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第二章:ウラノスとウロボロス

与える者《グレイス》

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 孤児院へと戻る道すがら、さっきのことを何度も思い返してみる。
 未だに自分に力があるなんて半信半疑ではあるんだけど、都合のいい頭はもう半分以上その力のことを信じ始めていた。

 ……家族愛も確か発動条件みたいなやつに入ってたな。友愛、恋愛、家族愛……なんか妙に納得したかもしれない。孤児院の連中はオレにとっては家族も同然だ。


「……けど、なんか地味だよなぁ。力っていうと目に見えるものだったり派手なイメージがあるからさ、どうせならもっとこう……戦える力の方がよかったな」


 せめて自分で自分を守れるくらいの力はほしかったよなぁ。オレに地味な力があるのはわかったけど、でも今まで通り最弱なのはやっぱ変わらないわけで。マックほどとは言わなくても、自分にとっての大事なものを守れるくらいの力はほしかったなと思うよ。そうすりゃ神さまに色々面倒かけることもないんだし。


「そうだろうか。私はお前がグレイスでよかったと思っている」
「……なんで?」
「先ほどのやり取りを見ていて思った、お前には他者を傷つけるような力は似合わん。慈しむ方が遥かに適している」


 ……そう、かなぁ。神さまが言うならそうなのかもしれないけど、それにしてもコイツ、よくそんな聞いてる方が恥ずかしくなるようなことサラッと言えるよな。

 孤児院に続く通りの裏道を歩きながら、改めて自分の手の平をなんとなく眺めてみる。地味ではあるんだけど、まあ……使い方次第では普通に幸せな力だよな。効果の届かない範囲の連中にしてみれば、インチキみたいで腹立つかもしれないけど。


「そうだ、だから今はその力のことを決して口外しない方がいい」
「……やっぱり? 逆恨みされてボッコボコにされそうなんだよな」
「それもあるが……今の世の中では、どのようなことに巻き込まれるか分からん。この話が広まれば、力を欲する者がグレイスたちの奪い合いを始めるだろう」


 グレイスたち? ってことは、他にもこの力を持ってるやつがいるのか。……確かに、強いやつが偉いっていう今のこの世界じゃ、強くなれるものがあるなら是が非でも手に入れようとあちこちで争いが起きそうだな。


「お前のように無能と蔑まれている者たちがそうだな。元来、人には得手不得手があって当然なのだ、それを今の人間たちは全てに於いて優れていなければ落ちこぼれだと決めつけている。人が人に助けられ、支えられることを善しとせず恥とさえする」
「……うん」
「お前には確かに戦う力はないかもしれん。だが、その代わり他者に心を割くだけの思いやりがある。それこそがグレイスの能力をより高めるものでもあり、私を含め多くの者の支えともなる」


 ……ってことは、この力がバレたら世界各地にいるだろう無能たちが奪い合われるのか。どれだけ嫌でも戦う力を持ってないから抵抗なんてできないだろうし、思ってる以上にひどい状態になりそうだな。オレだってもしバレたらどんなことになるか……ちょっと想像しただけでゾッとする。今日は穏やかな気候のはずなのに冷水でもぶちまけられたような寒気を感じた。


「心配しなくていい、どのような者が現れてもお前のことは誰にも渡さん。だから、極力私の傍を離れるな」
「…………あのさぁ。そういうこと、その気がないなら女の子に対しては絶対言うなよ……一発で撃沈するぞ……」


 オレには決してそんな趣味はないんだけど、あるはずないんだけど、いくらその気がなくてもこんなとびきりのイケメンにちょっと微笑まれた上でハッキリそんなことを言われたら言葉に詰まるなってのが無理なわけで。オマケにちょっとドキッとしちゃったのがメチャクチャ恥ずかしいしムカつくし、……結局苦しまぎれにそう返すのが精いっぱいだった。

 見えてきた孤児院の門の前では、ミトラがこちらに向かって手を振っている。アンが戻ってきたことにすっかり安心したらしく、その顔には嬉しそうな笑みさえ浮かべて。不意打ちを喰らって少し赤くなってるだろうこんな顔を見られたら余計な詮索をされかねない、それは困る。

 隣を歩く神さまをひと睨みしてから、平静を取り戻すことに努めた。あまり効果はなさそうだったけど。
 不意打ちでああいうこと言うのもやめろって、後で言っておこう。

 それにしても、人が人に支えられ、助けられる、か。いつかそんな世界になってくれたらいいんだけどな。
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