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後編 龍の少年と龍の少女
第21話
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ハジミがクジャの手を取って、宮殿から逃げだそうとした、あの懐かしい日から、一年ほど経った。ハジミたちはお祭りの準備に明け暮れていた。もちろん、龍神さまのお祭りではない。リグノア教軍とシュトノク教軍の戦勝を祝う祭だ。それが明日の、昼間に行われる。
ハジミは、去年のように、眠り薬を集めることはできなかった。あれは、二年くらいかけて集めたものだった。眠れない、と、若い召使いの一人一人にわがままを言って、あなたとわたしだけの秘密だ、と言って、眠り薬を持ってこさせたのだ。そのお礼として、ハジミは占いをしてやった。悩み事がなくなる、恋が上手くいく、という結果をいつも出してやった。ハジミは、いんちきな占いができたのだ。
その力を生かして、ハジミは兵士たちに気に入られるようになった。シュトノク教国にも、似たようなカード占いがあったのだ。ハジミはそれを覚えて、兵士たちを占ってやった。もうすぐ国に帰れる、気になる娘が、国で待っていてくれる……そういう結果を出してやれば、兵士たちは喜んでくれた。ハジミに、何かとよくしてくれるようになった。
今日、ハジミは神殿の奥の部屋の掃除担当になった。フィオガハと最初に出会った部屋だ。外掃除よりも室内の掃除のほうが楽なので、助かった。明日のお祭りには、シュトノク教の聖地から、偉い神官がやってくるという。ハジミは念入りに掃除をした。掃除もだいぶうまくなってきて、自信がついてきた。ぴかぴかに窓を磨き上げると、ハジミはほっと一息をついた。いつの間にか、ハジミは召使いであることに慣れてしまった。
(クジャはどうしているかしら……)
最近、ハジミはクジャのことが、気になって気になって仕方がなかった。夜中、眠れなくて星を眺めると、クジャの優しい声、優しい笑顔を、ありありと思い出すのだ。クジャと離れてから、一年。この一年は永遠のように、長く感じられた。
クジャのことが気になる理由は、他にもある。夜空に二つ、仲むつまじく並ぶ星が、最近、妙に瞬くのだ。これが、星が騒ぐということかしら……ハジミはこの二つ星に、自分たちを重ね合わせ、行く末を心配していた。
不意に、隣の部屋から、大きな音が聞こえてきた。何かが砕けるような音だ。ハジミは驚いて部屋を飛び出し、隣の部屋に転げ込んだ。
ハジミははっと息をのんだ。兵士たちが、黒い石の玉である、ご神体に金槌を振り下ろしていた。部屋にはシュトノク教軍の将軍もいた。
「この神体とやらは、偶像崇拝を禁じるシュトノク教の教えとは相容れないものだ。今までは目をつぶっていたが、大神官さまの目に触れたら大変なことになる。早く破壊しろ!」
「やめて、やめて!」
ハジミはご神体の前に立ち塞がった。将軍がぎろりとした目で、ハジミを見おろした。
「何だ、お前は」
「隣の部屋の掃除当番でございます」
「掃除当番の娘が、何の用だ」
「どうか、ご神体を壊すのはおやめください! これは我らの希望でございます!」
兵士たちがハジミを脇に追いやろうとした。将軍はそれを手で制した。
「お前はこれをご神体と呼んだが、この中に、神が宿っていると、本気で思っているのか」
「この中には、精霊が宿っております。ですから、どうか、乱暴はおやめください」
(この中には、怖がりなダイポがいるのよ。きっと今、震えて怯えている。だからもう、やめて!)
ハジミは潤んだ目で、上目遣いに将軍を見上げた。
「くっくっく、あははははは」
将軍は大声で笑い出した。
「この石の中に、精霊が宿ると? 子どもの中に、神が宿ると? なんと野蛮な考えだ! 我々は、そのような未開の精神を正すために、ここまで来たのだ!」
将軍はハジミを殴り飛ばした。ハジミは壁まで吹っ飛んで、そのまま気を失った 。
ハジミは、去年のように、眠り薬を集めることはできなかった。あれは、二年くらいかけて集めたものだった。眠れない、と、若い召使いの一人一人にわがままを言って、あなたとわたしだけの秘密だ、と言って、眠り薬を持ってこさせたのだ。そのお礼として、ハジミは占いをしてやった。悩み事がなくなる、恋が上手くいく、という結果をいつも出してやった。ハジミは、いんちきな占いができたのだ。
その力を生かして、ハジミは兵士たちに気に入られるようになった。シュトノク教国にも、似たようなカード占いがあったのだ。ハジミはそれを覚えて、兵士たちを占ってやった。もうすぐ国に帰れる、気になる娘が、国で待っていてくれる……そういう結果を出してやれば、兵士たちは喜んでくれた。ハジミに、何かとよくしてくれるようになった。
今日、ハジミは神殿の奥の部屋の掃除担当になった。フィオガハと最初に出会った部屋だ。外掃除よりも室内の掃除のほうが楽なので、助かった。明日のお祭りには、シュトノク教の聖地から、偉い神官がやってくるという。ハジミは念入りに掃除をした。掃除もだいぶうまくなってきて、自信がついてきた。ぴかぴかに窓を磨き上げると、ハジミはほっと一息をついた。いつの間にか、ハジミは召使いであることに慣れてしまった。
(クジャはどうしているかしら……)
最近、ハジミはクジャのことが、気になって気になって仕方がなかった。夜中、眠れなくて星を眺めると、クジャの優しい声、優しい笑顔を、ありありと思い出すのだ。クジャと離れてから、一年。この一年は永遠のように、長く感じられた。
クジャのことが気になる理由は、他にもある。夜空に二つ、仲むつまじく並ぶ星が、最近、妙に瞬くのだ。これが、星が騒ぐということかしら……ハジミはこの二つ星に、自分たちを重ね合わせ、行く末を心配していた。
不意に、隣の部屋から、大きな音が聞こえてきた。何かが砕けるような音だ。ハジミは驚いて部屋を飛び出し、隣の部屋に転げ込んだ。
ハジミははっと息をのんだ。兵士たちが、黒い石の玉である、ご神体に金槌を振り下ろしていた。部屋にはシュトノク教軍の将軍もいた。
「この神体とやらは、偶像崇拝を禁じるシュトノク教の教えとは相容れないものだ。今までは目をつぶっていたが、大神官さまの目に触れたら大変なことになる。早く破壊しろ!」
「やめて、やめて!」
ハジミはご神体の前に立ち塞がった。将軍がぎろりとした目で、ハジミを見おろした。
「何だ、お前は」
「隣の部屋の掃除当番でございます」
「掃除当番の娘が、何の用だ」
「どうか、ご神体を壊すのはおやめください! これは我らの希望でございます!」
兵士たちがハジミを脇に追いやろうとした。将軍はそれを手で制した。
「お前はこれをご神体と呼んだが、この中に、神が宿っていると、本気で思っているのか」
「この中には、精霊が宿っております。ですから、どうか、乱暴はおやめください」
(この中には、怖がりなダイポがいるのよ。きっと今、震えて怯えている。だからもう、やめて!)
ハジミは潤んだ目で、上目遣いに将軍を見上げた。
「くっくっく、あははははは」
将軍は大声で笑い出した。
「この石の中に、精霊が宿ると? 子どもの中に、神が宿ると? なんと野蛮な考えだ! 我々は、そのような未開の精神を正すために、ここまで来たのだ!」
将軍はハジミを殴り飛ばした。ハジミは壁まで吹っ飛んで、そのまま気を失った 。
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