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14話目
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「ど、どういうことです……? 何なんです、あの台詞!? こ、こんなの……本には載ってない……! う、運命を変えたとでも言うんですか!?」
いつの間にか手を止めていたアオバが混乱したように疑問の言葉を上げた。視線は左右に揺れ動き、全身で動揺を示している。同じように、先ほどまで何とかアオバの猛攻を潜り抜けようとしていたクレハも、隙を伺うのを止めえシャルロットの方を静かに見つめていた。その場の人外存在の二人が、人間の動向を注視している。
だが、当の主人公「赤ずきん」ことシャルロット・デュヴァラは、そんな外野の動揺なぞには目もくれなかった。彼女は彼女の意思で、彼女の物語を進めるのだ。
「アンタって人間は、お人好しで! 暴力が大っ嫌いで! 誰にでも良い顔をして! 女の子にデレデレしていて! そんなヘタレのくせに、何無理して悪者なんてやってるのよ……!? 無茶、しないでよ……!」
シャルロットの叫びが花畑に響き渡った。その叫びがルディに届いたのかどうかは分からない。シャルロットはルディを優しく地面に横たえると、くるりとアオバの方へ振り返った。そして厳しい視線を送る。視線が物理的な力を持つと錯覚するほどの鋭い眼光だった。
視線の行く先、アオバがシャルロットの視線を受けてビクッと身を震わせる。相手はただの人間の筈なのに。自分が拳一つでも振るえば、あっさり死ぬ脆弱な存在の筈なのに。それだと言うのにアオバはシャルロットに恐怖した。視線をどうしても合わせることができなかったのだ。
シャルロットは怒りを抑え、あえてその表情に笑みを浮かべた。そして高らかに宣言する。
それは、反逆の狼煙。与えられる物語の結末に納得せず、より良い結末を「自らの手で」勝ち取ると言う、とある登場人物の自由の叫びであった。
「これは私の物語よ! 誰にだって邪魔させないわ!」
シャルロットは足元に横たわるルディに目をやった。醜い姿に変えられて、瀕死の重傷を負うまでに至ってしまった幼馴染を。その原因は、自分と目の前の「センサー」である。心に沸々と、熱いものがこみ上げた。
そう、シャルロットは激怒したのだ。だからこそ、高らかに叫びをあげる。
「私は! こんな結末認めない! 私が認めるのはただ一つ、ハッピーエンドだけよ!!」
シャルロットはそう叫ぶと、まるで祈るかのように両手を組んだ。そしておもむろに両手を高く掲げると、高らかに喚び叫ぶのだった。
「私の事を、守りなさい! 来て、【ヴェルトロ】!」
叫ばれたのは猟犬を意味する言葉だった。そして、振り払うように両手を下ろす。振り下ろされたその両手には、黒光りする二丁の短機関銃が握られていた。闇夜を映す黒鉄に、銀の狼の紋様があしらわれている。
それはこの時代にはまだ無いはずの武装だった。当然この場にいる誰しもが見たことがないし、それが何かもわかっていない。
――ただ一人を除いては。
「準備はいいわね、【ヴェルトロ】? ぶっ放すわよ。」
ガチャリと言う機構音が、静寂に包まれる黒い森に木霊した。そしてその両の銃口が横たわるルディの眉間に向けられる。漆黒の銃身は「死神」と言う弾丸を超音速で届ける殺戮の為だけの存在だ。ひ弱な乙女を守る二頭の猟犬。
それが何かは分からずとも、にじみ出る迫力から何らかの武器だと分かったのだろう。アオバが焦ったようにシャルロットを妨害しようと動き出した。
だが、それを邪魔する影が現れた。クレハだ。クレハはアオバの進路、彼女の目の前に【閻魔刀】を投げ刺して牽制した。そして悠然と武器の前まで歩いてくると、【閻魔刀】を引き抜いて八双に構えた。
