3 / 3
第三章・永遠なるタガイー魔剣士・デュラハンー
しおりを挟む
カッシムは妻・シホリーの18歳の誕生日に花束をプレゼントした。妻は少女に戻って喜んだが、これを機会に一つの疑問を夫に投げかけた。それは本物のカッシムは既に亡く別の男の魂に乗り移っていることだった。シホリーは弦のないヴィオラを携えてカッシムに差し出した。
(しまった!あの時に気付いていたのか。)
入れ替わったカッシムは花散ら士として戦略部隊で戦略アプリの開発を行なっていた。この時代はもっぱら人形を操るかの如く、サックがついた紐を使ってプログラミングを行う。ある時、 プログラム操作に必要なピアノ線が切れた。 仕方がないので男は手近にあったバヴィオラの弦を使用して操作キーを修復した。
シホリーはその様子を見て数秒止まっていたことをカッシムに成り代わった男は気づいていなかった。
シホリーと出会った当時、ヴィオラの音色で花を愛でていたあの頃の夫はもういなかった。
「ずっと知っていたわ。老師が死ぬ間際に魔術でカッシムに移り変わる瞬間を。あなたはその時の老師では?ってね。」
「知っていて何故俺を恐れない。」
「あなたは永遠にいきる術がある。あなたの持つ永遠に比べたら、若い命なんてつまらないものだわ。」
カッシムは妻がなぜそんな発言に至ったのか理解に苦しんだ。永遠の愛を誓った相手が別人と分かったとしても悲しむ素振りを見せない女の業を恐ろしいとさえ感じていた。
とはいえ、成り代わったカッシムはシホリーを幸せにする自信はあった。花散ら士としての戦略システムの構築。トリアージ国では戦略に必要なアプリ内に、2,300通り以上存在している。カッシムはその戦略に新たなルートを構築して城主にコーチングする。戦略の一覧をみるとどれも自分が転生する度に構築したものばかりだ。そしてその度に手柄をたてて人生を満足に全うする。家族にとっては家族ではないが皆満足のいく暮らしを提供できた。
今回の妻のシホリーも日に日に笑顔を見せることが増えてきた。慣れない社交会のダンスも次第にこなれるようになっていく。この日はシホリーのステップに周囲の高官は皆目を見張っている。こんな生活は元のカッシムが一介の剣士からここまで成り上がることは想像つかないことだろう。
こうして老師は数千年の時を見守っていた。移し代わった男たちの魂がどうなったのか解らない。知ったことではない。
しかしこの日の深夜に恐るべき相手がトリアージ国に攻め入ってきた。デュラハンである。首のない魔人は永遠を生きる人間には天敵だ。
(もしかするとこれらの兵団はかつて入れ替わりの秘術でこの世をさったものたちか?)
そう思うと戦場の指揮にも熱が入る。社交会場に非常事態のアラートが各花散ら士隊のウォッチに鳴り響き、それを受けて武装した隊員たちが、礼服の高官と入れ替わる形で続々と入ってきて鎧の壁となった。
「通常の斬撃は効果がない。魔術師を前面に出して呪術払いを行うのだ。火炎放射隊は援護に回れ!」
カッシムの指示を受けた部隊長のゲキが飛ぶ。パーティー会場の広間を呪術部隊、両側のテラスには火炎放射部隊と銃剣部隊がそれぞれの武器を構える。
デュラハンの部隊はおよそ30体。100名を超える花散ら士の舞台としては防ぎ切ることのできる数である。しかし、ここでは鍵となる呪術部隊が覚束なかった。デュラハンの呪術を解く呪文を知らぬもの。首のない異様な兵士の姿に恐れをなして逃げ出すもの。呪術レベルが低いために結果剣戟となり、デュラハンの刀のサビになるもの、援護の銃撃部隊に誤射されるものなど、戦果は燦々たるものだった。テラスの火炎放射隊も敵が投げ飛ばした首の見開いた眼から放たれるレーザー光線に焼殺される。それでも火炎放射器の燃液が漏れたことで会場内いっぱいに爆破の衝撃が広がり魔物側もまた多くが焼失した。
残ったデュラハンはついに高官らが匿われている最上階の執務室にやってきた。残った敵は2体となったが、彼らは戦うことの知らない高官たちの悲鳴は誰よりも大きなものであった。
「全く、戦闘部隊は何をしているんだ。」
カッシムは思わず吐露した言葉をそばにいたシホリーは聞き逃さなかった。
