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後編 龍の少年と龍の少女
第22話
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「将軍さま。この娘をいかがします? 牢にでも放り込みますか?」
「捨て置け。それよりも、速くこの石を破壊しろ。それから他の掃除の娘でも呼んでおけ。最初から、こんな石などなかったように、綺麗に掃除させるのだ」
「はっ!」
兵士たちは、情け容赦なく、ご神体を破壊した。砕けた石が、砂煙のように舞い上がった。
あらかた破壊が済んだあとで、掃除の娘たちが呼び出された。綺麗に掃除が済んだあと、将軍たちは満足して去っていった。
「ハジミさま、ハジミさま!」
娘の一人がハジミに声をかけた。ハジミは、痛む頭を抑えながら、ゆっくり起き上がった。
「ご無事だったのですね。よかった……」
娘は目にたまった涙を指で拭った。娘の言葉と涙で、ハジミは自分が何者か思い出した。
「わたしは大丈夫。あなたたち、怪しまれるといけないから、早くここから出て」
「ハジミさまは……?」
「少しだけ、ほんの少しだけ、ここに一人でいさせて……」
娘たちはうなずいて、部屋をあとにした。
部屋の中心にあったご神体は、跡形もなく消えていた。ハジミは怒りで手を震わせた。
「何が野蛮よ……。勝手に押し寄せてきて、私たちが信じていたものを邪教だと言って、大切なものを壊して! そっちの方が、よっぽど野蛮じゃない! 返して! 返してよ! わたしの友達を! ダイポを返してよ!」
ハジミはひざから崩れ落ちて、涙を流した。
「ダイポ! ごめんなさい! わたしがあんなひどいことを言わなければ、ご神体に帰ることもなかったのに! わたし、心のどこかで、フィオガハにやきもちを焼いていたの! フィオガハのせいで、あなたと仲良くなれないんだって! でも違う。それは、ダイポの優しさを、踏みにじってきた、わたしのせい! わたしはあなたのご主人である資格も、友達でいる資格もない! ダイポ、ひどいわたしのことを、どうか、許して……」
泣いて泣いて、泣き続けた。いつの間にか、日が沈んで、月明かりが部屋を照らしていた。
クジャに会いたい。クジャなら、何と言ってわたしを叱ってくれるかしら。何と言って、わたしを慰めてくれるかしら。クジャに会いたい。一人きりだと、このつらさには、とても、耐えられない。
「うふふ。クジャやダイポの言うとおりだわ。わたしは小さくて、弱虫ね」
ハジミは涙を拭うこともなく、何もなくなった部屋をあとにした。
**
その晩、神殿にいる兵士たちは、いつもより早く眠りについていた。明日の祭の準備が、早朝から行われるからだ。
ハジミは、召使い部屋で、去年の満月の祭の夜を思い出していた。何もわからない召使いの子どもに手伝わせて、酒樽に眠り薬を仕込んだこと。胸元に毛糸玉を隠して、少し大人っぽく見えると、鏡の前ではにかんだこと。自分は勇気ある少女だから、臆病な少年を導いてやろうと息巻いていたこと。自分は特別な女の子だと、信じていたあの頃。周りの大人がくだらないと、斜に構えていたあの頃。
(わたし、恥ずかしい。何もわかっていないのは、臆病なのは、わたしだった……)
夜風に当たりたくなった。ハジミはそっと、部屋を出た 。
「捨て置け。それよりも、速くこの石を破壊しろ。それから他の掃除の娘でも呼んでおけ。最初から、こんな石などなかったように、綺麗に掃除させるのだ」
「はっ!」
兵士たちは、情け容赦なく、ご神体を破壊した。砕けた石が、砂煙のように舞い上がった。
あらかた破壊が済んだあとで、掃除の娘たちが呼び出された。綺麗に掃除が済んだあと、将軍たちは満足して去っていった。
「ハジミさま、ハジミさま!」
娘の一人がハジミに声をかけた。ハジミは、痛む頭を抑えながら、ゆっくり起き上がった。
「ご無事だったのですね。よかった……」
娘は目にたまった涙を指で拭った。娘の言葉と涙で、ハジミは自分が何者か思い出した。
「わたしは大丈夫。あなたたち、怪しまれるといけないから、早くここから出て」
「ハジミさまは……?」
「少しだけ、ほんの少しだけ、ここに一人でいさせて……」
娘たちはうなずいて、部屋をあとにした。
部屋の中心にあったご神体は、跡形もなく消えていた。ハジミは怒りで手を震わせた。
「何が野蛮よ……。勝手に押し寄せてきて、私たちが信じていたものを邪教だと言って、大切なものを壊して! そっちの方が、よっぽど野蛮じゃない! 返して! 返してよ! わたしの友達を! ダイポを返してよ!」
ハジミはひざから崩れ落ちて、涙を流した。
「ダイポ! ごめんなさい! わたしがあんなひどいことを言わなければ、ご神体に帰ることもなかったのに! わたし、心のどこかで、フィオガハにやきもちを焼いていたの! フィオガハのせいで、あなたと仲良くなれないんだって! でも違う。それは、ダイポの優しさを、踏みにじってきた、わたしのせい! わたしはあなたのご主人である資格も、友達でいる資格もない! ダイポ、ひどいわたしのことを、どうか、許して……」
泣いて泣いて、泣き続けた。いつの間にか、日が沈んで、月明かりが部屋を照らしていた。
クジャに会いたい。クジャなら、何と言ってわたしを叱ってくれるかしら。何と言って、わたしを慰めてくれるかしら。クジャに会いたい。一人きりだと、このつらさには、とても、耐えられない。
「うふふ。クジャやダイポの言うとおりだわ。わたしは小さくて、弱虫ね」
ハジミは涙を拭うこともなく、何もなくなった部屋をあとにした。
**
その晩、神殿にいる兵士たちは、いつもより早く眠りについていた。明日の祭の準備が、早朝から行われるからだ。
ハジミは、召使い部屋で、去年の満月の祭の夜を思い出していた。何もわからない召使いの子どもに手伝わせて、酒樽に眠り薬を仕込んだこと。胸元に毛糸玉を隠して、少し大人っぽく見えると、鏡の前ではにかんだこと。自分は勇気ある少女だから、臆病な少年を導いてやろうと息巻いていたこと。自分は特別な女の子だと、信じていたあの頃。周りの大人がくだらないと、斜に構えていたあの頃。
(わたし、恥ずかしい。何もわかっていないのは、臆病なのは、わたしだった……)
夜風に当たりたくなった。ハジミはそっと、部屋を出た 。
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