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08 はじめてのプレゼント

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「窓拭き、もう終わるってジークフリートさんに伝えてきてください~。
バケツはわたしが持っていきます」

高窓を拭き終わって脚立からよっ、と飛び降りようとした。
そうしたら、脚立を支えてくれていたエーコさんが怪訝な目で見てくる。

「なんですか?」
「淑女の端の端の端くれならもう少しこう……気を遣わないの?」
「何をですか?」
「スカート!」
「う~ん、でも邪魔だから」
「ぎゃあっ、破廉恥! 破廉恥! 田舎者ッ!」

裾をたくし上げて改めて飛び降りたら、
エーコさんは物凄いものを見るような目でわたしを睨んできた。

メイドの給仕服は普通自分で用意するものなんだけれども、
わたしには事前の準備なんてあるわけないし、繕ってもらうお金もない。
それで、もう要らないから、ってコルニさんが物置部屋から引っ張ってきてくれた
古い給仕服を使わせてもらっているんだ。

決められた服装だし、譲ってもらったものなんだから文句も言えないけれども
正直給仕服って動きづらい。

動き回らなきゃなのに足首まで隠れるような長い裾が煩わしい。

故郷は男の人も女の人も、外で働いているみんなが丈の短い衣装を履いていたのだけれども、
王都ではそういうのは下品らしい。

「あ、たくし上げるのが駄目なら短く縫い直して……」
「駄目に決まってるでしょ、はしたない田舎娘!」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか~」

汚れた水の入ったバケツを片手に歩いていると、
前の方からコルニさんがやってくる。

「公爵殿下がお呼びしていましたよ」
「殿下が?」

殿下は今も王宮に滞在している。
けれども、一昨日部屋に来てくれてからはすれ違う程度だった。

「わ、わたし何かやらかしましたか……!?」
「ご覧なさい、ご覧なさい。オルフレール公爵殿下の目にも余るのだわ」
「確認してらっしゃい」

とにかく急がなきゃってことでわたしはいそいそと片付けを済ませて、
殿下の御部屋……王宮の一角にある客室に向かった。

「失礼しまーす……」
「パウリナさん。お待ちしておりました。奥までどうぞ上がってください」

客室といってもこの部屋を普通のお客さんに開放することはほとんどなくて、
実質的に殿下専用のお部屋らしい。

他の部屋は一風変わった内装や外国の珍しい家具も用意しているのだけれども、
この部屋は伝統的なクランリッツェ式だ。

辺りには殿下のものだろう生活用品が置かれている。
それから部屋全体に、何ていうか、ここで生活しているんだなって空気がある。

わたしから見て真正面にある壁にはクランリッツェの国章が描かれたタペストリー、
左にある壁には多分オーギュスト家の紋章だろうタペストリーが飾られている。

正面の長机を挟んで向かい側に殿下は立っている。

「今日はプレゼントがあるんです」
「プレゼント?」

陽の光に柔らかく照らされている殿下のお顔は穏やかに微笑んでいて、
来るまでの怒られるかも、って不安が解けていく。

「ええ。よろしければ今開けていただけますか」

そういって殿下が袋を差し出してくる。
殿下の両手にぎりぎり収まるくらいの大きさで、平たくて四角いものだ。
飾り付けの小さなリボンにわたしの名前が刺繍されている。

「わぁ、何が入ってるんですか~……?」

袋を受け取ってさっそく封を切る。

布? お洋服? 手に持った感触はしっかりした感じだ。

「あっ!!」

折りたたまれているそれをばさ、と広げた瞬間、わたしは声を出していた。

「これ給仕服ですよね!? わー、わたし専用の!」
「ええ。遅くなってしまって申し訳ありません」
「なんで謝るんですかー、うれしいです、嬉しいですっ」
「ふふ。
……今着替えていただいても構いませんか?
あなたの体格を考えて作らせましたが、合うかわかりませんし……
何より、私も見てみたいのです」
「はい、もちろんですっ」

殿下が用意してくれた給仕服は淡い色合いの生地に控え目な花柄のもので、
シンプルなドロワーズもセットで入っていた。

うきうきで身体にあてがって、さっそくワンピースのホックを外そうとした。
だけれども……殿下には一向にその場から動く気配がない。

「あ、あの……ちょっとだけ、席を外してほしいです!」
「ああ、うっかりしていました。失礼」

殿下はハッと気がついたよう「失礼」って後ろ向きになった。
でも顔はちょっと笑ってた。

殿下ほど気の回る人が気づかないことはないと思うんだけど。
……実は結構すけべなのかな。

「着替え終わりました」
「動きにくかったり、極端にサイズの合わないところがあったりはしませんか?」

殿下はわたしの腕を持って上げ下げしたり、曲げたりを繰り返す。

「バッチリです!」
「そうですか。
あなたと一緒に採寸してから作らせるべきだったのでしょうが、何分急ぎでしたので」

ホッと胸を撫で下ろす彼にわたしはできるだけたくさんの感謝を伝えたくなった。
感じていた心配や不安の分、今大丈夫って思ってほしいし。

「本当にありがとうございます! 大事にしますね!」

ぺこ、と頭を下げて、改めてお礼をする。
殿下が頭を上げるよう合図して、それから微笑む。

「ふふ。お礼として、なんて自分から言うものではありませんが、
さっそくお仕事をお頼みしても?」
「はいっ! ビシバシ言ってください」
「では紅茶を淹れてきてください。……ああ、カップは二人分で」
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