「クッ……!? ど、退いてください、紅葉!」
「ハッ、『そう言われて退くと思いますか』ってな。立場逆転だ、ここを通りたくばアタシの屍を越えてから行けよ?」
クレハは口の端を釣り上げて笑った。実に清々しいと言う笑みである。そしてクレハは振り返らずにシャルロットへ向かって声をかけた。
「シャルロット! こっちは任せておけ、ここから先はアタシが通させねぇ。アンタが信じる結末を奪い取れ!!」
「言われなくたって!」
始まった剣戟の金属爆音を背景音に、シャルロットは再びルディに向き直った。両手をピンと伸ばして至近距離からルディの頭を狙う。この距離ならば、いかな射撃下手と言えど外すことはないだろう。双方の安全装置を解除した。
すると、不意に目の前のルディがその大きく裂けた口を微かに開き、獰悪な牙を見せながら息も絶え絶えの声で話し出した。元の彼女の声とは思えぬ、節くれ立ったガラガラの声だった。
「ジャ……ジャル、ル……?」
「……何?」
「ご、ごべん……ね……?」
「あら、殊勝じゃない。あなたが素直に謝るなんてね。」
「ぞ……ぞれ、が……なにが、は、わ……わがら、ない、げど……ゴボッ! ぶ、ぶき、なんで……じょ?」
「……ええ、そうよ。」
所々聞き取りづらいが、シャルロットとルディは会話ができているようだ。ルディはシャルロットの返答を聞いて、微かに口元を緩めた。
「ぼ……ぼぐは、もう、もどれない……がら。ご、ごのままだど……き、ぎびを、また、おぞ……じゃう。だ、だがら……」
「だから?」
シャルロットが首をかしげて言葉を促した。ルディは、今度は明らかな笑みの形の口で話す。
「ぼ、ぼぐを……ごろ、じて……」
「――分かったわ。」
そう返事するや否や、シャルロットは何のためらいも見せずに力いっぱい引き金を引き絞った。夜の月明かりの下、マズルフラッシュがシャルロットとその周囲を明るく照らす。双短機関銃【ヴェルトロ】は、その二つの銃口から秒間三十回の死をルディの下へ運んでいった。音速をはるかに超えるその速度、距離の離れていない二人の間なら刹那の瞬間しかかからない。射出された銀の弾丸が次々とルディの頭へ着弾する。輝く発火炎と硝煙でルディの様子は分からないが、何度も細かくその身を跳ねさせていた。シャルロットは反動を堪えながらも射撃を止めようとしない。
その様子を遠くから見たアオバが顔を青ざめさせて攻撃の手を止めた。はた目から見てもそれはオーバーキリングである。呆然とその様子を遠くから見ているしかなかった。
そしてそれはクレハも同じである。シャルロットが両手に持つ謎の武器が創具であることは分かっていたが、まさかあそこまで凶悪なものだとは思いもしなかったのだろう。更にそれをためらいなくルディに放つとも思っていなかったようだ。度肝を抜かれたかのように声もなく、呆然とシャルロットの姿を見つめるしかなかった。
たっぷり一分間は撃ち続けただろう。ガチリと言う音を最後に銃口から弾丸が射出されなくなった。
「……ゲホッ! ッはぁ! ハァ、ハァ……」
シャルロットはなぜか疲れ切ったように荒く呼吸を繰り返した。単に発砲を繰り返して疲れたわけではなさそうだ。まるで集中を続けた挙句の疲労のようである。
土埃と硝煙が二人を包み込んでいたが、すぐに風に運ばれて消え去った。そこに残されていたのは、いまだ荒い息のシャルロットと、そして――
「なっ!? ど、どういう事だ……?」
クレハが驚きの声を上げた。ガランという鈍い音を立てて【閻魔刀】がクレハの手から落ちる。それは鬼であり武人であるクレハにとってありえない事だった。たとえ死ぬ瞬間でも武器を離さない自信があったのだ。
しかし、それも仕方がないのかもしれない。それほどまでにそこにある光景は驚くべきものであったのだから。
