゥア」
「そうっスよ。テルラより私の方が筋力有るって自信も有るっス。鍛えてるっスから」
「いいえ。こう言う物には役割分担が有るんです。ハンター風に言うのなら、ファイターであるレイとモンクであるプリシゥアは、いつでも戦える様に身軽でなくてはならないんです。聖都を出た後で言いますが、隊列の事も有りますし」
テルラがそう言っている間にカレンが戻って来た。
カレンも大きなリュックを背負っている。衣装は普通の村娘風で見た目的にはあまり変わっていないが、生地が上等になっていて、靴も長距離を歩いても疲れ難い物になっている。
「カレンのリュックには何が入っているんスか?」
プリシゥアが訊くと、カレンは半身になってリュックを見せ付けて来た。その動きから、大きさの割には重量はそれほどでもない様だ。
「みんなの着替えとか、調理道具とかだね。裁縫道具とかの小物も。旅先でダンジョン潜りとか山登りとかをする時は遠出用のアレコレを買い込むんだけど、その荷物は私が持つ事になるんだって。だから今はリュックに余裕が有る、って説明された」
そんな事を話していると、先程の女性スタッフを連れた大司教がやって来た。
「テルラ。レインボー姫。そして、プリシゥアにカレン。旅支度が整った様だな」
「はい、大司教」
テルラが父に向き直ると、他の女子三人も背筋を伸ばして整列した。
「言いたい事は山ほど有るが、いくら心配しても詮無い事だからな。あえて何も言うまい。この大聖堂で皆の無事と目的の達成を祈っている」
「ありがとうございます。頑張って女神の期待に応えます」
「では、皆に旅の資金を配ろう」
女性スタッフが一人一人に二つ折りの財布を配る。
テルラは緑。
レイは薄紫。
プリシゥアは青。
カレンはピンク。
その中には紙幣の束が入っている。更に木製の札が入っていたが、それが何かを確認する前に大司教が財布の説明を始めた。
「一人20万クラゥと、小銭が少々だ。それだけ有れば、贅沢をしなければ一年は食べて行けるだろう。それ以上のお金が欲しければ、ハンターの仕事をして稼がなければならない。そしてパーティ共用の財布だ」
女性スタッフが茶色の財布をテルラに渡す。入っている札の厚みは他の財布と同じだ。
「使い方は分かるな?」
「習いました。大丈夫です」
「万が一の事も考えられるので、更にこれをやろう」
大司教は、豪華な法衣の下からふたつの指輪と一本のネックレスを取り出した。ネックレスは飾り気の無い金で、指輪は大きなダイヤが一個付いている物と小さなダイヤが無数に付いている物だった。
「手持ちの金が無くなり、仕事も無い緊急事態になったらそれを換金すれば良い。後は――」
喉が詰まったかの様な吐息と共に言葉を切った大司教は、目を伏せて一歩下がった。
「――これくらいにしておこうか。これ以上話をすると、あれやこれやと物を持たせたくなる。旅は、なるべく荷物を減らした方が楽だからな。ではな」
「はい。では、行って参ります」
テルラとその仲間達が頭を下げると、大司教は短く「うむ」と頷いてから退室して行った。
テルラの言葉に笑顔で頷くレイ。
「分かりましたわ。テルラはわたくし達のリーダーですので、これからもそうして指示してくださいな」
「責任重大ですね。頑張ります」
空のお盆を持った女性二人の案内に従い、一人ずつ別々の部屋に入った。
そして、大聖堂が用意してくれた装備を身に着けた。
レイだけは王城から装備一式を持って来ていたから、剣や鎧の手入れ用具が入ったウエストポーチだけが支給された。鎧を身に纏うのもすでに慣れていたので、一番に元の部屋に戻って来た。
次に戻って来たのはプリシゥアだった。基本装備は僧兵の時から変わっていないが、丈の短い上着を羽織り、拳と脛を護る防具が追加されている。彼女もレイと同じウエストポーチを腰に巻いている。
「私の荷物はこれだけで良いんスかね? 中身は生理用品とか傷薬とかだけなんスけど」
ウエストポーチを擦りながら不安そうに言うプリシゥア。
「わたくしもこれだけですから、そう言う物なんじゃありませんの?」
「そうなんスか」
生まれた時から身の回りの世話の全てを使用人任せにしている世間知らずのレイが適当に応える。
プリシゥアも旅の経験は皆無に等しく、あえて言うなら僧兵になるために故郷から聖都に出て来た時の一度きりなので、良く分からないまま納得した。
共通の話題の無い二人は、椅子に座ったまま無言で残りの二人を待つ。
「お待たせしました」
立襟のローブと言う聖職者の衣装を身に纏ったテルラが戻って来たので、レイが立ち上がって出迎えた。知らない人と会談したりパーティに参加したりする王族でも、旅立ち前の緊張で余裕が無かった事も有り、ほぼ初対面の相手と二人きりは辛かったのだ。
「まぁ! テルラに良く似合った、素敵なお召し物ですね! ――あら?」
テルラが着ているローブは緑色で、遠目で見るとスカートを履いているのかと勘違いする様なデザインだった。下にはキチンとズボンを履いていて、10歳の少年に似合っていた。
レイが訝しんだ表情で動きを止めた原因はそこではない。テルラは、とても大きなリュックを背負っていたのだ。
「テルラ? 背にしている物は何ですの?」
「勿論、旅の道具ですよ。テントとか、毛布とか。それと、火熾しの道具とか、保存食とか」
「まぁ。それならば、全員で分担して持てば宜しいのではなくて? ねぇ? プリシゥア」
「そうっスよ。テルラより私の方が筋力有るって自信も有るっス。鍛えてるっスから」
「いいえ。こう言う物には役割分担が有るんです。ハンター風に言うのなら、ファイターであるレイとモンクであるプリシゥアは、いつでも戦える様に身軽でなくてはならないんです。聖都を出た後で言いますが、隊列の事も有りますし」
テルラがそう言っている間にカレンが戻って来た。
カレンも大きなリュックを背負っている。衣装は普通の村娘風で見た目的にはあまり変わっていないが、生地が上等になっていて、靴も長距離を歩いても疲れ難い物になっている。
「カレンのリュックには何が入っているんスか?」
プリシゥアが訊くと、カレンは半身になってリュックを見せ付けて来た。その動きから、大きさの割には重量はそれほどでもない様だ。
「みんなの着替えとか、調理道具とかだね。裁縫道具とかの小物も。旅先でダンジョン潜りとか山登りとかをする時は遠出用のアレコレを買い込むんだけど、その荷物は私が持つ事になるんだって。だから今はリュックに余裕が有る、って説明された」
そんな事を話していると、先程の女性スタッフを連れた大司教がやって来た。
「テルラ。レインボー姫。そして、プリシゥアにカレン。旅支度が整った様だな」
「はい、大司教」
テルラが父に向き直ると、他の女子三人も背筋を伸ばして整列した。
「言いたい事は山ほど有るが、いくら心配しても詮無い事だからな。あえて何も言うまい。この大聖堂で皆の無事と目的の達成を祈っている」
「ありがとうございます。頑張って女神の期待に応えます」
「では、皆に旅の資金を配ろう」
女性スタッフが一人一人に二つ折りの財布を配る。
テルラは緑。
レイは薄紫。
プリシゥアは青。
カレンはピンク。
その中には紙幣の束が入っている。更に木製の札が入っていたが、それが何かを確認する前に大司教が財布の説明を始めた。
「一人20万クラゥと、小銭が少々だ。それだけ有れば、贅沢をしなければ一年は食べて行けるだろう。それ以上のお金が欲しければ、ハンターの仕事をして稼がなければならない。そしてパーティ共用の財布だ」
女性スタッフが茶色の財布をテルラに渡す。入っている札の厚みは他の財布と同じだ。
「使い方は分かるな?」
「習いました。大丈夫です」
「万が一の事も考えられるので、更にこれをやろう」
大司教は、豪華な法衣の下からふたつの指輪と一本のネックレスを取り出した。ネックレスは飾り気の無い金で、指輪は大きなダイヤが一個付いている物と小さなダイヤが無数に付いている物だった。
「手持ちの金が無くなり、仕事も無い緊急事態になったらそれを換金すれば良い。後は――」
喉が詰まったかの様な吐息と共に言葉を切った大司教は、目を伏せて一歩下がった。
「――これくらいにしておこうか。これ以上話をすると、あれやこれやと物を持たせたくなる。旅は、なるべく荷物を減らした方が楽だからな。ではな」
「はい。では、行って参ります」
テルラとその仲間達が頭を下げると、大司教は短く「うむ」と頷いてから退室して行った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる