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第一章 出会いと再会
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それからというもの大海原くんは俺に距離を置いてる感じで、居酒屋のバイト先で会っても前みたいにしつこく絡んでくる事もなくなった。
離れていくならそれまでと最初はさほど気にはしていなかったのに、最近はなんだか少し寂しい気もする…
今日、もし彼が来なければもう付きまとわれる事もないだろうし、早いところこの変な関係を終わりに出来る。
でも、もし来たら…?
利用するためとは言え、これ以上俺にこだわるような態度をされたら俺の気持ちも揺らぎかねない…
結局、今日まで一言も大海原くんから話しかけられること無く、夜のバイトに向かうことになった。
彼が来ないとなると、また今日もあのオッサンの相手をしなきゃいけなくなるという現実が待っている。
憂鬱で仕方ない気持ちを押し殺して店に向かいながら、いい加減スタッフに言わないと俺が潰れるなと思い覚悟を決めた。
「おはようございます」
「あ、将ちゃんおはよ!今日も指名入ってるよ~!最近調子いいねっ!頑張って稼いでよね~!」
「あ、あの…その指名の人なんだけど…」
「ん?何?なんか問題あんの?」
「あ、いや、ちょっと…」
「なんか初めて見る子だったけど…」
「え…?」
「若い男の子!多分初めてだと思うから優しくしてあげてね~!」
嘘だろ…?
いや待て、だだいつものオッサンじゃないだけで彼とは限らない。
けどなんなんだろうこの感情…
マジで心臓出そうなくらいドキドキしてる。
「失礼します…」
「あ、来ちゃった!」
「お前、何してんだよ…」
「何って、夏川くんが来いって言ったんじゃん」
「いや言ったけど…っ、だってお前、あれから全然絡んで来なかったし…っ」
「やぁ、何か緊張しちゃって…何話していいかわかんなかったから…っ////」
えっ、照れてる…
俺自身、来ることなく終わることを望んでもいたはずなのに、避けられてたわけじゃなかったんだっていう事実に俺の中で張り詰めてた感情が解けたのと、あのオッサンから開放された安堵感で嬉しいのかなんなのか…
とにかくよく分からない感情から、彼の笑顔を見てたらほっとして、すっと力が抜けてしまった。
「え、ちょっ…大丈夫!?」
「へ…?」
「涙…」
「んぇ?あ…っ」
自分でもよく分からないけど、目から勝手に涙がポロポロとこぼれ落ちて止まらない…
持っていたタオルで顔を隠すと、彼が俺の手に触れた。
「何か…あったんですか?」
「…っ、何もねぇよ…」
「俺で良ければ…話、聞くから」
「なんもねぇって…」
「…じゃあどうしたらいい?俺初めてでわかんないから…」
あぁ、そうだ。
そうだよな…
俺が無理やり呼び付けたんだから分からなくて当然だし、それに最初から何かする気なんてさらさらない。
ただ俺は、お前がどういうつもりなのか確かめたかっただけ。
そして、あわよくばあの男から解放してほしかっただけだから。
「あ、うん。えっと…いいよ、なんもしなくていい…俺も何もしないし、金も返すから…」
「え…っ、じゃあ、なんで呼んだの?」
「お前を試した。あぁ言えば離れてくと思ったから。それと…」
「それと?」
「いつもこの曜日のこの時間に…やばいオッサンが俺を指名してくるから、もう…っ、怖くて…っ、もしお前が来るなら会わなくて済むし、だから…っ、お前を利用した…」
「そう…だったんだ…」
「ん…でも来てくれて助かった…ありがとう。だからいてくれるだけでいい…」
俺の感情は多分もう揺らぎ始めている。
優しくしてくれただけじゃない、俺の事を理解しようとしてくれる彼のことが気になり始めてる。
だけどそれを認めたら、俺はまた―――
ただでさえ彼はこっちの人間じゃないただのノンケだろうし、気まぐれで俺に興味を持っただけなら直ぐに飽きるのだって目に見えてるのに…
俺は彼に何を期待してる?