(確かにこの男はかつてのカッシムとは違うのね・・・。)
守備役の部隊長は即座に敵との間合いに迫り抜刀して一体を両断するが、それに集中するだけで敵の首に殻発するレーザーに目を焼き切られる。
「グアーーーッ。」
さらに抵抗できないものたちは一人、またひとりとデュラハンの餌食となった。カッシムもその一人となったが、幸いにも急所を外していた。「グホッ、グホッ。」と鈍い咳を繰り返すほど、デュラハンたちはその男に目をつけて剣を構えた。
しかし、その執行は叶わなかった。背後からの銃撃がデュラハンの首を撃ち抜く音を響かせる。そこには一人の銃剣士が怪物の前に立ちはだかった。イロスというこの青年もまた先の爆破で既に体は黒焦げだった。青年はそれでも周囲を見回して一人息があるシホリーを目視した。
「大丈夫ですか?」
シホリーにはそれが一瞬、救世主の声にも聞こえた。しかし、首を失ったデュラハン身体はその矛先を変えてイロスに向かっていった。イロスも銃剣を身構えて必死の打突を試みる。結果は双方の刃はお互いの身体を貫き、どちらも同時に倒れ込んだ。
それと同時に立ち上がった男がいる。カッシムだ。
カッシムは瀕死の最中、そばにいたイロスに目をつけた。次の肉体を必要としていたからだ。しかし、シホリーはイロスの銃剣を手に力いっぱいに剣先をカッシムの心臓を突いた。
「!?・・・シホリー何を・・・。」
「あなたは変わってしまったわね・・・。」
カッシムはその時、単に妻の浮気心を恨んだ。
「あなたは命を繰り返す度に人ではなくなったようね。だから終わらせてあげる。最後は人としてね!」
女は永遠の命を持つ怪物を殺めた。魂を失ったカッシムは紛う事なきシホリーの最愛の存在である。洋館の広間の真ん中で、はじめて若き亭主を失ったことにひとり涙した。
-第三章・終-
(しまった!あの時に気付いていたのか。)
入れ替わったカッシムは花散ら士として戦略部隊で戦略アプリの開発を行なっていた。この時代はもっぱら人形を操るかの如く、サックがついた紐を使ってプログラミングを行う。ある時、 プログラム操作に必要なピアノ線が切れた。 仕方がないので男は手近にあったバヴィオラの弦を使用して操作キーを修復した。
シホリーはその様子を見て数秒止まっていたことをカッシムに成り代わった男は気づいていなかった。
シホリーと出会った当時、ヴィオラの音色で花を愛でていたあの頃の夫はもういなかった。
「ずっと知っていたわ。老師が死ぬ間際に魔術でカッシムに移り変わる瞬間を。あなたはその時の老師では?ってね。」
「知っていて何故俺を恐れない。」
「あなたは永遠にいきる術がある。あなたの持つ永遠に比べたら、若い命なんてつまらないものだわ。」
カッシムは妻がなぜそんな発言に至ったのか理解に苦しんだ。永遠の愛を誓った相手が別人と分かったとしても悲しむ素振りを見せない女の業を恐ろしいとさえ感じていた。
とはいえ、成り代わったカッシムはシホリーを幸せにする自信はあった。花散ら士としての戦略システムの構築。トリアージ国では戦略に必要なアプリ内に、2,300通り以上存在している。カッシムはその戦略に新たなルートを構築して城主にコーチングする。戦略の一覧をみるとどれも自分が転生する度に構築したものばかりだ。そしてその度に手柄をたてて人生を満足に全うする。家族にとっては家族ではないが皆満足のいく暮らしを提供できた。
今回の妻のシホリーも日に日に笑顔を見せることが増えてきた。慣れない社交会のダンスも次第にこなれるようになっていく。この日はシホリーのステップに周囲の高官は皆目を見張っている。こんな生活は元のカッシムが一介の剣士からここまで成り上がることは想像つかないことだろう。
こうして老師は数千年の時を見守っていた。移し代わった男たちの魂がどうなったのか解らない。知ったことではない。
しかしこの日の深夜に恐るべき相手がトリアージ国に攻め入ってきた。デュラハンである。首のない魔人は永遠を生きる人間には天敵だ。
(もしかするとこれらの兵団はかつて入れ替わりの秘術でこの世をさったものたちか?)
