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第19話

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 戦場に、立つ。

 足が震えるが、ヒラヒラの聖女服はそれを上手いこと隠してくれた
 ここで死ぬかもしれないが、それは他の奴らも同じことだ。
 覚悟はしてきた。

 傭兵部隊の前に立って、聖女の旗を立ててみせる。

「おう、バカども。よーく聞け。魔王軍のボケカスは約200! アタシらのたった半分だ!」

 魔物一匹が人間の何倍も危険だというのは、この際無視しよう。

「難しいことは言わねぇ。一人一匹殺りゃ、お釣りがでらぁ。数を数えらんねぇダボは多めに殺っとけ!」

 傭兵たちから笑いが漏れる。
 多少は緊張がほぐれるといい。

「これでアタシも聖女の端くれだ! てめぇらが死んだら、特別に殉教ってことにしてやるよ……派手に逝け! だが、死にたくねぇ奴は金の分働いたら逃げてこい。死ななきゃ、また金を積んでやる!」

 命の張りどころは自分で決めろ。
 戦う理由が何であれ、選択権は自分たちにある。
 特に傭兵は騎士と違って命を預けるべき場所が根本的に違う。

 忠誠や騎士道なんて、金にも飯にもならないから。

「じゃあ、行きな! 帰ってきたら、またワインをくすねてきてやる!」

 傭兵たちが、雄たけびと共に駆けて行く。
 本当はアタシも前線に向かうべきなのだろうが、エルムスにもバルボ・フットにも、モールデン伯爵にも止められたので、ここにいるしかない。
 煽るだけ煽っておいて、勝手な話だと自嘲する。

「……生きて帰れよ」

 うっかり出てしまった呟きが耳に入ったのか、エルムスがアタシの手を取って握る。
 それを何となしにぎゅっと握り返して、後ろを振り返る。

 総勢三百からなる騎士たちがそこに控えていた。
 赤い鎧をまとったモールデン伯爵が、戦場を見据えて目を細める。
 アタシが勝手をやらかしたから、さぞ怒っていることだろう。

「聖女殿。これでよかったのか?」
「ああ、これでいい。アンタら騎士とは背負うもんが違う。重い軽いじゃないけどさ。同じ方向さえ見てれば大丈夫だよ。死んだらアタシを恨みな」
「ふむ」

 もう少し何かあると思ったが、モールデン伯爵も騎士たちも何も言わない。

「では、予定通りに出る。総員、進め!」

 モールデン伯爵の号令の下、騎馬と戦車が進みゆく。
 この本隊が到着する頃には、バルボ・フット率いる傭兵団が敵陣を荒らしてるはずだ。
 そうするだけの力が、バルボ・フットにはある。

「……武運を」
「聖女殿のお墨付きであれば」

 そう返して、モールデン伯爵も戦場へを向けて駆けて行く。
 見送るしかないアタシは、それを見送って小さく俯いた。

「情けねぇ。戦えもしないなんて」

 もう、そばにはエルムスしかいない。
 そのせいか、思わず本音まじりの愚痴が口を突いて出た。

「セイラ……」
「やっぱアタシは聖女じゃねえよ。聖女は、戦いを終わらせんだろ? なのにさ、偉そうに煽っておいて、離れた場所で武器すら握っちゃいないんだ」
「安心してください。最後まで、お供しますよ。あなたが、どんなに辛くとも」
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