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第20話

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 朝始まった魔王軍との衝突は、正午には決した。
 守備隊は、今回も王国軍は魔王軍を撃退することに成功したのだ。

「よお、聖女さんよ、帰ったぜ」

 バルボ・フットがそこらかしこに傷を作りながら帰ってきた。

「しぶといあんたの事なんか心配しちゃいないよ」

 軽口をとばしながらも、無事を喜ぶ。

「セイラ、お前さんが口を利いてくれたんだってな。おかげで、被害が少なかったぜ」
「アタシは何もしてないよ。礼ならモールデン伯爵にいいな。こんな小娘の戯言を真面目に聞いてくれるいい貴族様じゃないか」
「お褒めに与り光栄だね、聖女殿」

 気が付くと、頭だけ甲冑を脱いだモールデン伯爵が背後に立っていた。

「恥ずかしい話だ。聖女殿の言うとおりだった。此度の戦い、前回とは全く違った。私は戦の仕方を間違っていたようだ」

 モールデン伯爵ほか数名の騎士が膝をつき、騎士の礼を取る。

「お、おい……やめろよ。もう隠しゃしないけど、アタシはこの通り下賤の身だ。騎士様に膝をつかれる様な人間じゃないよ」
「いいや、聖女セイラ。此度の戦で死んだ騎士はいなかった。傭兵団が上手くやってくれたからだ」
「傭兵も死人は出てねぇぞ。騎士さんらが上手くやってくれたおかげでな」

 にやりとバルボ・フットが笑う。
 死人が出ていないのは、てめぇの指揮だろうに。

「聖女セイラ。あなたはまさに神に遣わされた者だと思う。あなたの言葉と覚悟がなければ、この戦場はもっと悲惨なことになっていた」
「大げさだよ。アタシは聖女候補を笠に着て無理いっただけさ。ただ、次からは傭兵どもともうまくやってくんな。バルボ・フットならまかせとけば大丈夫だからさ」

 アタシの言葉に頷き、モールデン伯爵がバルボ・フットに向き直る。

「卿らをないがしろにして、すまなかった。此度の働き、誠に見事だった」
「オレらは金の分だけ働いただけでさ」
「では、見合った金を積ませていただこう。要望があれば伝えてくれ」

 和解の様子を見せるモールデン伯爵とバルボ・フットを見て、胸をなでおろす。
 ここに来た意味が少しでもあったと思えば、胸のつかえもとれるというものだ。
 後はこのまま何もなく、慰問が終わればいい。

「で、伝令―!」

 戦勝ムードの中、砦の中に早馬が駆け入ってくる。

「何事か!」

 モールデン伯爵の声に、下馬した騎士が駆け寄る。

「魔王軍、再侵攻! 数は約五百! 率いる魔人は四天王ビーグローを名乗っています! ……監視部隊は私を除き、全滅しました……!」
「なんだとッ」

 騎士が、小さく震えながら伝令を続ける。

「ヤツは、聖女を引き渡せば退く、と……!」

 それを聞いた瞬間、鼓動が早くなり、体が冷えたような感覚に襲われる。
 スラムで生きていれば、何度も感じることになるものだ。

「はぁ……ご指名とありゃ、出向くしかないね」

 誰にも聞こえないように決心を呟く。
 震えた足を叱咤し、こわばる表情筋をねじ伏せて……アタシは何とか誤魔化し笑いをして見せた。
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