そう思うと戦場の指揮にも熱が入る。社交会場に非常事態のアラートが各花散ら士隊のウォッチに鳴り響き、それを受けて武装した隊員たちが、礼服の高官と入れ替わる形で続々と入ってきて鎧の壁となった。
「通常の斬撃は効果がない。魔術師を前面に出して呪術払いを行うのだ。火炎放射隊は援護に回れ!」
カッシムの指示を受けた部隊長のゲキが飛ぶ。パーティー会場の広間を呪術部隊、両側のテラスには火炎放射部隊と銃剣部隊がそれぞれの武器を構える。
デュラハンの部隊はおよそ30体。100名を超える花散ら士の舞台としては防ぎ切ることのできる数である。しかし、ここでは鍵となる呪術部隊が覚束なかった。デュラハンの呪術を解く呪文を知らぬもの。首のない異様な兵士の姿に恐れをなして逃げ出すもの。呪術レベルが低いために結果剣戟となり、デュラハンの刀のサビになるもの、援護の銃撃部隊に誤射されるものなど、戦果は燦々たるものだった。テラスの火炎放射隊も敵が投げ飛ばした首の見開いた眼から放たれるレーザー光線に焼殺される。それでも火炎放射器の燃液が漏れたことで会場内いっぱいに爆破の衝撃が広がり魔物側もまた多くが焼失した。
残ったデュラハンはついに高官らが匿われている最上階の執務室にやってきた。残った敵は2体となったが、彼らは戦うことの知らない高官たちの悲鳴は誰よりも大きなものであった。
「全く、戦闘部隊は何をしているんだ。」
カッシムは思わず吐露した言葉をそばにいたシホリーは聞き逃さなかった。
(確かにこの男はかつてのカッシムとは違うのね・・・。)
守備役の部隊長は即座に敵との間合いに迫り抜刀して一体を両断するが、それに集中するだけで敵の首に殻発するレーザーに目を焼き切られる。
「グアーーーッ。」
さらに抵抗できないものたちは一人、またひとりとデュラハンの餌食となった。カッシムもその一人となったが、幸いにも急所を外していた。「グホッ、グホッ。」と鈍い咳を繰り返すほど、デュラハンたちはその男に目をつけて剣を構えた。
しかし、その執行は叶わなかった。背後からの銃撃がデュラハンの首を撃ち抜く音を響かせる。そこには一人の銃剣士が怪物の前に立ちはだかった。イロスというこの青年もまた先の爆破で既に体は黒焦げだった。青年はそれでも周囲を見回して一人息があるシホリーを目視した。
「大丈夫ですか?」
シホリーにはそれが一瞬、救世主の声にも聞こえた。しかし、首を失ったデュラハン身体はその矛先を変えてイロスに向かっていった。イロスも銃剣を身構えて必死の打突を試みる。結果は双方の刃はお互いの身体を貫き、どちらも同時に倒れ込んだ。
それと同時に立ち上がった男がいる。カッシムだ。
カッシムは瀕死の最中、そばにいたイロスに目をつけた。次の肉体を必要としていたからだ。しかし、シホリーはイロスの銃剣を手に力いっぱいに剣先をカッシムの心臓を突いた。
「!?・・・シホリー何を・・・。」
「あなたは変わってしまったわね・・・。」
カッシムはその時、単に妻の浮気心を恨んだ。
「あなたは命を繰り返す度に人ではなくなったようね。だから終わらせてあげる。最後は人としてね!」
女は永遠の命を持つ怪物を殺めた。魂を失ったカッシムは紛う事なきシホリーの最愛の存在である。洋館の広間の真ん中で、はじめて若き亭主を失ったことにひとり涙した。
-第三章・終-
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
隷属の勇者 -俺、魔王城の料理人になりました-
高柳神羅
ファンタジー
「余は異世界の馳走とやらに興味がある。作ってみせよ」
相田真央は魔王討伐のために異世界である日本から召喚された勇者である。歴戦の戦士顔負けの戦闘技能と魔法技術を身に宿した彼は、仲間と共に魔王討伐の旅に出発した……が、返り討ちに遭い魔王城の奥深くに幽閉されてしまう。
彼を捕らえた魔王は、彼に隷属の首輪を填めて「異世界の馳走を作れ」と命令した。本心ではそんなことなどやりたくない真央だったが、首輪の魔力には逆らえず、渋々魔王城の料理人になることに──
勇者の明日はどっちだ?
これは、異世界から召喚された勇者が剣ではなくフライパンを片手に厨房という名の戦場を駆け回る戦いの物語である。
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~