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第43話
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巨大な閃光が、一瞬たじろいだ魔王の巨体に直撃する。
火柱と複数の爆発音が周囲を光で包みこみ、一瞬の静寂が訪れた。
「クハハハ……これでは、我を倒せぬ……! ぬかったな、聖女よ」
「はん、頭の悪いやつだね」
これで仕留められるなんて、思っちゃいないよ。
ただの目くらましさ。
だいたい、魔王をぶっ殺すのは聖女の仕事じゃない。
適役が、ほら目の前にいるだろう?
「三流以下ですよ、あなた」
「は……?」
油断した魔王のド真ん前に、エルムスがいた。
すでにその手はあのほそっこい剣の柄にかけられている。
「──徒花と散れ」
アタシも含めて、戦場の誰もがそれを見たが、何も見えやしなかった。
ただ、剣を鞘に収める鍔なりの音を聞き、現象としてのそれを目にしただけだ。
「は……? なん……だ……と?」
ずるり、と魔王の身体が袈裟懸けにずれていく。
その表情は、竜のツラをしているのに意外に豊かで、驚きと恐怖がありありと浮かんでいた。
「では、聖滅のお時間ですよ、セイラ」
「おうよ」
振り返るエルムスに笑って返す。
「このような、このような……! 一体なんだというのだァ!」
「『愛』だよ」
激昂したように吠える魔王に、にやりと笑って見せる。
わかりゃしないさ、アタシだってついさっきまでわからなかった。
ましてや、魔王にそれがわかってたまるものか。
光輪を回して、魔王を見据える。
『聖女限界突破。神敵捕捉。滅殺シークエンス開始。天輪加速。収束率100……120……150……210……300%……』
「これで、終わりだぁぁぁッ!!」
「待て、待っ──……」
拳を突き出し、殴るようにして閃光を放つ。
脆くなった魔王の身体の奥底まで突き刺さったそれは、その全てを隅々まで焼き尽くし、火柱と光の中へと消し去った。
後に残ったのは、天に散り行く光の残渣と焼かれた戦場のみ。
「おわりましたね」
「あっさり言うなよ。大変だったんだぞ」
力と気が抜けて、へたり込む。
もうあの声は聞こえないし、光輪も溶けるようになくなってしまった。
だが、達成感がある。つまり……アタシの役目は本当に終わったということだろう。
「お疲れさまでした、セイラ」
アタシを抱え上げて、エルムスが歩き出す。
「わっ、ちょっと」
「聖女様の凱旋です。摑まっていてください」
「歩く、歩けるって!」
暴れようにも力の入らないアタシは、エルムスに抱きかかえられたまま戦場を縦断する。
膝をついて道をつくる騎士と傭兵たちが、まるでむさくるしい花道の様に思えて、思わず吹き出しそうだった。
火柱と複数の爆発音が周囲を光で包みこみ、一瞬の静寂が訪れた。
「クハハハ……これでは、我を倒せぬ……! ぬかったな、聖女よ」
「はん、頭の悪いやつだね」
これで仕留められるなんて、思っちゃいないよ。
ただの目くらましさ。
だいたい、魔王をぶっ殺すのは聖女の仕事じゃない。
適役が、ほら目の前にいるだろう?
「三流以下ですよ、あなた」
「は……?」
油断した魔王のド真ん前に、エルムスがいた。
すでにその手はあのほそっこい剣の柄にかけられている。
「──徒花と散れ」
アタシも含めて、戦場の誰もがそれを見たが、何も見えやしなかった。
ただ、剣を鞘に収める鍔なりの音を聞き、現象としてのそれを目にしただけだ。
「は……? なん……だ……と?」
ずるり、と魔王の身体が袈裟懸けにずれていく。
その表情は、竜のツラをしているのに意外に豊かで、驚きと恐怖がありありと浮かんでいた。
「では、聖滅のお時間ですよ、セイラ」
「おうよ」
振り返るエルムスに笑って返す。
「このような、このような……! 一体なんだというのだァ!」
「『愛』だよ」
激昂したように吠える魔王に、にやりと笑って見せる。
わかりゃしないさ、アタシだってついさっきまでわからなかった。
ましてや、魔王にそれがわかってたまるものか。
光輪を回して、魔王を見据える。
『聖女限界突破。神敵捕捉。滅殺シークエンス開始。天輪加速。収束率100……120……150……210……300%……』
「これで、終わりだぁぁぁッ!!」
「待て、待っ──……」
拳を突き出し、殴るようにして閃光を放つ。
脆くなった魔王の身体の奥底まで突き刺さったそれは、その全てを隅々まで焼き尽くし、火柱と光の中へと消し去った。
後に残ったのは、天に散り行く光の残渣と焼かれた戦場のみ。
「おわりましたね」
「あっさり言うなよ。大変だったんだぞ」
力と気が抜けて、へたり込む。
もうあの声は聞こえないし、光輪も溶けるようになくなってしまった。
だが、達成感がある。つまり……アタシの役目は本当に終わったということだろう。
「お疲れさまでした、セイラ」
アタシを抱え上げて、エルムスが歩き出す。
「わっ、ちょっと」
「聖女様の凱旋です。摑まっていてください」
「歩く、歩けるって!」
暴れようにも力の入らないアタシは、エルムスに抱きかかえられたまま戦場を縦断する。
膝をついて道をつくる騎士と傭兵たちが、まるでむさくるしい花道の様に思えて、思わず吹き出しそうだった。
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