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前編 ハジミとクジャ
第6話
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部屋の真ん中は少し高くなっていて、座卓が据えてあった。
フィオガハに言われたので、ハジミとクジャは座卓の前に座った。座卓には、小さな引き出しがついていた。
「開けてみな」
ハイルが急かすように言った。ハジミは思い切って引き出しを開けた。クジャはおそるおそる引き出しを開けた。中には、カードの束が置いてあった。
「何ですか?」
ハジミが尋ねると、ハイルはにやりと笑った。
「これが、俺たち龍神の化身が使う、占いの道具だ」
ハイルはクジャの引き出しに入っていたカードの束を素早く取ると、両手を使ってしゃっしゃとカードを切った。
「龍神の化身に選ばれたあなたたちの役目は、龍神の言葉をみなに伝えること。けれど、龍神さまは、めったに人の言葉を口になさらない。龍神さまのご意思は、すべて、このカードで伝えられる」
フィオガハが説明しているうちに、ハイルは座卓の上に、カードの束の上から三枚のカードを並べた。左から順に、星のカード、歯車のカード、器が三枚描かれたカードだ。
「さて、これはどういう意味だ?」
ハイルはまたしても、にやりと笑った。
「ええと、星……歯車? 器が一つ、二つ……」
「見たまんまじゃないか。それにお前、数が数えられないのか?」
さっきまで青白かったクジャの顔が、一気に真っ赤になった。ハイルはクジャの肩をばんばん叩き、今度はハジミの顔を見た。
「じゃ、お前はどう思う?」
ハジミはかちんときた。ハジミは兄さんたちにさえ、お前、なんて乱暴な言葉で呼び捨てられたことはない。
「何を占ったのかわからなければ、何も答えられません」
ハジミがぷんぷん怒ると、ハイルは豪快に笑った。
「おお、頭がいいな。じゃあすぐに、覚えてくれるだろう。よかったな、フィオ、楽ができて。俺なんか、数の数え方から、教えないとならねえ」
ハジミとクジャは、一月ほどかけて、カード占いのやり方を教わった。フィオガハとハイルがいないとき、ハジミはクジャに文字の読み方と書き方を教えた。それでわかったことが二つあった。一つは、龍神の化身の力は、ただの占いに過ぎないこと、もう一つは、クジャはとても賢いことだ。
しかし、クジャがどんなに賢くても、貧しい家で、あまり家族に恵まれずに育ったクジャと、甘やかされて育った大金持ちのお嬢さまのハジミとでは、会話がかみ合わなかった。ハジミは家が恋しくなってきた。
(ただ、占いをするだけなら、わたしである必要がないわ。わたしは、これから学び舎で勉強して、いつか、父さまから船をいただいて、商売をするはずだったのに……。頭のいいハジミなら、きっとできるって、父さま、笑っていたのに)
「父さま、母さま、兄さまたち。会いたい……帰りたい……」
ハジミは涙で枕を濡らした。しっかり者のハジミとはいえ、まだ六歳の女の子だったのだ。
**
今では、クジャはハジミの親友だ。ハジミの話をじっと静かに聞いてくれて、ときおり、ハジミが思ってもいなかったような答えを返してくれる。占いの結果を読み解くのに困ったときに、クジャに尋ねると、クジャはぱっと霧が晴れるようなことを教えてくれる。だから、ハジミはもう、クジャのことを弟だとは思っていない。それに、ハジミには、子分がいるのだ。ときにうっとうしい、子分が。
フィオガハに言われたので、ハジミとクジャは座卓の前に座った。座卓には、小さな引き出しがついていた。
「開けてみな」
ハイルが急かすように言った。ハジミは思い切って引き出しを開けた。クジャはおそるおそる引き出しを開けた。中には、カードの束が置いてあった。
「何ですか?」
ハジミが尋ねると、ハイルはにやりと笑った。
「これが、俺たち龍神の化身が使う、占いの道具だ」
ハイルはクジャの引き出しに入っていたカードの束を素早く取ると、両手を使ってしゃっしゃとカードを切った。
「龍神の化身に選ばれたあなたたちの役目は、龍神の言葉をみなに伝えること。けれど、龍神さまは、めったに人の言葉を口になさらない。龍神さまのご意思は、すべて、このカードで伝えられる」
フィオガハが説明しているうちに、ハイルは座卓の上に、カードの束の上から三枚のカードを並べた。左から順に、星のカード、歯車のカード、器が三枚描かれたカードだ。
「さて、これはどういう意味だ?」
ハイルはまたしても、にやりと笑った。
「ええと、星……歯車? 器が一つ、二つ……」
「見たまんまじゃないか。それにお前、数が数えられないのか?」
さっきまで青白かったクジャの顔が、一気に真っ赤になった。ハイルはクジャの肩をばんばん叩き、今度はハジミの顔を見た。
「じゃ、お前はどう思う?」
ハジミはかちんときた。ハジミは兄さんたちにさえ、お前、なんて乱暴な言葉で呼び捨てられたことはない。
「何を占ったのかわからなければ、何も答えられません」
ハジミがぷんぷん怒ると、ハイルは豪快に笑った。
「おお、頭がいいな。じゃあすぐに、覚えてくれるだろう。よかったな、フィオ、楽ができて。俺なんか、数の数え方から、教えないとならねえ」
ハジミとクジャは、一月ほどかけて、カード占いのやり方を教わった。フィオガハとハイルがいないとき、ハジミはクジャに文字の読み方と書き方を教えた。それでわかったことが二つあった。一つは、龍神の化身の力は、ただの占いに過ぎないこと、もう一つは、クジャはとても賢いことだ。
しかし、クジャがどんなに賢くても、貧しい家で、あまり家族に恵まれずに育ったクジャと、甘やかされて育った大金持ちのお嬢さまのハジミとでは、会話がかみ合わなかった。ハジミは家が恋しくなってきた。
(ただ、占いをするだけなら、わたしである必要がないわ。わたしは、これから学び舎で勉強して、いつか、父さまから船をいただいて、商売をするはずだったのに……。頭のいいハジミなら、きっとできるって、父さま、笑っていたのに)
「父さま、母さま、兄さまたち。会いたい……帰りたい……」
ハジミは涙で枕を濡らした。しっかり者のハジミとはいえ、まだ六歳の女の子だったのだ。
**
今では、クジャはハジミの親友だ。ハジミの話をじっと静かに聞いてくれて、ときおり、ハジミが思ってもいなかったような答えを返してくれる。占いの結果を読み解くのに困ったときに、クジャに尋ねると、クジャはぱっと霧が晴れるようなことを教えてくれる。だから、ハジミはもう、クジャのことを弟だとは思っていない。それに、ハジミには、子分がいるのだ。ときにうっとうしい、子分が。
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