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◆epilogue◆

それぞれの道

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 あの戦いから約半年。
 瓦礫の山と化した帝都の王城は未だにその瓦礫のままだけど、そろそろ建て直しが予定されているらしい。

 皇帝ガナドールは一度はその座を降りることを決意したけど、それはユーディットをはじめ、サンセール団長やグリモア博士にも説得されたことで取り敢えずは留まることになった。
 でも、ゆくゆくは皇帝の座を降りるつもりらしい。これからは力や才能を重視しない世界になるのだから、とうの昔に諦めてしまった「好きなこと」をやりたい、とのこと。

 その好きなことを聞いてみると「歴史学」と言った。
 ガナドールは小さい頃から古いものに興味を持ってきたらしく、これまでの歴史を色々と学び、調べたいんだそうだ。皇帝が神竜の紋章とか知ってたのは、そういう理由があったんだろうなぁ。……もしかして、人様のものを横取りするのが好きなところも、古いものが好きだからなんだろうか。


 ユーディットは、これまで一度たりとも皇帝を好きになったことがないと言ってたけど、離婚はせずに皇帝の傍に留まるそうだ。皇帝がその座に留まるのだから、今後のことはわからなくても皇妃である自分が、彼に全てを押しつけて逃げ出すわけにはいかないと言っていた、なんとも彼女らしい。

 これまで力と才能が絶対な世界だったのが、いきなり神が降臨し、今後は才能などに関係ない世界になっていけるように――なんて方向に変わり始めたものだから、それに戸惑い反発する人間は決して少なくない。特に力のある者こそそうだ。
 ガナドールとユーディットは、そんな反発する者たちを力で捩じ伏せることはなく、根気強く対話で解決を図っている。まだまだ時間はかかりそうだけど、きっといつかわかってくれる日がくるだろう。


 サンセール団長は、そんなふたりを傍で支えるために帝都に腰を落ち着けた。もちろんスターブルからウラノスのメンバーを呼びつけて。
 当初はガナドールに代わってサンセール団長が皇帝に、という話が出たけど、当の団長は「そんな柄じゃない!」と必死になって断っていた。まあ、そりゃそうだよなぁ。

 現在は合流したウラノスのメンバーと共に、スターブルにいた頃と変わらない働きをしている。つまり、帝都に住んでいる人たちの話をよく聞き、どうすれば住みやすいか、暮らしやすいかを考えて動いてるというわけだ。まるで自警団みたいな。


「団長にも困ったものだわ」


 副団長のエレナさんが心底困り果てたようにそう言ってたけど、彼女は彼女で満更でもない顔をしていた。


 グリモア博士は、どうやら最後のあの戦いで随分と無茶をしたらしく、しばらくの安静が必要とのことだった。
 そういえば、これを使ったらしばらく動けなくなるとかなんとか言ってたっけ。てっきり数時間くらいのものかと思ってたけど――今も顔を見せないというのはさすがに心配になる。一応、近いうちに様子を見に行った方がいいかもしれない。


 ヘールさんとシファさん夫婦は、今後も変わらずガナドールとユーディットの傍でふたりに協力していくそうだ。ずっと会いたかっただろう愛娘と再会できたふたりは、それはそれは見ている方が幸せになるくらいに嬉しそうで、幸せそうだった。
 きっとあの夫婦は、帝都の人たちに多くの良い影響を与えるだろう。


 マリーたちは、それぞれ北の大陸にある自分たちの故郷に帰っていった。これからはきっと自分たちみたいな凡人オルディも生きやすい世の中になるはずだ、って期待に胸を膨らませて。
 ベイリーは最後までオレに申し訳なさそうにしてたけど、突き落としたことはもういいんだって。……そういうところが、彼女のいいところでもあるんだろうけどさ。


 ヘクセたち元ウロボロスの面々は、そのまま今度は女性だけのクランを新しく立ち上げ、各地を転々と旅して回るらしい。あちこちで困っている人たちの依頼を聞きながら――つまり、これまでと変わらない。
 変わった部分があるとすれば、いつだって彼女たちの中心にあった「いつかマックに選ばれたい」という欲がなくなって、純粋に人の役に立ちたいと思うようになったことくらいだろう。

 後から聞いた話だけど、帝都に襲撃する際に都を包囲していた人の群れは、彼女たち元ウロボロスのメンバーが魔術で作り出してくれた影だったそうだ。だよなぁ、セプテントリオンにはあんなに人いなかったもんな、不思議だったんだよ。

 ヘクセたちのことを好きか嫌いかと言われれば、そりゃあまだ微妙なところだけど、それもこれも全部これから変わっていける。次に彼女たちに会った時は、普通に友人……いや、まずは知人くらいからスタートできればいい。


「リーヴェさあぁん」
「はいよ、どうしたお嬢様」


 そこで意識を引き戻すと、少し先でフィリアが可愛らしい顔をむくれさせていた。あれこれ考えごとして上の空だったから、お怒りを買ってしまったらしい。こりゃご機嫌取りが大変そうだ。


「せっかく帝都に遊びにきてくれたのに、全然私のお話聞いてないんですもん!」
「悪かったよ、色々あったな~って感傷に浸ってたのさ」


 王城はメチャクチャでも、街の方には被害が出なかったお陰で都は人で賑わっている。
 少しずつ世界の方向転換の影響が出てきてるのか、まるで帝国領の外の街みたいに楽しげな雰囲気が漂っていた。初めてアインガングの街中を見た時は、子供も笑ってなくて嘘だろと思ったもんな、やっぱこうやって賑わってる方が全然いいよ。時には静かな方が有難かったりもするんだけどさ。

 フィリアの傍に寄ると、むくれていた顔もすぐににこりと綻んだ。そのまま手を取ってきたから、石畳の道をふたりで並んで歩く。


 ――オレたち『ラピス』は、解散こそしてないけど、今はそれぞれ別々に暮らして活動している。

 フィリアはこうして帝国領に戻ったし、サクラも何か役に立てることがあるかもしれないと、この帝都に居を構えた。
 エルとディーアは、今はふたりで組んで各地を旅して回っている。ヴァージャ曰く、エルは既に薬の知識こそ医者顔負けレベルだそうだけど、これからは実際に様々な患者を診て経験を積んだ方がより勉強になる、とのことだ。ディーアは元々あちこち旅していたわけだし、まだ子供のエルの保護者兼仲間として同行している。まあ、あのふたりなら何だかんだ面白おかしくやってることだろう。

 あの最後の戦いから――世界の滅亡間近から、既に半年。時間の流れは早いもんだ。
 今は青々としてて綺麗なこの空が、半年前に真っ赤に染まったなんて信じられないな。
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