そこにあったのは、傷だらけではあるものの新たな傷がついた様子のない、「人間の姿」で眠るルディの姿であったのだから。
――続く
いつの間にか手を止めていたアオバが混乱したように疑問の言葉を上げた。視線は左右に揺れ動き、全身で動揺を示している。同じように、先ほどまで何とかアオバの猛攻を潜り抜けようとしていたクレハも、隙を伺うのを止めえシャルロットの方を静かに見つめていた。その場の人外存在の二人が、人間の動向を注視している。
だが、当の主人公「赤ずきん」ことシャルロット・デュヴァラは、そんな外野の動揺なぞには目もくれなかった。彼女は彼女の意思で、彼女の物語を進めるのだ。
「アンタって人間は、お人好しで! 暴力が大っ嫌いで! 誰にでも良い顔をして! 女の子にデレデレしていて! そんなヘタレのくせに、何無理して悪者なんてやってるのよ……!? 無茶、しないでよ……!」
シャルロットの叫びが花畑に響き渡った。その叫びがルディに届いたのかどうかは分からない。シャルロットはルディを優しく地面に横たえると、くるりとアオバの方へ振り返った。そして厳しい視線を送る。視線が物理的な力を持つと錯覚するほどの鋭い眼光だった。
視線の行く先、アオバがシャルロットの視線を受けてビクッと身を震わせる。相手はただの人間の筈なのに。自分が拳一つでも振るえば、あっさり死ぬ脆弱な存在の筈なのに。それだと言うのにアオバはシャルロットに恐怖した。視線をどうしても合わせることができなかったのだ。
シャルロットは怒りを抑え、あえてその表情に笑みを浮かべた。そして高らかに宣言する。
それは、反逆の狼煙。与えられる物語の結末に納得せず、より良い結末を「自らの手で」勝ち取ると言う、とある登場人物の自由の叫びであった。
「これは私の物語よ! 誰にだって邪魔させないわ!」
シャルロットは足元に横たわるルディに目をやった。醜い姿に変えられて、瀕死の重傷を負うまでに至ってしまった幼馴染を。その原因は、自分と目の前の「センサー」である。心に沸々と、熱いものがこみ上げた。
そう、シャルロットは激怒したのだ。だからこそ、高らかに叫びをあげる。
「私は! こんな結末認めない! 私が認めるのはただ一つ、ハッピーエンドだけよ!!」
シャルロットはそう叫ぶと、まるで祈るかのように両手を組んだ。そしておもむろに両手を高く掲げると、高らかに喚び叫ぶのだった。
「私の事を、守りなさい! 来て、【ヴェルトロ】!」
叫ばれたのは猟犬を意味する言葉だった。そして、振り払うように両手を下ろす。振り下ろされたその両手には、黒光りする二丁の短機関銃が握られていた。闇夜を映す黒鉄に、銀の狼の紋様があしらわれている。
それはこの時代にはまだ無いはずの武装だった。当然この場にいる誰しもが見たことがないし、それが何かもわかっていない。
――ただ一人を除いては。
「準備はいいわね、【ヴェルトロ】? ぶっ放すわよ。」
ガチャリと言う機構音が、静寂に包まれる黒い森に木霊した。そしてその両の銃口が横たわるルディの眉間に向けられる。漆黒の銃身は「死神」と言う弾丸を超音速で届ける殺戮の為だけの存在だ。ひ弱な乙女を守る二頭の猟犬。
それが何かは分からずとも、にじみ出る迫力から何らかの武器だと分かったのだろう。アオバが焦ったようにシャルロットを妨害しようと動き出した。
だが、それを邪魔する影が現れた。クレハだ。クレハはアオバの進路、彼女の目の前に【閻魔刀】を投げ刺して牽制した。そして悠然と武器の前まで歩いてくると、【閻魔刀】を引き抜いて八双に構えた。
「クッ……!? ど、退いてください、紅葉!」
「ハッ、『そう言われて退くと思いますか』ってな。立場逆転だ、ここを通りたくばアタシの屍を越えてから行けよ?」
