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第13話

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「ここは……?」
「いい場所だろ?」

 町から少し歩いた、小高い丘の上。
 すっかり傾いた赤いお日様が、アタシとエルムスを照らす。

「もう、戻ってこれないかもしれないからね。墓参りさ」

 墓標とも言い難い、目印の石の周りに買った白い花を並べ置く。
 妹はこの淡い香りの花が大好きだった。

「アタシには妹がいてさ。物心ついたときには、スラムでお互いに身を寄せ合ってた。もしかしたら本当の妹じゃないかもしれないけど、アタシは妹だと思ってたし、あの子もアタシの事を姉ちゃんと呼んでた」

 自分と似てたかな、なんて思いだそうとするがいまいち判然としない。
 記憶ってのは、残酷だ。

「いい子だったんだよ。でも、死んじまった。肺病でにかかって、あっけないもんだったよ」
「……」

 黙って聞くエルムスから花を受け取って、石の周りの花畑のように飾っていく。
 日々の食べ物に困るスラム暮らしのアタシにしたら、なかなか粋な無駄遣いだ。
 死んだ人間にしてやれることなんて、ありやしない。
 これだって、ただの自己満足だと理解しちゃいる。

「教会にさ、行ったけど……門前払いされた。だからアタシはあんた達が大嫌いなのさ」
「それは、申し訳ないことを……」

 エルムスが目を伏せる。
 お前のせいじゃないだろうに、バカな奴。

「ああ、でも。通りがかりの司祭が一人、助けてくれたんだ。これがまた擦れた司祭でさ……神様だってタダじゃ働かない、なんて言ってて……。ああ、そういうことなんだって。ただ、与えられるのを待ってるだけじゃダメなんだって、気付かされたよ」
「その方は?」
「知らねぇ。でも、アタシが差しだしたなけなしの金で、妹の痛みを取ってくれて……葬送の祈りもしてくれた。ここも、そいつと一緒に作った墓なんだ。スラムのガキなんて、死んだら路地裏で野良犬の餌になるのが相場だからな」

 花をすっかり飾り終えて、すっかり天国みたいな場所になった丘の上で沈む太陽を見る。

「さ、アタシの用事はこれで終わりさ」
「死ぬのが怖くないんですか、セイラ」
「怖いさ。怖くないやつがいたとして、そいつはまともじゃないね」

 軽く笑って見せると、エルムスが少し怯んだ表情になる。
 笑顔を張り付けた気味の悪い野郎だと思っていたが、人らしい顔もできるじゃないか。

「でもさ、スッキリはした。毎朝毎朝、メシの前に『死を想えメメントモリ』だなんて話しをされたからかもしれないけどさ、これでアタシは、死んだって悔いなく逝ける。未練がないわけじゃないけど、やるこたぁやった」

 あたしの言葉に、エルムスが眉尻を下げる。
 そんな顔する必要ないだろう?

 なぁ、エルムス。
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