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第25話

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『再起動』

「ん……」

 せっかく気分よく寝てたってのに、例の声で目が覚めた。

「セイラさん!」

 すぐに誰かが駆け寄ってきたと思ったら、マーガレットだった。

「あれ? マーガレット。いつの間にこっちに来たんだ」
「違いますよ、セイラさん。あなたが帰って来たんです」
「は?」

 よくよく見て見ると、確かにここ一ヶ月ほどで見慣れた大聖堂の自室である。
 モールデン砦からここまで一週間の道のりだ。
 つまり……一週間も寝こけてたってことか!?

「心配したんですよ? すぐにエルムス様をお呼びしますね」

 返事も聞かずにマーガレットが飛び出していく。

「はぁー……寝過ぎて体がいてぇ……。腹も減った」

 よたよたとした足取りで、着替えを仕舞ったタンスに近づいていく。
 そして、ふと鏡の前で足を止めた。
 一週間以上も食ってないんだ。
 もしかしたらやつれてるかもしれない、と思って。

「は?」

 そこに映っていたのは、見知らぬ女だった。
 いや、目鼻立ちは見知った顔だが、髪の色と瞳の色が違っている。

「なんだ、これ……!?」

 まるで小麦畑を思わせる金の髪と、透き通る空のような青い瞳。
 どちらも、自分が持ち合わせていないないものだ。

「どうなってんのさ……?」
「セイラ!」

 鏡の前で百面相していると、マーガレットとエルムスが部屋に入ってきた。

「おう、エルムス……うわっぷ」
「無事でよかった。もう目覚めないかと」

 急に抱きすくめられ、大混乱するアタシの耳元で優しい声が聞こえた。

「問題ないよ。腹は減ったけどね」
「すぐに準備しますね」
「ああ、ガッツリたのむよ」

 エルムスに抱き着かれたまま、マーガレットに頼む。

「ほら、エルムス。いつまでそうやってるんだい? あんまり長いと金とるよ」
「ああ、よかった。セイラのままだ」
「アタシはアタシさ」

 抱擁を解いたエルムスがふわりと笑う。
 その笑顔に、アタシもうっかりと笑い返してしまった。
 それに赤面されるとは思わなかったが。

「あの後、どうなったんだい?」
「ええと、順を追って説明しますね」

 モールデン砦の戦いで魔物を殲滅したアタシは、意識を失って倒れた。ここまではなんとなく覚えている。
 事の顛末は、すぐに大聖堂と王都に送られ、それであの謎の力を発揮したアタシは、聖女だということになったらしい。
大聖堂に戻って来たのは数日前で、神殿騎士の一個大隊が護衛に着いたとエルムスは説明した。

「姿は一週間ほどで徐々に変わっていきました。古に語られる聖女の姿にそっくりなんですよ、今のあなた」

 一週間って。
 エルムスの奴、どれだけアタシのそばに居たんだ?

「魔王軍はどうなった?」
「今のところ動きはないそうです。聖女が現れたので、魔王そのものが警戒しているのかもしれません」
「そうかい……」

 とりあえず、モールデン砦の連中は無事ってわけか。
 それを聞いて、アタシ胸をなでおろす。
 これで全滅してたら目も当てられないからね……。
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