「俺が役に立てるなら、また来週も来るから」
「いや、何言ってんの?そこまでさせられるわけないだろ?」
「ううん、俺も話したいし…」
こんな風に他人の優しさに触れたのって、いつ位ぶりだろうか。
溢れそうになる涙を必死に堪え、そっと触れられてる手を握り返し、それからベットに座り時間が来るまで色んな話をした。
今まで何人相手したとか、バイトでの辛かった事とか、彼は嫌な顔一つせず、ずっと笑顔で聞いてくれた。
そしてあっという間に時間は過ぎていって、俺たちはいつの間にか普通の友達のように話し、名前で呼び合うようになっていた。
「そろそろ時間だわ。ありがとう…心」
「名前で呼ばれるの、凄く嬉しいっ」
「なんだよそれ」
「また来週も来るから」
「いいよ、無理すんなって…」
「俺が将吾くんの事守れるならなんだってする!」
「だからさ、そういう事サラッと言うのやめて?」
後輩に守ってもらうなんてかっこ悪いし、これ以上優しくされて勘違いしたくもない。
心は俺に優しいけど、きっとそういうんじゃない。
求めて拒まれたら悲しくなるだけだろ?
「もぉ、わかんない?好きじゃなかったらこんな事しない…」
「えっ?ん…っ!?」
それは本当に一瞬だった…
気付いたら俺の目の前に心の顔があり、唇が触れていた。
何が起きてるのかどうしたらいいか分からなくて、俺は呆気に取られ身動きが取れなくて、さっきまで拒まれたら悲しいからと思ってたのに、まさか心の方からくるなんて…
「次はちゃんと教えてね♡」
心はそう言い残し、何食わぬ顔で部屋を出て行った。
好きって、あの好きって事なのか…?
俺は今後、心とどう向き合っていけばいいんだ?
ちゃんと教えてって…どういうことだよ…っ!
ドクドクと脈打つ胸をグッとつかみながら、ジワジワと溢れだしそうになる感情を必死に抑えた。
離れていくならそれまでと最初はさほど気にはしていなかったのに、最近はなんだか少し寂しい気もする…
今日、もし彼が来なければもう付きまとわれる事もないだろうし、早いところこの変な関係を終わりに出来る。
でも、もし来たら…?
利用するためとは言え、これ以上俺にこだわるような態度をされたら俺の気持ちも揺らぎかねない…
結局、今日まで一言も大海原くんから話しかけられること無く、夜のバイトに向かうことになった。
彼が来ないとなると、また今日もあのオッサンの相手をしなきゃいけなくなるという現実が待っている。
憂鬱で仕方ない気持ちを押し殺して店に向かいながら、いい加減スタッフに言わないと俺が潰れるなと思い覚悟を決めた。
「おはようございます」
「あ、将ちゃんおはよ!今日も指名入ってるよ~!最近調子いいねっ!頑張って稼いでよね~!」
「あ、あの…その指名の人なんだけど…」
「ん?何?なんか問題あんの?」
「あ、いや、ちょっと…」
「なんか初めて見る子だったけど…」
「え…?」
「若い男の子!多分初めてだと思うから優しくしてあげてね~!」
嘘だろ…?
