9 / 16
08 はじめてのプレゼント
しおりを挟む
「窓拭き、もう終わるってジークフリートさんに伝えてきてください~。
バケツはわたしが持っていきます」
高窓を拭き終わって脚立からよっ、と飛び降りようとした。
そうしたら、脚立を支えてくれていたエーコさんが怪訝な目で見てくる。
「なんですか?」
「淑女の端の端の端くれならもう少しこう……気を遣わないの?」
「何をですか?」
「スカート!」
「う~ん、でも邪魔だから」
「ぎゃあっ、破廉恥! 破廉恥! 田舎者ッ!」
裾をたくし上げて改めて飛び降りたら、
エーコさんは物凄いものを見るような目でわたしを睨んできた。
メイドの給仕服は普通自分で用意するものなんだけれども、
わたしには事前の準備なんてあるわけないし、繕ってもらうお金もない。
それで、もう要らないから、ってコルニさんが物置部屋から引っ張ってきてくれた
古い給仕服を使わせてもらっているんだ。
決められた服装だし、譲ってもらったものなんだから文句も言えないけれども
正直給仕服って動きづらい。
動き回らなきゃなのに足首まで隠れるような長い裾が煩わしい。
故郷は男の人も女の人も、外で働いているみんなが丈の短い衣装を履いていたのだけれども、
王都ではそういうのは下品らしい。
「あ、たくし上げるのが駄目なら短く縫い直して……」
「駄目に決まってるでしょ、はしたない田舎娘!」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか~」
汚れた水の入ったバケツを片手に歩いていると、
前の方からコルニさんがやってくる。
「公爵殿下がお呼びしていましたよ」
「殿下が?」
殿下は今も王宮に滞在している。
けれども、一昨日部屋に来てくれてからはすれ違う程度だった。
「わ、わたし何かやらかしましたか……!?」
「ご覧なさい、ご覧なさい。オルフレール公爵殿下の目にも余るのだわ」
「確認してらっしゃい」
とにかく急がなきゃってことでわたしはいそいそと片付けを済ませて、
殿下の御部屋……王宮の一角にある客室に向かった。
「失礼しまーす……」
「パウリナさん。お待ちしておりました。奥までどうぞ上がってください」
客室といってもこの部屋を普通のお客さんに開放することはほとんどなくて、
実質的に殿下専用のお部屋らしい。
他の部屋は一風変わった内装や外国の珍しい家具も用意しているのだけれども、
この部屋は伝統的なクランリッツェ式だ。
辺りには殿下のものだろう生活用品が置かれている。
それから部屋全体に、何ていうか、ここで生活しているんだなって空気がある。
わたしから見て真正面にある壁にはクランリッツェの国章が描かれたタペストリー、
左にある壁には多分オーギュスト家の紋章だろうタペストリーが飾られている。
正面の長机を挟んで向かい側に殿下は立っている。
「今日はプレゼントがあるんです」
「プレゼント?」
陽の光に柔らかく照らされている殿下のお顔は穏やかに微笑んでいて、
来るまでの怒られるかも、って不安が解けていく。
「ええ。よろしければ今開けていただけますか」
そういって殿下が袋を差し出してくる。
殿下の両手にぎりぎり収まるくらいの大きさで、平たくて四角いものだ。
飾り付けの小さなリボンにわたしの名前が刺繍されている。
「わぁ、何が入ってるんですか~……?」
袋を受け取ってさっそく封を切る。
布? お洋服? 手に持った感触はしっかりした感じだ。
「あっ!!」
折りたたまれているそれをばさ、と広げた瞬間、わたしは声を出していた。
「これ給仕服ですよね!? わー、わたし専用の!」
「ええ。遅くなってしまって申し訳ありません」
「なんで謝るんですかー、うれしいです、嬉しいですっ」
「ふふ。
……今着替えていただいても構いませんか?
あなたの体格を考えて作らせましたが、合うかわかりませんし……
何より、私も見てみたいのです」
「はい、もちろんですっ」
殿下が用意してくれた給仕服は淡い色合いの生地に控え目な花柄のもので、
シンプルなドロワーズもセットで入っていた。
うきうきで身体にあてがって、さっそくワンピースのホックを外そうとした。
だけれども……殿下には一向にその場から動く気配がない。
「あ、あの……ちょっとだけ、席を外してほしいです!」
「ああ、うっかりしていました。失礼」
殿下はハッと気がついたよう「失礼」って後ろ向きになった。
でも顔はちょっと笑ってた。
殿下ほど気の回る人が気づかないことはないと思うんだけど。
……実は結構すけべなのかな。
「着替え終わりました」
「動きにくかったり、極端にサイズの合わないところがあったりはしませんか?」
殿下はわたしの腕を持って上げ下げしたり、曲げたりを繰り返す。
「バッチリです!」
「そうですか。
あなたと一緒に採寸してから作らせるべきだったのでしょうが、何分急ぎでしたので」
ホッと胸を撫で下ろす彼にわたしはできるだけたくさんの感謝を伝えたくなった。
感じていた心配や不安の分、今大丈夫って思ってほしいし。
「本当にありがとうございます! 大事にしますね!」
ぺこ、と頭を下げて、改めてお礼をする。
殿下が頭を上げるよう合図して、それから微笑む。
「ふふ。お礼として、なんて自分から言うものではありませんが、
さっそくお仕事をお頼みしても?」
「はいっ! ビシバシ言ってください」
「では紅茶を淹れてきてください。……ああ、カップは二人分で」
バケツはわたしが持っていきます」
高窓を拭き終わって脚立からよっ、と飛び降りようとした。
そうしたら、脚立を支えてくれていたエーコさんが怪訝な目で見てくる。
「なんですか?」
「淑女の端の端の端くれならもう少しこう……気を遣わないの?」
