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第二話

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 ハンターになるには、まず役所に届け出てハンターの資格を取らなければならない。
 魔物が出現し始めた当初はハンターを名乗れば誰でもハンターになれたのだが、死者行方不明者が余りにも多く、特権の不正利用者も多数出たので、選別試験を行う様になったのだ。
「特権って何スか?」
 大聖堂の一室でハンターに関する説明を聞いていた少女僧兵は、手を挙げて質問した。
 役所から出向して来た冴えない感じのおじさんが応える。
「そんな大した物ではありません。村の施設を優先的に使用出来たり、役所や教会から少額の資金援助を受けたり出来るだけです」
「雑費を気にせずに魔物を退治して欲しいからと始まった制度ですね。しかし、少額でも数が多くなると地方自治体の財政に打撃を与えるので、制度を受けられる資格を追加するしかなかった、と言う訳ですね」
 薄紫色のローブを着ている銀髪の少女が優雅に補足する。
「はい。役場のツケで村の宿に泊まり、数日で次の村に行く。それを繰り返せば、宿代を気にせずに旅が出来ます。旅をすれば魔物を退治する機会も有るでしょうが、すぐに出て行かれてしまったら宿を提供した村は護って貰えません。ですので、今はその村でクエストをクリアした実績が無ければツケは利用出来ない、と言った決まり事が追加されているんです」
「宿代がタダって事は、タダ飯も食べられるんですか?」
 スカーフで前髪を止め、おでこを丸出しにしている村娘が素朴な疑問をぶつける。
「食事付きの宿なら。ですので、まず面接をし、希望者の人となりを見ます。そして、戦闘技術判定と体力測定をして、合格ラインを超えた人にだけにハンターの資格が交付されます」
「なるほど。――そうすると、戦闘技術も体力も無い僕は、ハンターにならずに無資格のサポーターになった方が良いんでしょうか」
 金髪で10歳の少年がそう言うと、銀髪少女が立ち上がって少年の前に来た。
「何を仰います。テルラ様は治癒魔法が使えると伺っております。ハンターパーティにはヒーラーの存在が必要不可欠ですわ」
「使えますけど、掠り傷を治せる程度です。力不足は否めません」
「力不足を気にしていたら、若いわたくし達は何も成し得ません。それに、テルラ様はわたくし達のリーダーなんですから、キチンと資格を取って頂かないとパーティになりません」
「え? 僕がリーダーですか?」
「はい。なぜなら唯一の男の子だから――と言う理由ではなく、ガーネットの左目を持つお方だからですわ。それで不老不死の魔物を見付けなければ、そもそもこのパーティの存在意義が成り立ちませんもの」
「そうっスよ」
「良く分からないけど、多分そうだよ」
 他の仲間達にも同意されたので、テルラは渋々承知した。
「分かりました。では、僕がリーダーを務めさせて頂きます。――それと、レイ。僕に様付けは止めましょう。僕達はハンターになるんですから。全員呼び捨てです」
「そうでした。すみません、テルラさ――ハイ」
「テルラさハイって誰っスか?」
 プリシゥアがゲラゲラと笑い、つられてカレンも口元を手で隠しながら笑う。
「笑わなくても宜しいじゃないですの。とにかく、お話の続きを伺いましょう」
 照れで顔を赤らめたレイが席に戻ると、役所のおじさんが咳払いをひとつした。
「――そう言った理由から、現在は資格の発行にそれなりの日数を必要とします。しかし、貴方方は特別な理由により、王家と教会の両方からお墨付きを頂いている状態です。ですので、今回は特例として、資格が即日発行されます」
 大聖堂に勤める二人の女性が、お盆を持って役所のおじさんの隣に来た。
「大聖堂の跡取りであるテルラティア様と王女であるレインボー様に対しては余計な忠告である事は重々承知していますが、決まりなのであえて言葉にします。皆様が不正をなさり、それが問題視されますと、お二人であっても資格が取り消されます。ご注意ください」
「はい」
 背筋を伸ばして頷くテルラとレイ。
「他の二人もです」
「了解っス」
「分かってます」
 四人の若者の返事を確認したおじさんは、お盆を持った女性の目を見て頷いた。
「まず、ハンター資格を表すバッジを配ります」
 女性の一人が若者達にバッジを配る。
「それを見える場所に付けておけば、よほど治安の悪い地域でなければ、宿や診療所等の施設を優先的に使えます。身分証にもなりますので、決して他人の手に渡らない様に気を付けてください。無くした場合は再発行となりますが、王都か聖都、もしくはそれに並ぶ大都市に戻らなければ面接からとなります。――次に認識票を配ります」
 今度は金属プレートが配られた。二枚のプレートにネックレスチェーンが通されており、アクセサリーとしては無骨なデザインだ。
「それはハンターとして活動する時は必ず身に着けなければならない物です。それには個人情報が刻まれていますので、山奥やダンジョン等で亡くなって遺体を持ち帰る事が出来なかった場合、その認識票を持ち帰れば死亡確認が出来ます。ですので装備が義務となっています」
「死亡……」
 カレンが小さく呟いた。
 それに気付いたテルラが口を開く。
「怖いですか? カレン。魔物を相手にするんですから、大怪我もするでしょうし、死ぬ事だって有ります。それが怖いなら止めても良いですよ。勿論、僕達にとっては物凄い痛手ですけど、無理強いは出来ませんから」
「いえ、止めません。すみません、話を止めちゃって。続けてください」
 おでこ丸出しの村娘に頭を下げられた役所のおじさんはカレンの表情を伺った。他の三人に比べて顔色が悪く、不安そうなので、念入りに意思を確認する。
「大丈夫ですか? 敵に恐怖して混乱すると確実に仲間の命が危険に晒されます。良く有る事なので、少しでも不安なら止めた方が良いですよ? 軍と違って敵前逃亡は罪になりませんから」
「不安ですけど、今はまだ止める気は有りません。大丈夫です」
「ハンターになった後でもバッジと認識票を返還すればいつでもハンターを辞められるので、あまり深刻にならなくても良いですよ」
「はい」
 カレンの頷きをしっかりと見てから話を再開させる役所のおじさん。
「認識票ですが、これはハンター以外にも、騎士、兵士、勇者の全員が必ず持っています。もしも出先で遺体を発見した場合、その遺体が認識票を持っていたら、出来る限り最寄りの役所にお届けください。遺族の救いになりますし、僅かですが謝礼も出ます」
「分かりました」
 役所のおじさんにガン見されていたので率先して返事をしてしまったカレンは、ふと仲間の顔を見渡した。この中では自分が一番身分が低いので、でしゃばった行動が気になったのだ。
 しかし誰を見てもカレンの視線の意味を理解出来ずにキョトンとしていたので、何でも無かった風な顔をして役所のおじさんに視線を戻した。
「役所からは以上です。不明な点がございましたら役所窓口までお越しください。担当者が質問に答えます。では、武運をお祈りしております」
「ありがとうございました」
 テルラ達四人は、立ち上がっておじさんの退室を見送った。
 お盆を持った女性達はまだ用事が有るので残っている。
「……これで私は、私達はハンターになれたんですか?」
 カレンは、手の中に有るバッジと認識票を見ながら噛み締める様に言った。
「はい。僕達はハンターになりました」
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