いや待て、だだいつものオッサンじゃないだけで彼とは限らない。
けどなんなんだろうこの感情…
マジで心臓出そうなくらいドキドキしてる。
「失礼します…」
「あ、来ちゃった!」
「お前、何してんだよ…」
「何って、夏川くんが来いって言ったんじゃん」
「いや言ったけど…っ、だってお前、あれから全然絡んで来なかったし…っ」
「やぁ、何か緊張しちゃって…何話していいかわかんなかったから…っ////」
えっ、照れてる…
俺自身、来ることなく終わることを望んでもいたはずなのに、避けられてたわけじゃなかったんだっていう事実に俺の中で張り詰めてた感情が解けたのと、あのオッサンから開放された安堵感で嬉しいのかなんなのか…
とにかくよく分からない感情から、彼の笑顔を見てたらほっとして、すっと力が抜けてしまった。
「え、ちょっ…大丈夫!?」
「へ…?」
「涙…」
「んぇ?あ…っ」
自分でもよく分からないけど、目から勝手に涙がポロポロとこぼれ落ちて止まらない…
持っていたタオルで顔を隠すと、彼が俺の手に触れた。
「何か…あったんですか?」
「…っ、何もねぇよ…」
「俺で良ければ…話、聞くから」
「なんもねぇって…」
「…じゃあどうしたらいい?俺初めてでわかんないから…」
あぁ、そうだ。
そうだよな…
俺が無理やり呼び付けたんだから分からなくて当然だし、それに最初から何かする気なんてさらさらない。
ただ俺は、お前がどういうつもりなのか確かめたかっただけ。
そして、あわよくばあの男から解放してほしかっただけだから。
「あ、うん。えっと…いいよ、なんもしなくていい…俺も何もしないし、金も返すから…」
「え…っ、じゃあ、なんで呼んだの?」
「お前を試した。あぁ言えば離れてくと思ったから。それと…」
「それと?」
「いつもこの曜日のこの時間に…やばいオッサンが俺を指名してくるから、もう…っ、怖くて…っ、もしお前が来るなら会わなくて済むし、だから…っ、お前を利用した…」
「そう…だったんだ…」
「ん…でも来てくれて助かった…ありがとう。だからいてくれるだけでいい…」
俺の感情は多分もう揺らぎ始めている。
優しくしてくれただけじゃない、俺の事を理解しようとしてくれる彼のことが気になり始めてる。
だけどそれを認めたら、俺はまた―――
ただでさえ彼はこっちの人間じゃないただのノンケだろうし、気まぐれで俺に興味を持っただけなら直ぐに飽きるのだって目に見えてるのに…
俺は彼に何を期待してる?
「俺が役に立てるなら、また来週も来るから」
「いや、何言ってんの?そこまでさせられるわけないだろ?」
「ううん、俺も話したいし…」
こんな風に他人の優しさに触れたのって、いつ位ぶりだろうか。
溢れそうになる涙を必死に堪え、そっと触れられてる手を握り返し、それからベットに座り時間が来るまで色んな話をした。
今まで何人相手したとか、バイトでの辛かった事とか、彼は嫌な顔一つせず、ずっと笑顔で聞いてくれた。
そしてあっという間に時間は過ぎていって、俺たちはいつの間にか普通の友達のように話し、名前で呼び合うようになっていた。
「そろそろ時間だわ。ありがとう…心」
「名前で呼ばれるの、凄く嬉しいっ」
「なんだよそれ」
「また来週も来るから」
「いいよ、無理すんなって…」
「俺が将吾くんの事守れるならなんだってする!」
「だからさ、そういう事サラッと言うのやめて?」
後輩に守ってもらうなんてかっこ悪いし、これ以上優しくされて勘違いしたくもない。
心は俺に優しいけど、きっとそういうんじゃない。
求めて拒まれたら悲しくなるだけだろ?
「もぉ、わかんない?好きじゃなかったらこんな事しない…」
「えっ?ん…っ!?」
それは本当に一瞬だった…
気付いたら俺の目の前に心の顔があり、唇が触れていた。
何が起きてるのかどうしたらいいか分からなくて、俺は呆気に取られ身動きが取れなくて、さっきまで拒まれたら悲しいからと思ってたのに、まさか心の方からくるなんて…
「次はちゃんと教えてね♡」
心はそう言い残し、何食わぬ顔で部屋を出て行った。
好きって、あの好きって事なのか…?
俺は今後、心とどう向き合っていけばいいんだ?
ちゃんと教えてって…どういうことだよ…っ!
ドクドクと脈打つ胸をグッとつかみながら、ジワジワと溢れだしそうになる感情を必死に抑えた。
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