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第30話

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「神聖なる大聖堂でなんてことをッ!!」

 大司教の怒声が廊下に響き渡る。
 おかげでアタシとエルムスは周囲から注目を集めてしまっていた。

 昨日アタシがエルムスを部屋に連れ込んだのを修道女が目撃していたらしい。
 そして、そいつは朝になって大司教と共に部屋に踏み込んできて、気分のいいまどろみに耽るアタシとエルムスを叩き起こした。
 朝になるまで待ってくれるあたり、気を遣ってくれたのかもしれないが放っておいてほしかったところだ。

「別に神さんから文句は出なかったけどね?」

 仮にも神の家なんて言うくらいだ。
 やったことに文句があるなら家主が直接文句をたれればいい。

「仮にも司祭ともあろうものが、聖女と……淫欲の罪に溺れるなど……!」
「あははは……すみません」

 エルムスの半笑いは、さらに大司教を激昂させたようだ。

「このようなことは、前代未聞だぞ!」
「いいじゃないか、別に。前代未聞って、まぁ、初めては誰にでもあるもんだろ?」

 エルムスと一緒でな。

「聖女セイラ! あなたは聖女なのですぞ?」
「あんた達が勝手にそう言ってるだけだろ。勝手に清らかさを押し付けんじゃないよ」

 アタシの反論に一瞬怯む大司教だったが、エルムスに向き直る。

「お前は、司祭だろう! なぜ、止めなかった!」
「それが自然に思えましたので」

 エルムスの言葉が、すとんと胸に落ちた。
 空がうっすらと明るくなるまで求め合い、愛し合いはしたが、エルムスの気持ちをはっきりと確かめてはいなかった。

 ……怖かったのだ。

 でも、いまエルムスは自然だと言った。
 求めあうことも、無言のまま熱で通じ合うことも、拒まないでいてくれたことも。
 それが、とてもうれしかった。

「何が自然だ! 神の使徒たる貴様が! 聖女に淫らなことをするのが自然だと? そのような冒涜的な者を認めるわけにはいかん! 破門だ! 今すぐここを出ていけ!」
「承りました。長らくのご指導、ありがとうございます」

 当然の事だと言わんばかりにエルムスが頭を下げて、廊下を行く。
 それを唖然とした顔で大司教が見る。
 お前が出ていけって言ったんだろうが、何を意外そうな顔をしてんだ。

 ……ま、いいか。

「んじゃ、アタシもこれで」
「はひ?」

 大司教がすっとん声をあげて、周囲が大きなざわつきに満ちる。

「聖女様は我々を見捨てるというのですかな?」
「おいおい、都合のいいこと言ってんじゃないよ」

 すがるように伸ばされた手をはたき落す。

「アタシはエルムスに雇われた便利屋で、仕事として聖女候補とやらをやってただけだよ。依頼主が足抜けするなら、アタシだって仕事は終わりさ」
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