「何をですか?」
「スカート!」
「う~ん、でも邪魔だから」
「ぎゃあっ、破廉恥! 破廉恥! 田舎者ッ!」
裾をたくし上げて改めて飛び降りたら、
エーコさんは物凄いものを見るような目でわたしを睨んできた。
メイドの給仕服は普通自分で用意するものなんだけれども、
わたしには事前の準備なんてあるわけないし、繕ってもらうお金もない。
それで、もう要らないから、ってコルニさんが物置部屋から引っ張ってきてくれた
古い給仕服を使わせてもらっているんだ。
決められた服装だし、譲ってもらったものなんだから文句も言えないけれども
正直給仕服って動きづらい。
動き回らなきゃなのに足首まで隠れるような長い裾が煩わしい。
故郷は男の人も女の人も、外で働いているみんなが丈の短い衣装を履いていたのだけれども、
王都ではそういうのは下品らしい。
「あ、たくし上げるのが駄目なら短く縫い直して……」
「駄目に決まってるでしょ、はしたない田舎娘!」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか~」
汚れた水の入ったバケツを片手に歩いていると、
前の方からコルニさんがやってくる。
「公爵殿下がお呼びしていましたよ」
「殿下が?」
殿下は今も王宮に滞在している。
けれども、一昨日部屋に来てくれてからはすれ違う程度だった。
「わ、わたし何かやらかしましたか……!?」
「ご覧なさい、ご覧なさい。オルフレール公爵殿下の目にも余るのだわ」
「確認してらっしゃい」
とにかく急がなきゃってことでわたしはいそいそと片付けを済ませて、
殿下の御部屋……王宮の一角にある客室に向かった。
「失礼しまーす……」
「パウリナさん。お待ちしておりました。奥までどうぞ上がってください」
客室といってもこの部屋を普通のお客さんに開放することはほとんどなくて、
実質的に殿下専用のお部屋らしい。
他の部屋は一風変わった内装や外国の珍しい家具も用意しているのだけれども、
この部屋は伝統的なクランリッツェ式だ。
辺りには殿下のものだろう生活用品が置かれている。
それから部屋全体に、何ていうか、ここで生活しているんだなって空気がある。
わたしから見て真正面にある壁にはクランリッツェの国章が描かれたタペストリー、
左にある壁には多分オーギュスト家の紋章だろうタペストリーが飾られている。
正面の長机を挟んで向かい側に殿下は立っている。
「今日はプレゼントがあるんです」
「プレゼント?」
陽の光に柔らかく照らされている殿下のお顔は穏やかに微笑んでいて、
来るまでの怒られるかも、って不安が解けていく。
「ええ。よろしければ今開けていただけますか」
そういって殿下が袋を差し出してくる。
殿下の両手にぎりぎり収まるくらいの大きさで、平たくて四角いものだ。
飾り付けの小さなリボンにわたしの名前が刺繍されている。
「わぁ、何が入ってるんですか~……?」
袋を受け取ってさっそく封を切る。
布? お洋服? 手に持った感触はしっかりした感じだ。
「あっ!!」
折りたたまれているそれをばさ、と広げた瞬間、わたしは声を出していた。
「これ給仕服ですよね!? わー、わたし専用の!」
「ええ。遅くなってしまって申し訳ありません」
「なんで謝るんですかー、うれしいです、嬉しいですっ」
「ふふ。
……今着替えていただいても構いませんか?
あなたの体格を考えて作らせましたが、合うかわかりませんし……
何より、私も見てみたいのです」
「はい、もちろんですっ」
殿下が用意してくれた給仕服は淡い色合いの生地に控え目な花柄のもので、
シンプルなドロワーズもセットで入っていた。
うきうきで身体にあてがって、さっそくワンピースのホックを外そうとした。
だけれども……殿下には一向にその場から動く気配がない。
「あ、あの……ちょっとだけ、席を外してほしいです!」
「ああ、うっかりしていました。失礼」
殿下はハッと気がついたよう「失礼」って後ろ向きになった。
でも顔はちょっと笑ってた。
殿下ほど気の回る人が気づかないことはないと思うんだけど。
……実は結構すけべなのかな。
「着替え終わりました」
「動きにくかったり、極端にサイズの合わないところがあったりはしませんか?」
殿下はわたしの腕を持って上げ下げしたり、曲げたりを繰り返す。
「バッチリです!」
「そうですか。
あなたと一緒に採寸してから作らせるべきだったのでしょうが、何分急ぎでしたので」
ホッと胸を撫で下ろす彼にわたしはできるだけたくさんの感謝を伝えたくなった。
感じていた心配や不安の分、今大丈夫って思ってほしいし。
「本当にありがとうございます! 大事にしますね!」
ぺこ、と頭を下げて、改めてお礼をする。
殿下が頭を上げるよう合図して、それから微笑む。
「ふふ。お礼として、なんて自分から言うものではありませんが、
さっそくお仕事をお頼みしても?」
「はいっ! ビシバシ言ってください」
「では紅茶を淹れてきてください。……ああ、カップは二人分で」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
【R18】ヤンデレ侯爵は婚約者を愛し過ぎている
京佳
恋愛
非の打ち所がない完璧な婚約者クリスに劣等感を抱くラミカ。クリスに淡い恋心を抱いてはいるものの素直になれないラミカはクリスを避けていた。しかし当のクリスはラミカを異常な程に愛していて絶対に手放すつもりは無い。「僕がどれだけラミカを愛しているのか君の身体に教えてあげるね?」
完璧ヤンデレ美形侯爵
捕食される無自覚美少女
ゆるゆる設定
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる