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第4話

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「で、こいつ誰なワケ?」
「ポリー伯爵家のご令嬢、アンナ様です。『光の刻印』がお身体にある、今代の聖女候補ですよ」

 マーガレットの紹介に、渋々といった様子でスカートをつまみ上げカーテシーをするアンナ。

「おう、そうかい。アタシはスラムの何でも屋、セイラだ。覚えなくていいぜ。ここにはよくわかんねぇ仕事できただけだ」

 礼儀として、軽く会釈だけ返しておく。
 カーテシーなんて、アタシはまともにできないし、摘まみ上げるスカートも履いちゃいない。

「あなたにも『光の刻印』がありますの?」
「似たような形の痣があるだけさ。いい迷惑だよ」

 心底のたっぷりとしたため息を披露する。
 こんなキラキラした適当な候補がいるなら、何もどぶの底スラムからアタシを捕まえてくることないだろうに。

「セイラ様は今から湯あみですので、これで失礼いたしますね」
「……ええ。ごきげんよう」

 アンナの言葉に「ゴキゲンヨウ」とオウム返しをして、マーガレットの後ろについて行く。
 背後から視線を感じるが、タダ見するくらいなら金でも恵んでほしいところだ。

「なぁ、マーガレット」
「はい?」
「ああいうのが何人もいるのかい?」
「はい。現在十余名の候補者様がこちらの大聖堂に御滞在されてますよ」

 はぁ……場違い感が増してきた。
 そんなにたくさんいるってのに、何だってアタシなんかが連れてこられたのか。
 あれか?
 あえて、下の人間を一人置くことでガス抜きしようって魂胆か?

 まったく、エルムスめ。性格の悪い。
 まぁ、金の為なら少々のサンドバッグくらいにはなってやるさ。
 この様子だと、命のやり取りはなさそうだし、それで金貨が手に入るなら儲けものだ。

「さぁ、セイラさん。上から下までピッカピカにして差し上げますからね」
「はぇ?」

 エルムスへの文句を考えているうちに、いつの間にか浴室についていた。

「さ、脱いで脱いで。手伝いは必要ですか?」
「いらねぇよ! ってか、マーガレットも一緒なのか?」
「当たり前でしょう? きっちりと、お世話させていただきますからね!」

 やる気みなぎる様子のマーガレットが、修道服をするすると脱いでいく。
 心の中で舌打ちしていると、その肌に目が留まった。

 腕、脚、背中、腹、胸。
 マーガレットの体中に、ミミズ腫れのような傷がある。
 視線に気が付いたらしいマーガレットが、小さく俯く。

「これは見苦しいものを……失礼しました。すぐに湯衣で隠しますので」
「いや、じろじろ見ちまってすまなかったね」

 あれは、鞭で打たれた後の傷だ。
 こんな年若い女に、誰があんなことをしたのか。
 相変わらず世界は狂ってる。

「さぁ、セイラさま。お覚悟なさいませ」
「待て、アタシは自分でできる!」
「はいはい、これもお仕事の内でございますよ」

 すっかり道具を取りそろえて笑うマーガレットに、アタシは渋々うなずくしかなかった。
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