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第二章 出陣! 二代目女神様
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《ア―サ―君!》
引力による落下加速に机ゴンの魔力が加わり、星の海から流れ落ちてくる隕石もかくやというレベルにまで達した速度の机は、ア―サ―をしっかりと捕らえたまま校庭の中央に、
ズドオオオオォォォォン!
落下! その衝撃で、大きな大きなすり鉢状の穴ができた。
その中心には黒い机があり、その下にはア―サ―がいる、はずだ。埋まっているので上からは見えないが。
机ゴンは、その穴の縁まで行って覗き込み、
「……おるな」
ア―サ―がまだ机のすぐ下にいることを、匂いから確信した。
だが生きてはいるが、かなり弱っているのも確かだ。なぜなら、今紛れもなく窮地なのに動く様子がない。つまり、大ダメ―ジを負ったせいでそこから動けないのだ。
「たかがこの程度の攻撃で、そんなザマか。どうやら、まだ転生後の覚醒が完全ではないとみえる。ならば、これでトドメだ!」
机ゴンが頭を下げた。お馴染みの落雷、そして今度は今までとはケタ違いの数と勢いで、黒水晶の机が轟音地響き地鳴りを立てて降り注いだ。これはもう豪雨ではなく、雪崩だ。
すぐそばにいるイルヴィアが悲鳴を上げる。が、黒い机は穴を埋め尽くしても止まらず降り注ぎ、あっという間に校舎と同じくらいの高さの山盛りになっていった。
やがて机が止み、校舎からの声もイルヴィアの声も消えて、静寂が訪れる。
白い戦装束は、どこにも見えなかった。
「勝った……勝ったぞおおぉぉ!」
机ゴンが、勝利の雄叫びを上げた。
「もう白の女神はいない! もしまた転生するとしても、それは百年、二百年の後! その頃にはこの地上は、わしらのものだ!」
高らかに吠える吼える机ゴン。その咆哮は二つの校舎を揺るがした。
が、一番近くにいる少女には、全く効かなかった。
「……」
イルヴィアは今、拳を握り締めて机ゴンを見上げ、睨んでいる。
なぜかは解らない。自分でも「違う」と思う。思うのだが、どうしても机ゴンに対して、「あ~くんの仇!」という思いが湧いてくるのだ。
そんなイルヴィアの視線に気付いて、机ゴンがそらちを見た。目が合い視線が衝突した。
が、イルヴィアは目を逸らさない。怯えることなく、まっすぐに机ゴンを睨んでいる。
机ゴンは、フン、と鼻で笑って。
「陛下もまだ、完全には覚醒しておらぬしな。わしが手足となって働かねばならん。その為には、存分に喰って精をつけておかねばの」
机ゴンは、ぐるりと辺りを見回した。小学校、中学校、そしてイルヴィアを。
重い恐怖が、辺り一帯の空気を支配した。誰も何も言えず、動けない。
だがそんな中、白いアレが舞った!
「みんなああぁぁ――――――――っ!」
それは、白い扇子。オデックだ。
「教科書に載ってただろ! 白の女神は、人の善き心を力に換えるって!」
オデックは、懐から二つめの扇子を取り出した。一つめと同じ、白地に赤丸の扇子。オデックとっておきの、ここ一番という時にしか出さない、扇子二刀流だ。
オデックは両手に扇子を構えると、懸命に振り回しながら、叫んだ。
「だから怖がっちゃあダメだ、信じろあの子を! で何をするかというと、ここは一発みんなであの子の応援だぁ――――っ!」
「……おいおいおいおい」
思わず、机ゴンは突っ込んでしまう。
「何をホザいておる? 白の女神は既に」
「いくぞみんな! 女神二号ちぁんの応援っ!」
「だからだな。あの女はこの通り、机に潰され埋もれて死んで」
「に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!」
窓から全身を乗り出して、必死に扇子で舞いながら、オデックは歌うように叫ぶ。その顔は、思い切り叫んでいるにも関わらず、紅潮してはいない。むしろ、青白い。
ただひたすらに、怖いから。今、机ゴンが校舎に向かってきたら、自分などひとたまりもなく喰われるか、叩き潰されるかだというのが解っているから。そして今、誰もがそれと同じ思いなのは明らかだから。
だから叫んだ。舞った。そうすれば、気持ちは沈まないから。
「に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!」
「えい、鬱陶しいぞ!」
机ゴンは、イラついて怒鳴った。だがそのすぐそばからも、
「に・ご・お! に・ご・お!」
怒鳴るような少女の声、イルヴィアの声。
あの子に届くように。白い戦装束の、ア―サ―によく似たあの女の子に、届くように。
こんなただの応援が、どれほどのものになるか、いや、そもそも何になるか。何にもならないかもしれない。
だが、あの子が本当に白の女神の生まれ変わりなら、きっと力になるはず。白い破魔の矢となって助けてくれた、あの子の力になるはず。
イルヴィアは祈りながら、叫んだ。
「に・ご・お! に・ご・お!」
「そぉれ、に・ご・お!」
今にも窓から飛び降りんばかりに身を乗り出して、両手の扇子でオデックが舞う。机ゴンの目の前で、イルヴィアは一歩も引かずに叫び続ける。
二人のその姿と声は小・中学校の全員の心に染み渡り、すぐにそれはヤケクソ気味の大声となって、一斉に放たれた。
「に……に、に・ご・お!」
「に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!」
机ゴンを挟んで前と後ろ、両校舎合わせて千数百名による大合唱。
「え、ええいっ! うるさいっっ!」
と机ゴンが吠えても、もう止まらない。
に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!
に・ご・お! ったら、に・ご・お!
引力による落下加速に机ゴンの魔力が加わり、星の海から流れ落ちてくる隕石もかくやというレベルにまで達した速度の机は、ア―サ―をしっかりと捕らえたまま校庭の中央に、
ズドオオオオォォォォン!
落下! その衝撃で、大きな大きなすり鉢状の穴ができた。
その中心には黒い机があり、その下にはア―サ―がいる、はずだ。埋まっているので上からは見えないが。
机ゴンは、その穴の縁まで行って覗き込み、
「……おるな」
ア―サ―がまだ机のすぐ下にいることを、匂いから確信した。
だが生きてはいるが、かなり弱っているのも確かだ。なぜなら、今紛れもなく窮地なのに動く様子がない。つまり、大ダメ―ジを負ったせいでそこから動けないのだ。
「たかがこの程度の攻撃で、そんなザマか。どうやら、まだ転生後の覚醒が完全ではないとみえる。ならば、これでトドメだ!」
机ゴンが頭を下げた。お馴染みの落雷、そして今度は今までとはケタ違いの数と勢いで、黒水晶の机が轟音地響き地鳴りを立てて降り注いだ。これはもう豪雨ではなく、雪崩だ。
すぐそばにいるイルヴィアが悲鳴を上げる。が、黒い机は穴を埋め尽くしても止まらず降り注ぎ、あっという間に校舎と同じくらいの高さの山盛りになっていった。
やがて机が止み、校舎からの声もイルヴィアの声も消えて、静寂が訪れる。
白い戦装束は、どこにも見えなかった。
「勝った……勝ったぞおおぉぉ!」
机ゴンが、勝利の雄叫びを上げた。
「もう白の女神はいない! もしまた転生するとしても、それは百年、二百年の後! その頃にはこの地上は、わしらのものだ!」
高らかに吠える吼える机ゴン。その咆哮は二つの校舎を揺るがした。
が、一番近くにいる少女には、全く効かなかった。
「……」
イルヴィアは今、拳を握り締めて机ゴンを見上げ、睨んでいる。
なぜかは解らない。自分でも「違う」と思う。思うのだが、どうしても机ゴンに対して、「あ~くんの仇!」という思いが湧いてくるのだ。
そんなイルヴィアの視線に気付いて、机ゴンがそらちを見た。目が合い視線が衝突した。
が、イルヴィアは目を逸らさない。怯えることなく、まっすぐに机ゴンを睨んでいる。
机ゴンは、フン、と鼻で笑って。
「陛下もまだ、完全には覚醒しておらぬしな。わしが手足となって働かねばならん。その為には、存分に喰って精をつけておかねばの」
机ゴンは、ぐるりと辺りを見回した。小学校、中学校、そしてイルヴィアを。
重い恐怖が、辺り一帯の空気を支配した。誰も何も言えず、動けない。
だがそんな中、白いアレが舞った!
「みんなああぁぁ――――――――っ!」
それは、白い扇子。オデックだ。
「教科書に載ってただろ! 白の女神は、人の善き心を力に換えるって!」
オデックは、懐から二つめの扇子を取り出した。一つめと同じ、白地に赤丸の扇子。オデックとっておきの、ここ一番という時にしか出さない、扇子二刀流だ。
オデックは両手に扇子を構えると、懸命に振り回しながら、叫んだ。
「だから怖がっちゃあダメだ、信じろあの子を! で何をするかというと、ここは一発みんなであの子の応援だぁ――――っ!」
「……おいおいおいおい」
思わず、机ゴンは突っ込んでしまう。
「何をホザいておる? 白の女神は既に」
「いくぞみんな! 女神二号ちぁんの応援っ!」
「だからだな。あの女はこの通り、机に潰され埋もれて死んで」
「に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!」
窓から全身を乗り出して、必死に扇子で舞いながら、オデックは歌うように叫ぶ。その顔は、思い切り叫んでいるにも関わらず、紅潮してはいない。むしろ、青白い。
ただひたすらに、怖いから。今、机ゴンが校舎に向かってきたら、自分などひとたまりもなく喰われるか、叩き潰されるかだというのが解っているから。そして今、誰もがそれと同じ思いなのは明らかだから。
だから叫んだ。舞った。そうすれば、気持ちは沈まないから。
「に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!」
「えい、鬱陶しいぞ!」
机ゴンは、イラついて怒鳴った。だがそのすぐそばからも、
「に・ご・お! に・ご・お!」
怒鳴るような少女の声、イルヴィアの声。
あの子に届くように。白い戦装束の、ア―サ―によく似たあの女の子に、届くように。
こんなただの応援が、どれほどのものになるか、いや、そもそも何になるか。何にもならないかもしれない。
だが、あの子が本当に白の女神の生まれ変わりなら、きっと力になるはず。白い破魔の矢となって助けてくれた、あの子の力になるはず。
イルヴィアは祈りながら、叫んだ。
「に・ご・お! に・ご・お!」
「そぉれ、に・ご・お!」
今にも窓から飛び降りんばかりに身を乗り出して、両手の扇子でオデックが舞う。机ゴンの目の前で、イルヴィアは一歩も引かずに叫び続ける。
二人のその姿と声は小・中学校の全員の心に染み渡り、すぐにそれはヤケクソ気味の大声となって、一斉に放たれた。
「に……に、に・ご・お!」
「に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!」
机ゴンを挟んで前と後ろ、両校舎合わせて千数百名による大合唱。
「え、ええいっ! うるさいっっ!」
と机ゴンが吠えても、もう止まらない。
に・ご・お! そぉれ、に・ご・お!
に・ご・お! ったら、に・ご・お!
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