クレハは口の端を釣り上げて笑った。実に清々しいと言う笑みである。そしてクレハは振り返らずにシャルロットへ向かって声をかけた。
「シャルロット! こっちは任せておけ、ここから先はアタシが通させねぇ。アンタが信じる結末を奪い取れ!!」
「言われなくたって!」
始まった剣戟の金属爆音を背景音に、シャルロットは再びルディに向き直った。両手をピンと伸ばして至近距離からルディの頭を狙う。この距離ならば、いかな射撃下手と言えど外すことはないだろう。双方の安全装置を解除した。
すると、不意に目の前のルディがその大きく裂けた口を微かに開き、獰悪な牙を見せながら息も絶え絶えの声で話し出した。元の彼女の声とは思えぬ、節くれ立ったガラガラの声だった。
「ジャ……ジャル、ル……?」
「……何?」
「ご、ごべん……ね……?」
「あら、殊勝じゃない。あなたが素直に謝るなんてね。」
「ぞ……ぞれ、が……なにが、は、わ……わがら、ない、げど……ゴボッ! ぶ、ぶき、なんで……じょ?」
「……ええ、そうよ。」
所々聞き取りづらいが、シャルロットとルディは会話ができているようだ。ルディはシャルロットの返答を聞いて、微かに口元を緩めた。
「ぼ……ぼぐは、もう、もどれない……がら。ご、ごのままだど……き、ぎびを、また、おぞ……じゃう。だ、だがら……」
「だから?」
シャルロットが首をかしげて言葉を促した。ルディは、今度は明らかな笑みの形の口で話す。
「ぼ、ぼぐを……ごろ、じて……」
「――分かったわ。」
そう返事するや否や、シャルロットは何のためらいも見せずに力いっぱい引き金を引き絞った。夜の月明かりの下、マズルフラッシュがシャルロットとその周囲を明るく照らす。双短機関銃【ヴェルトロ】は、その二つの銃口から秒間三十回の死をルディの下へ運んでいった。音速をはるかに超えるその速度、距離の離れていない二人の間なら刹那の瞬間しかかからない。射出された銀の弾丸が次々とルディの頭へ着弾する。輝く発火炎と硝煙でルディの様子は分からないが、何度も細かくその身を跳ねさせていた。シャルロットは反動を堪えながらも射撃を止めようとしない。
その様子を遠くから見たアオバが顔を青ざめさせて攻撃の手を止めた。はた目から見てもそれはオーバーキリングである。呆然とその様子を遠くから見ているしかなかった。
そしてそれはクレハも同じである。シャルロットが両手に持つ謎の武器が創具であることは分かっていたが、まさかあそこまで凶悪なものだとは思いもしなかったのだろう。更にそれをためらいなくルディに放つとも思っていなかったようだ。度肝を抜かれたかのように声もなく、呆然とシャルロットの姿を見つめるしかなかった。
たっぷり一分間は撃ち続けただろう。ガチリと言う音を最後に銃口から弾丸が射出されなくなった。
「……ゲホッ! ッはぁ! ハァ、ハァ……」
シャルロットはなぜか疲れ切ったように荒く呼吸を繰り返した。単に発砲を繰り返して疲れたわけではなさそうだ。まるで集中を続けた挙句の疲労のようである。
土埃と硝煙が二人を包み込んでいたが、すぐに風に運ばれて消え去った。そこに残されていたのは、いまだ荒い息のシャルロットと、そして――
「なっ!? ど、どういう事だ……?」
クレハが驚きの声を上げた。ガランという鈍い音を立てて【閻魔刀】がクレハの手から落ちる。それは鬼であり武人であるクレハにとってありえない事だった。たとえ死ぬ瞬間でも武器を離さない自信があったのだ。
しかし、それも仕方がないのかもしれない。それほどまでにそこにある光景は驚くべきものであったのだから。
そこにあったのは、傷だらけではあるものの新たな傷がついた様子のない、「人間の姿」で眠るルディの姿であったのだから。
――続く
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